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第三十八話 認めざるを得ない力

一部の冒険者からあがった不満の声に対し、キラはパールとの模擬戦を提案する。30人の屈強な冒険者が一斉にパールへ襲いかかるが、新たに開発した魔法「魔散弾」の前にあっけなく蹴散らされたのであった。

「おそらくお前たちじゃパールに触ることすらできない」


疾風の二つ名をもつハーフエルフのSランク冒険者、キラから投げかけられた言葉に俺は憤慨した。


これまで、討伐難易度AやSの魔物を数多く屠ってきたこの俺が、わずか六歳の小娘に勝てないと言われたのだから当然だ。


ギルドでも貴重な戦力である、Aランク冒険者のこの俺が馬鹿にされた、舐められたと感じた。


「上等だ……!」


こうなったら、どんな手を使ってでもあの小娘を痛い目に遭わせ、キラにも吠え面をかかせてやろう、そう心に誓ったのである。



だが、そんな俺の望みが叶うことはなかった。


戦闘が始まると小娘は複数の魔法陣で自分を囲った。次の瞬間、すべての魔法陣から魔力を伴う光が無数に発射され、俺たちはあっさり倒されてしまったのだ。


こんな理不尽な魔法があっていいのか。Aランクのこの俺がこんなにあっさりと地を舐める羽目になるなんて……。真祖の娘とは聞いていたが、まさかこいつも人外なのか。


俺は何とか痛みに耐えて立ち上がり、せめて一矢を報いようとした、のだが。


小娘がこちらに向かって手を伸ばし何かを叫ぶと、今度は俺自身が魔法陣に囲まれた。


そして、四方八方から一斉砲撃を受けた俺は今度こそ意識を根こそぎ刈り取られてしまったのである。



気がついたとき、視界に飛び込んできたのは青い空だった。


何かが焦げたような臭いが鼻をつき、背中にはザラザラとした地面の感触。思考を巡らせ、やっと自分が仰向けに倒れていることに気づいた。


「大丈夫ですか?」


ふんわりとしたブロンドの髪が視界の端に映った。


「治療したから多分大丈夫だと思います!」


先ほどまで俺たちと戦っていた小娘が、笑顔を携えて俺のそばに座っていた。


たしかに、あれほど高威力の魔法をまともに受けたにもかかわらず、痛みも違和感もない。


真祖の娘は聖女。そんな噂を耳にしたことを思い出した。


「……負けたのか、俺は」


誰に言うでもなく口をついて出た言葉だったが、真祖の娘は少し困ったような表情を浮かべた。


困らせるつもりはまったくなかったのだが。


俺を含む30人もの冒険者を相手にしたあの戦いぶり、それに聖女の力。


これはもう認めざるを得ない。


「……すまなかった。あんたの実力は理解できた。講習にも参加させてもらう」


俺が素直な気持ちでそう伝えると、彼女はにっこりと子どもらしい笑顔を携えて返事をしてくれた。



-アンジェリカの屋敷-


「ただいまー!」


冒険者ギルドが主催する講習の初日を終え、パールは迎えに来たアリアと一緒に屋敷へ戻った。


「おかえりなさいませ、お嬢」


「あれ?フェルさんだけ?ママは?」


「お嬢様はまだ戻られておりませんよ」


あらら。そうなのね。


聖騎士団ってたしか人数が多いって言ってたし、時間がかかっているのかな?


そんなことを考えていると、わずかに魔力の気配を感じた。


「ただいま」


「おかえりママ!」


ママも帰ってきた。私のほうが家でママを迎えるなんて何か新鮮!


……ん?


「聖女様。お邪魔いたします」


「お邪魔いたします」


ママの後ろに二人の女性が立っていた。


一人はこの前ここに来ていた人だ。たしか教会の教皇でソフィアさんだっけ。


もう一人は誰だろう?


「今日の訓練が終わったあとソフィアのところへ行ったら、一緒にうちまでついてきたのよ」


ふむふむ。


「聖女様。彼女は教会で実務を取り仕切っている枢機卿のジルコニアです」


少し怪訝な表情をしていたパールに気づき、ソフィアがジルコニアを紹介する。


「お初にお目にかかります、聖女様。私はエルミア教の教会本部で枢機卿を務めております、ジルコニアです。お会いできて光栄です。先日は当教会の聖騎士がご迷惑をおかけしましたこと、大変申し訳ございませんでした」


ジルコニアがパールに頭を下げる。


「あ、はい。こんにちは。その件はもう気にしていないので」


枢機卿ってたしか偉い人だよね?


などと考えていたパールは、ついあっさりとした受け答えをしてしまう。


「立ち話もあれだし、テラスでお茶にしましょう。フェルナンデス、紅茶の用意を」


「かしこまりました。お嬢様」



テラスのテーブルに人数分のカップが並べられ、フェルナンデスが順番に紅茶を淹れていく。


琥珀色の紅茶から湯気が立ち昇り、爽やかなアールグレイの香りが鼻腔をくすぐった。


カップをもつ指にじんわりと熱が伝わる。


ひと口飲むと、コクリと自分の喉が鳴ったような気がした。やっぱりフェルナンデスの淹れる紅茶は最高ね。


そんなことを考えつつ、アンジェリカは今日の訓練を思い返していた。


「ねえ、ママもしかして疲れてる?」


「ん?どうして?」


私そんなに疲れた顔しているかしら?


「だって、教皇さんも枢機卿さんもいるのに、ぼーっとしながら紅茶飲んでいるんだもん」


「疲れてはいないわよ。今日のことをいろいろと思い出していただけよ」


ママのことを心配してくれているのかな?うちの娘かわいすぎるでしょ。


「アンジェリカ様、今日は本当にありがとうございますです。初日から大変だったとお聞きしました」


相変わらず私の前でだけ変な話し方になるソフィアだが、彼女なりに私を気遣ってくれているらしい。


「そのことについては、私からもお詫びを申し上げます。まさかあのような行為に出るとは思いもよりませんでした」


「フフ。まあ最後はうまくまとまったんだし、問題ないわよ」


まさか聖騎士全員で跪かれるとは思わなかったけど。聖騎士ともあろう者が真祖に臣従するような態度とって問題ないのかしら?


「聞きましたですよ、アンジェリカ様!木剣だけで200名の聖騎士をなぎ倒し、最後には皆がアンジェリカ様に跪いて尊敬のまなざしを向けたとか」


「私は目の前で見ていましたが、本当に凄かったです。アンジェリカ様は魔法だけでなく剣もお強いんですね」


何となく二人までキラキラした目で私を見ている気がする。


「そうなの!?ママすごーい!」


「フフ、ありがとう。パールのほうはどうだったの?」


私のことはどうでもいいからパールのことを聞きたい。


「私もね、冒険者さんたち30人を相手に一人で模擬戦したよ!」


「…………は?」


紅茶を口に運ぼうとしていたアンジェリカの手が止まる。


「それでね、魔導砲をちょっと改造して新しく作った魔法で全員やっつけちゃった!」


「…………」


パールの言葉に、アンジェリカだけでなくソフィアやジルコニアも固まってしまった。


わずか六歳の女の子が、屈強な冒険者30人を一人で相手にして圧倒したと聞かされれば当然の反応ではある。


「少し詳しい話を聞きたいわね。そうなった理由とか。キラはいないの?」


「キラちゃん今日はリンドルに泊まるって」


さてはあの子。私に叱られると思って逃げたわね。


いくら講習とはいえ、30人の冒険者と一人で戦わせるなんて……。


まあパールに限って不覚をとることはないと思うけど。


とりあえず、今度キラに修業をつけるときは厳しくいこうと心に決めたアンジェリカであった。


お読みいただきありがとうございました!

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