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第三十九話 獣人族の企み

無事に初日をのり切ったアンジェリカとパール。アンジェリカは聖騎士たちから最大の敬意を示され、パールも冒険者たちの信頼を力づくで勝ち取ったのであった。

聖デュゼンバーグ王国の王都ラレイン。


古代と近代、双方の建造物がうまく調和した美しい街並みこそこの街の自慢である。


その王都ラレインから南へ約10キロ離れたところに、特別区と呼ばれる地域がある。デュゼンバーグ国内の地域であることは間違いないが、この場所では国の法律は通用しない。


特別区を統治するのは獣人族である。数十年前に何人かの獣人が住みついたあと次々と獣人族が訪れ、やがて集落が形成された。


集落はどんどん大きくなり、現在では一つの都市と言っても過言ではない規模まで発展を遂げている。



「シャガ様。「目」から報告です。どうやら、今日の午後に聖騎士団の連中が魔物に襲われたマルカ村へ支援物資を運ぶようです」


革張りのソファに深く腰掛けた犬獣人族の男、シャガが報告に訪れた者へ鋭い目を向ける。


鍛え抜かれた彫刻のような筋肉と漆黒の毛並みが印象的なシャガは、この特別区における統治者だ。


「そうか。ならいつものように数を集めて襲撃しろ」


獣人族は教会聖騎士に憎悪を抱いている。一部の人族至上主義者から迫害を受け、仲間も何人か殺されているからだ。


以前は国の人間や聖騎士ともそれなりの交流があったが、一度関係が拗れてしまうとまたたく間に双方の関係は悪化した。


「見せしめに何人か殺しても構わんが、皆殺しにはするな。やりすぎるとさすがに国も対策に本腰を入れてくるかもしれん」


シャガは勇猛なだけでなく狡猾でもあった。そうでないと獣人族をまとめることなど到底できない。


指示を受けた犬獣人が頭を下げて部屋から出ていく。


聖騎士団長か枢機卿、いや教皇が頭を下げてくるまで襲撃は続けるつもりだ。獣人族を見下す脆弱な人間どもにたっぷり恐怖を植えつけてやろう。


シャガは一人凶悪な笑みを浮かべると、テーブルから干し肉を手に取り口に運んだ。



-エルミア教教会本部・訓練場-


アンジェリカが指導を始めて三日が経った。彼女の目の前では白い鎧を纏った聖騎士たちが、三対一で模擬戦を繰り広げている。


アンジェリカはいつものゴシックドレス姿で聖騎士が用意した椅子に座り、足を組んでその様子を眺めていた。


もちろん、ただ眺めているだけではない。


疲れているのか、動きが鈍くなった一人の聖騎士に対しアンジェリカが指をさすと、指先から威力を抑えた雷が放たれた。


「ぐぎゃっっ!!」


そう、訓練中に少しでも気を抜いたり、疲れた素振りを見せたりすると、アンジェリカから何かしらの魔法が飛んでくるのだ。


「集中を欠かすな馬鹿もの。貴様らに今から獣人を凌駕する体力や技量を身につけるのは不可能だ。その分精神力で何とかしろ」


言っていることは完全に体育会系のそれである。


「ありがとうございます!アンジェリカ様!」


魔法と叱責を受けたにもかかわらず、聖騎士はキラキラとした目をアンジェリカに向けながら感謝の気持ちを示す。


どう考えても理不尽で過酷な訓練であり、そのうえ常に魔法で攻撃される脅威に晒されるのだが、聖騎士たちはなぜか嬉しそうな表情を浮かべるのであった。


……ちょっと気持ち悪いわね。もしかして初日にやりすぎてどこか壊れてしまったのかしら。


そんなことを考えるが、聖騎士たちがただドMなだけの話である。



聖騎士たちには仕事があるため、基本的に訓練は午前、もしくは午後のどちらかだ。今日は朝から訓練をしている。


一通りの訓練が終わると、聖騎士たちは整列してアンジェリカに礼を述べ仕事へと向かう。


さてと、帰る前にソフィアのところへ顔を出しておこうかしら。


訓練場から離れようとしたのだが・・・


「アンジェリカ様!」


一人の少年が話しかけてきた。18歳くらいだろうか。赤みがかった茶髪に青い目の少年が、人懐っこそうな笑顔を浮かべている。


「何かしら」


「は!私はジャクソンと申します!今日も訓練ありがとうございました!アンジェリカ様のおかげで、以前に比べて自分に自信がもてるようになった気がします」


素直に想いを伝えてくる少年にアンジェリカは少しばかりの好感を抱いた。


「そう。まあ頑張りなさいな」


少し笑みを携えてそう伝えると、少年は耳まで真っ赤になってしまった。かわいいものだ。


「あれほど訓練したあとに仕事なんて、聖騎士も大変ね」


「ええ。ですがそれが我々の使命ですから!今日は魔物に襲われた村に支援物資を運んできます」


なるほど。そういう仕事もあるのか。本当に大変だ。


「アンジェリカ様。実は私、もともとは人間こそ至上の存在だと考えていました。だから、獣人たちとも何度か揉め事になったこともあります」


「そうなの。なら、真祖である私のことも嫌いなんじゃないの?」


少しいたずらっぽい言い方をするアンジェリカ。


「とんでもない!むしろ、アンジェリカ様のおかげで目が覚めたんです!アンジェリカ様は本当にお強くて素晴らしい方です。人間が至上などと、私は何と思いあがったことを考えていたのか……!」


驚くほどの手のひら返しだとは思うが、まあ偏った考え方が改善されたのならいいとしよう。


「なら、今は獣人たちに対して見下すような気持ちはないの?」


「はい!機会があれば彼らに謝罪し、関係も改善できればと考えています」


あれ?これもう問題解決なんじゃないの?わざわざ聖騎士鍛えなくても、歩み寄れるのならいいんじゃ──


いや、こちらの意識が変化したとしても、獣人たちがどう出るか分からないか。


「そう。一度拗れた関係を改善するのは容易でないと思うけど、頑張りなさいな。気をつけて仕事も行ってきなさい」


パッと明るい笑顔を見せたジャクソン少年は、腰が折れんばかりの勢いで一礼すると踵を返して仕事へ向かった。


今の話もソフィアにしてあげないとね。とりあえず美味しい紅茶でもごちそうになろう。


そんなことを考えながら、アンジェリカはソフィアのもとへ向かった。

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