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第四十二話 初めての共同作業

獣人族の襲撃は退けられたが、アンジェリカとソフィアは王国内に内通者がいる可能性が高いと判断する。一方、リンドルではパールが冒険者たちへ講習最終日の指導を行っていた。濃い三日間を思い返していたそのとき、街が騒がしいことに気づきキラたちとともに現場へ向かう。そこで目にしたのは上空からリンドルを見下ろす巨大なドラゴンであった。

そのとき、誰もが大地と空気の震えを感じた。


首都リンドルの上空に現れた空の支配者。


食物連鎖の頂点に君臨する竜種は、疑うべくなくこの世界における最強種族の一つである。



「なぜドラゴンが……!」


「……もうこの街は終わりだ」


唖然とする者、驚愕する者、絶望する者など人々の反応はさまざまだ。たしかに、この大きさのドラゴンが本気で暴れたとなればリンドルに明日は来ないだろう。


「──あれって、本物のドラゴンだよね?」


ママやフェルさんに読んでもらった本では見たことがある。でも、これほど巨大で圧倒的な存在感を放つ生き物だなんて知らなかった。


「……ああ。これはまずいぞ」


過去にドラゴンとの戦闘経験があるのか、キラが深刻そうな顔で呟く。


たしかに、アレを見てまずくないと思う者はいないだろう。ドラゴンはそう思わせるだけの恐怖を空から撒き散らしている。


ママがいてくれたら……!


ママならきっとドラゴンなんて簡単に倒してくれるのに……。


真祖であるアンジェリカから手ほどきを受け、冒険者としての経験も積んだパールであったが、これまで直面したことのない恐怖に足が震えた。


あんなの── 私じゃ勝てないよ。


何か無性に悔しくなって涙が零れ落ちそうになった。


「パール!!」


名前を呼ばれ振り返ると、転移でやってきたアリアがいつもとは違う面持ちでパールに視線を向けていた。


「お姉ちゃん……」


「いったい何をしているの、パール?一時的とはいえ、あなたは冒険者たちの先生なのでしょう?」


──そうだ。このままじゃ冒険者さんたちも危ない。


それに……戦う前に諦めるなんて、そんなのママの娘じゃないよ!


「ダダリオさん!」


「お、おう!」


「今すぐギルドマスターさんに報告を!ケトナーさんやフェンダーさんにも声をかけてください!」


呆けていたダダリオだったが、パールから指示を受けると勢いよくギルドへ向かい走って行った。


「ほかの冒険者さんたちは街の人たちが避難するのを手伝ってあげてください!」


的確な指示を受け、冒険者たちも「おう!!」と気勢をあげて散っていく。


「ふふ。よくやったわね、パール。じゃあここは私に任せてちょうだい」


「え?お姉ちゃん一人で戦うつもり?」


「空中戦はあまり好きじゃないけど、まあ何とかなるでしょ」


おお。さすがお姉ちゃんは凄いなぁ……、あ。


「お、お姉ちゃん!ここで戦ったら街がめちゃくちゃになっちゃうよ。向こうの王城があった場所まで何とか誘導できないかな?」


「うーん。分かった。やってみるわ」


笑顔でそう告げると、アリアはドラゴンと対峙するため上空へ飛翔した。



ドラゴンから放たれる魔力によって、上空は強風が吹き荒れていた。


肩まであるブラウンの髪とメイド服のスカートを靡かせながら、アリアはドラゴンと対峙する。


「……我が名はアリア・バートン!真祖アンジェリカ・ブラド・クインシー様の忠実なる眷属である。名があるのなら聞いてやろうトカゲよ」


いきなり目の前に現れたメイド服の少女を一瞬ドラゴンは訝しんだが、すぐに魔力を込めた鋭い視線をアリアへ突きつけた。


「世のなかを知らぬ若輩者が……相手の力量も見極められぬとは」


「ふん。トカゲ風情が生意気な口を利くな」


数百年ぶりの大物との戦闘に気が昂り挑発的な発言が止まらない。


「……我はスカイドラゴン、ガイルである。ヴァンパイアの小娘よ。我に対峙している理由を聞こうか」


「ここに何をしに来たのか聞かせてもらおう。事と次第によっては手荒い対応になってしまうがな」


美麗な顔に凄みのある笑顔が浮かぶ。


「くく……たまたま暴れたくなったから訪れたまでのこと。世界で最強の種族である我がいつどこで暴れようが貴様らには関係なきことだ」


「……最強の種族だと?笑わせるなよトカゲ風情が。最強と名乗ってよいのはこの世界でただ一人、真祖アンジェリカ・ブラド・クインシー様だけだ!!」


叫ぶや否や、アリアはドラゴンの足元に巨大な魔法陣を展開させた。


雷帝(インペリアルサンダー)!!』


耳をつんざくような雷鳴が轟き、ドラゴンの体にいくつもの雷が襲いかかる。


一瞬怯んだ隙を見逃さず、距離を詰めてドラゴンの頭に強烈な蹴りを見舞った。肉弾戦はアリアの得意とするところである。


が──


「ちょっと硬すぎるわよあんた!」


蹴りを放ったアリアのほうが軽くダメージを負ってしまった。


「くく……、今何かしたのか小娘」


ドラゴンはくるりと器用に体を回転させると、勢いをつけた尻尾をアリアへ叩きつけようとした。


ズシンと重い衝撃を両の腕で受け止めるが、吹き飛ばされてしまう。


「く……っ!」


やや劣勢に見えるアリアだが、これは作戦の一部でもある。


ドラゴンの頑丈さにはやや面食らったものの、アリアはパールに言われた通り街への被害が少ない場所へ誘導しようとしているのである。


一進一退の攻防を繰り広げながら、少しずつ王城の跡地上空までドラゴンをおびき寄せていく。



「そろそろかな……?」


迫りくるドラゴンの爪や牙を避けつつ、チラリと地上へ目を向けたその瞬間。


地上から強力な魔法が複数放たれドラゴンの翼を強襲した。


「キラ!パール!」


魔法の援護射撃はキラとパールだった。おそらく、王城跡地の上空へ誘い込んだあと、魔法でドラゴンの翼を無力化し地上へ墜落させる作戦だったのだろう。


その目論見は見事に成功した。


「グギャアアアアアアアアァァァァ!!」


自慢の翼を穴だらけにされたドラゴンは、重力に逆らえず地上へ真っ逆さまに墜落したのである。



「やったね!」


「うん、うまくいってよかった!」


手を取り合って喜ぶパールとキラ。


「見事だったわよ、パール」


パールの頭を撫でながら褒めてあげると、目を細めて嬉しそうな表情を浮かべた。


ただ、まだ終わりではない。


上空から墜落したとはいえドラゴンである。しっかりととどめをささないといけない。


「よっしゃ。ここからは俺たちの出番だな」


愛用の大型ハンマーを肩に担いだフェンダーが豪快な笑い声をあげる。


「フェンダー、サドウスキー、動けない今のうちに仕留めるぞ」


ケトナーとフェンダーは街の騒ぎを聞きつけ、冒険者ギルドへ情報収集に訪れていたところ、ダダリオからの報告でドラゴンの来襲を知った。


ケトナーとサドウスキーは抜き身の大剣を構え、倒れているドラゴンへ視線を向ける。



だが、誰もがこれで終わりだと思っていたその刹那、ドラゴンは倒れたままの姿勢で首を持ちあげると、大きく口を開けた。


開いた口のなかに強大な魔力が集中していくのが誰の目にも分かる。


「危ないっ!!」


もの凄い魔力がドラゴンの口から一直線に放たれた。


危険を知らせるキラの声に対し、即座に反応したケトナーとフェンダーはすぐさま回避行動に移ったが、サドウスキーはその場から動けずにいた。


このままではドラゴンのブレスを受けてサドウスキーは骨も残さず消滅する。


「サドウスキーさん!!」



気がついたときには体が勝手に動いていた。


パールはサドウスキーに駆け寄って彼の前方に滑り込むと、すべてを薙ぎ払わんと迫りくるドラゴンのブレスに立ちはだかった。


「パール!!!」



アリアとキラの悲痛な叫びは、断末魔の咆哮にも似たドラゴンのブレスにかき消された。

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