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第四十五話 Aランクへの昇格

生きて帰りたいとの強い思いから起死回生の一撃をドラゴンに見舞い、無事討伐に成功したパールだが魔力の枯渇により倒れてしまう。屋敷で目覚めたパールは戦いの最中に湧きあがった想いをアンジェリカとアリアに伝えた。その言葉にアンジェリカは心が震え、優しくパールを抱きしめたのであった。

冒険者たちにとって、ギルドのなかが騒々しいのはいつものことである。


特に、朝と夕方の時間帯は多くの冒険者が集まるため、ちょっとした小競り合いが起きるケースも珍しくない。そんな荒々しく騒々しい様子も、ギルドに集まる冒険者たちにとっては日常的な光景であった。


リンドルの冒険者ギルドとて例外ではないのだが、この日だけは様子が違う。


まるで時が止まったかのような静寂が支配する空間のなかで、冒険者たちが小声でささやき合う声がわずかに響く。


冒険者だけでなく、業務で忙しいはずの受付嬢までが目を丸くしてある一点を見つめていた。


ギルド内の皆が視線を向ける先にあるのは、パールに跪くサドウスキーの姿。



「パール様。俺が絶対にあなたのことを生涯かけて守ります。どうか、俺をあなたのそばにいさせてください」


まるで求婚するかのような言葉をのたまうサドウスキー。彼にとって、パールは危険を顧みず命を助けてくれた恩人であり、生涯をかけて尽くしたいと誓う相手であった。


だが、そのようなこと周りの冒険者や受付嬢が知る由はない。


いい年したいかつい巨体の男が六歳の女児に求婚しているようにしか見えないのだ。


まるで事案、もとい地獄のような光景である。


いきなりワケの分からない告白をされたパールは目をぱちくりさせている。


「あのとき、俺がパール様と一緒に行かせてほしいと願ったとき、あなたは何も言わなかった。あれは、よい返事と受け取っていいんですよね?」


いや、なぜそうなった。ていうかあのときってどのとき? いったい何の話してるの?


「えーと。いったい何の話でしょうか……?」


素直な疑問をぶつけてみる。


「ドラゴンのブレスから俺を守ってくれたときです!」


ああ……。そういやサドウスキーさん何か変なこと言っていたような。正直、魔法に集中していたからあまり覚えてないんだよね。


「ご、ごめんなさい……。あのときのことあまり覚えていなくて」


「そ……そんな……!」


うーん、申し訳ないけど本当によく覚えてない。だってめちゃくちゃ集中してたんだもん。


でも、何となくイラっとした記憶はあるようなないような……。


「俺は絶対に諦めません!あなたのことは生涯をかけて俺が守ると決めたんです!」


必死な様子のサドウスキーにパールの頬が引き攣る。同時に冒険者や受付嬢たちの顔も引き攣る。


何かきもい。


サドウスキーが聞いたら卒倒しそうなことを内心思いつつ、引き攣った作り笑いで場をごまかそうとする。


「わ、私ギルドマスターさんに呼ばれているんでまた今度! ごめんなさい!」


パールは頭を下げると急いでギルドマスターがいる執務室に向かう。


残されたサドウスキーはまだ跪いたままだ。


「おい、あれって振られたのか……?」


「そうじゃないか? いくら何でも年の差ありすぎだろ……」


「ていうか犯罪だろあれ・・・お嬢が危ねぇ。誰か衛兵に連絡するか?」


「それより、アンジェリカ様が知ったらあいつ消されるんじゃないか……?」


事情を知らない冒険者たちは遠巻きにサドウスキーを見ながら好きにささやき合った。


Aランカーゆえに畏敬の念を抱いていた受付嬢たちも、今はまるで虫を見るような視線をサドウスキーに向けている。


のちにパールの忠剣と呼ばれることになるサドウスキーの試練は、まさに今日このときから始まったのであった。



「失礼します!」


「パール様、おはようございます。何やら今日はホールが静かでしたが、冒険者の数が少ないのでしょうか?」


「いえ……、いつも通りだと思います」


思わず引き攣った苦笑いが浮かぶ。


「そうですか。まあいいでしょう。パール様、昨日はドラゴンを討伐し街を守ってくださり、本当にありがとうございました」


ギルドマスターのギブソンは座ったまま丁寧に頭を下げた。


「いえいえ!私だけの力じゃありませんし!お姉ちゃんや冒険者さんたちが協力してくれたから何とかなったんですよ」


「それでも、パール様が的確な指示を出してくれたおかげで、街や人々にもほとんど被害がありませんでした」


そっか。私は倒れてそのまま屋敷に運ばれちゃったから知らなかったけど、街の人たちも無事だったんだ。よかった。


今さらながらほっとしたパールはそっと小さく息を吐いた。


「それと、ドラゴンの素材はギルドが買い取ることになったので、後日パール様には討伐報酬と素材の売却代金をお支払いいたします。金額が金額なので、今度アンジェリカ様においでくださるようお伝えしていただけますか?」


へえー。そうなんだ。


「あ、はい。その報酬って、キラちゃんやほかの冒険者さんたちにも出るんですよね?」


さすがに私一人でもらうのは心苦しい。


「もちろんです。ドラゴンの討伐に関わった者には全員報酬が出ますので、安心してください」


「そうですか。分かりました。ありがとうございます」


「それともう一つ……」


ん?何だろう?


「パール様はAランクに昇格してもらいます」


「へ?」


驚いて思わず変な声出ちゃったじゃない。え、どういうこと? 私がAランク? それってあのきもい── じゃなくてサドウスキーさんと同じランクだよね。


「本来は、実績を積んだうえで昇格試験を受けなくてはならないのですが、パール様の判断力と戦闘力はすでにAランクと同等……。それ以上と言っても過言ではありません」


いや、そんなことないでしょ。私まだ六歳児よ?


「というわけで、これが新しいギルドカードです」


ギブソンは一枚のカードを懐から取り出すと、パールの前に差し出した。


おー、何かキラキラしてる。


「今後、今まで以上に難易度が高い案件をお願いすることがあるかもしれませんが……」


「はい。ただ、私はいいんですが、あまり危険な依頼はママが……」


「そのときは、私もアンジェリカ様にお願いしますので」


それは助かるかも。ただ、昨日のことがあるししばらくは危険な依頼とか無理だろうなー。


私もママにあまり心配かけたくない気持ちもあるし。


「分かりました。話はこれで終わりですか?」


「はい。わざわざご足労いただきありがとうございました」


じゃあ帰ろうかな。お姉ちゃんはそろそろ戻ってくるかな?


今日はギルドマスターと話をするだけだとアリアには伝えてある。


そのため、アリアはパールの用事が終わるまで街中を散策しているのだ。


どんな依頼があるのか一応見ておこうかなー、と思ったパールであったが、サドウスキーのことを思い出してやめた。


ちょっときもくてしつこい屈強なAランク冒険者。パールのなかでサドウスキーの情報は完全に書き換えられた。


なお、彼はこの日以降、冒険者や受付嬢たちから小児性愛者疑惑をもたれ続けるのであった。


試練である。


お読みいただきありがとうございました!

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