第四十一話 街を襲う脅威
聖騎士たちを待ち伏せのうえ襲撃した獣人たち。死者が出るほどの激しい戦闘に劣勢が続く聖騎士たちであったが、アンジェリカが駆けつけたことで状況が一変する。アンジェリカは超高位魔法で死んだジャクソンを蘇らせると、その場にいた獣人たちすべてを魔法で骨も残さず消し去ってしまうのであった。
犬獣人族の長であり特別区の統治者でもあるシャガは、同胞からの報告を聞いて怪訝な表情を浮かべた。
教会の聖騎士が魔物に襲われた村に支援物資を送ると聞き襲撃を命じたのだが、報告によると襲撃に参加した全員が行方不明になったというのだ。
「まさか……聖騎士たちに全員殺されたということか?」
苦虫を嚙み潰したような顔で報告に来た男を睨みつける。
「いや、そのようなはずは・・・。襲撃に参加したのはいずれも手練ればかりです」
「…………」
ではいったいどういうことだ。そもそも、手練れでなくとも人間が簡単に獣人を撃退できるとは思えない。殺害するなどなおさらだ。
逃げた……、という線も考えられなくはないが。そんなことをしても奴らに利点はない。
「襲撃そのものはどうなったのだ?聖騎士たちはどうした?」
「は。聖騎士たちは当初の予定通りマルカ村へ物資を届けたようです。それと襲撃なのですが……」
話を聞くと、戻ってこない刺客を不審に思い、予定していた襲撃場所へ何人かが確認へ出かけたとのこと。
現場には戦闘の形跡があり、血痕も残されていたということだ。
「つまり、襲撃そのものは行われ聖騎士たちとも斬り結んだのだな」
「そのようです。ですが、刺客たちのその後の行方がまったく分かりません。まるで存在そのものが消えてしまったかのような……」
報告をしている男は少し顔色が悪い。何やら得体が知れない恐怖を感じているのかもしれない。
「……とりあえずもう少し様子見だ。もしかすると襲撃したあとどこかへ出かけているのかもしれん」
まあ可能性としては低いと思うが。
アンジェリカによって骨の髄まで焼き尽くされ消滅したことをシャガが知る由もない。
-エルミア教の教会本部・教皇の間-
「アンジェリカ様。本当にありがとうございましたです」
申し訳なさそうな顔でソフィアが頭を下げる。
「いいのよ。大したことじゃなかったし」
死んでいた聖騎士を蘇らせ複数の獣人を魔法で骨も残さず滅しておいてこれである。
「それに、特訓の成果が目に見えたから行ってよかったと思っているわ」
わずか数日であそこまで変化するとは、アンジェリカ自身驚いていた。
やっぱり強靭な精神力は肉体を凌駕するのかしらね、などとまたも体育会系な思考を巡らせる。
「それと、今回の襲撃だけど。どこか腑に落ちないと思わない?」
「……はい。実は私も同じことを考えていました」
そもそも、どうして獣人たちはあそこで聖騎士たちを待ち伏せできたのか。
考えられることは一つ、聖騎士が村へ支援物資を運ぶこと、あの道を通ることを知っていたということだ。
「内通者がいるわね」
「……私もそう考えています」
ソフィアが沈痛な面持ちで口を開く。国の重要人物でもあるソフィアにとって、あまり考えたくないことだ。
「心当たりはあるの?」
「考えられるとしたら、やはり第二王子の側室周辺ではないかと……」
デュゼンバーグの第二王子は獣人を側室にしていると以前聞いた。
「お二人の仲はとても睦まじいので、本人が内通したとは考えにくいです。おそらくですが、側近の獣人たちではないかと」
なるほど。ただ、ここから先はアンジェリカが出る幕ではない。この国に生きる者が何とかしなければいけない問題だ。
「まだしばらくは苦難の日々が続きそうね」
いたずらっぽい笑顔を浮かべるアンジェリカに、ソフィアは少し目を細めて静かに抗議したのであった。
-ジルジャン王国・王城跡再開発地域-
「ちゃんと避けてくださいねー---!」
かわいらしい声とは裏腹に凶悪な魔法を次々と冒険者たちに放っていくパール。
三日の予定で開催された冒険者ギルドの集中講習も本日が最終日である。
聖騎士とゴタゴタがあったとき助けてくれた赤髪の少年、ダダリオも今日は参加している。
「うおっ!何つう恐ろしい魔法を連発すんだよ!?」
焦りながらも何とか魔法の直撃を避けてうまく立ち回っている。
Aランク冒険者としては唯一参加しているサドウスキーも、冷や汗をかきつつ回避行動を続けていた。
「はい!おしまいです!」
魔法を放つのをやめ、パンッと胸の前で手を打ち鳴らすパール。
「ダダリオさんもサドウスキーさんも、とても動きがよくなった気がします。魔力も少し感知できるようになったみたいですね」
意外にもパールは教え上手であった。
冒険者たちにも分かりやすいよう丁寧に説明し、実践も交えつつ的確な指導を続けていた。
真祖であるアンジェリカから魔法の指導を受け続けてきたのも大きいのだろう。
「ああ。嬢ちゃんのおかげだ。今回講習に参加した連中は皆感謝していると思うぜ」
ダダリオは人懐っこい笑顔を浮かべ白い歯を見せた。
「本当だな。とても六歳の女の子とは思えねぇ」
ふふふ。もっと褒めて。
最初は緊張したけど、キラちゃんも協力してくれたし何とかうまくできた、かな?
なかなか濃い三日間だった気がする。
参加してくれた冒険者さんたちも、何かしら得るものがあったのなら嬉しいな。
そんなことを考えつつ頬を緩ませていると・・・
何やら遠くから叫び声や怒声が聴こえてきた。
どうやら街で何かあったようだ。
「キラちゃん!」
「ああ!」
パールを抱きかかえて王城跡地から街へ駆けて行こうとするキラのあとを、ほかの冒険者たちがついてくる。
何だろう、人の叫び声だけでなく耳に障る嫌な音が聴こえる。
明らかに街の人々は混乱しているようだ。
こんなことは、ママが王城を魔法で壊したときにもなかったのに。
キラに抱きかかえられたまま街の中心部、大きな噴水がある広場まで来たとき、パールたちは信じられないものを目にした。
空に浮かぶそれは、人々を、いや街そのものを見下さんとするかのようであった。
禍々しい色を放つ瞳に金属のような質感の表皮、地の底から湧きあがるようなうなり声をあげるそれは、空の支配者とでも言うべき存在。
「──ドラゴンだ!!」
誰かが叫んだその言葉がパールの耳の奥で何度もこだました。
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