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第三十七話 小さな鬼講師

教会聖騎士に戦闘指導を行うためデュゼンバーグの教会本部を訪れたアンジェリカ。初日から反抗的な聖騎士を殺気で黙らせ、聖騎士全員を相手にした模擬戦では完膚なきまでに叩きのめすのであった。

かつてのジルジャン王や王侯貴族は、真祖アンジェリカの苛烈な怒りを買い塵と化した。高位魔法により王城は壊滅し、広大な敷地も併せて今は再開発の真っ只中である。


この日、パールは王城跡地にいた。冒険者ギルドが主催する実技講習の講師を務めるためだ。


リンドルの冒険者ギルドにも訓練場はある。ただ、それほど多くの人数を収容できる広さはないため、王城跡地に白羽の矢が立った。


現在、この場所は国の管理下にあるが、ギルドマスターが話をつけ使用許可を取りつけたようだ。



「あーー。緊張するなぁ……」


実技講習の講師などという大役を任されたパールは、朝から落ち着かなかった。


「大丈夫だよパールちゃん。私がサポートするからさ」


真祖の娘で多彩な魔法の使い手とはいえ、パールはまだ六歳児である。ギルドマスターもそのあたりは考えており、補助役としてキラをつけてくれたのだった。


「うん。ありがとうキラちゃん。てゆーかさ、指導もキラちゃんたちがやればよかったんじゃないの?」


ちょっぴり唇を尖らせたパールは、上目遣いでキラに小さな抗議をする。


「パールちゃんは私に使えない魔法も使えるし、何より冒険者たちに刺激を与えられると思うんだよね」


むむ?どういうことかな?


「最近はちょっと調子にのった冒険者も多いから。小さくてかわいい女の子に強さを見せつけられたらいい薬にもなるだろうし、刺激にもなるしね」


なるほど。ギルドマスターさん策士だな。


今日集まった冒険者は約30名。ギルドは通常運営なので、依頼がある人は別日に参加する。


緊張するし不安だけど、任されたからには頑張ろう。今ごろママも頑張ってるだろうしね!


両手を胸の前でぎゅっと握り、パールは集まった冒険者たちに目を向けた。



「皆さんこんにちは!私の名前はパール、Bランクの冒険者です。今日から数日、皆さんに魔法の使い方とか防御とかについて指導することになりました。よろしくお願いします!」


六歳児とは思えないしっかりとした口調で言葉を発するパールに、ほとんどの冒険者は温かい目を向けた。さすが冒険者ギルドのアイドルである。


「ひとまずは魔法を中心に戦う人と、それ以外の人たちに別れて講習を進めようかなって思います。それでは皆さ──」


「ちょっと待てよ!!」


パールの言葉を遮るように、巨躯の冒険者が声をあげる。


「俺はサドウスキー、Aランク冒険者だ。ギルドマスターに言われてこの講習に参加するんだが、そもそも小娘。てめぇはここにいる冒険者たちに指導できるほど強ぇのか?あ?」


やや憎々しげな感情混じりの鋭い視線をパールに向けるサドウスキー。


うん、そりゃそういう人も出てくるよね。というよりこれが普通の反応だと思う。


こういうときママならどうするのかな。いきなり魔法とか撃ち込むのかな?


アンジェリカからツッコミが入りそうなことを考えつつ、どうしようかなと考えていると……。


「サドウスキー。パールは私たちSランカーが認める強さをもっている。それでは納得できないのか?」


おお。キラちゃん助かる。いつもよりも頼れるお姉さんっぽいよ!


パールとなじみの冒険者たちからも声があがった。


「てめぇ!お嬢のことが信じらんねぇってのか!」


「おうよ!お嬢は凄いんだぞ!」


冒険者たちが剣呑な空気を纏い始めるが、サドウスキーの表情に大きな変化はない。


「うるせぇよ三下どもが!俺は自分の目で見たものしか信じねえ!」


この日の参加者にはパールのことを知らない者もいるため、サドウスキーの言葉に同意している者も何人かいた。


うーん、どうしたものか。


「そうか、サドウスキー。お前の考えはよく分かった」


お、キラちゃん何かいい案を思いついたのかな?さすがだね。


「では講習を始める前に模擬戦をしよう。お前たち全員でパールにかかってこい。パールが勝ったら彼女に敬意をもって接し、大人しく講習にも参加してもらう」


ちょおおおおおおい!!


何てこと言い出すのよキラちゃん!相手はゴブリンじゃないんだよ!?


「……舐めてんのか?キラさんよ。いくら俺でもこんな小娘を袋叩きなんて真似は趣味じゃねぇ」


見た目の厳つさに似合わず良識的な大人だ。


「心配しなくていい。おそらくお前たちじゃパールに触ることすらできないからな」


サドウスキーは一瞬目を見開いたかと思うと、忌々しげな目でキラを睨みつけた。


「上等だ……!」


いや、勝手に話進んでるし。私の意思は無視ですかそうですか。



結局、模擬戦をやることは決定してしまった。


「ちょっとキラちゃんー?」


「大丈夫だってパールちゃん。ギルドマスターも言ってたでしょ、最初にガツンとぶちかましてやればいいって。最近試してた魔法の実験台にでもしてやればいいよ」


あっけらかんと話すキラに思わずため息を漏らす。


「んもう。何か面倒なこと起きそうと思ってたけど現実になっちゃったよ」


でもこうなったらやるしかない。はぁ……。頑張ろうっと。



一行はなるべく瓦礫が少ない開けた場所へ移動をはじめる。戦いやすそうな場所を見つけると、各々準備運動を開始した。そして──


30人の冒険者がパールを遠巻きに取り囲みだす。


輪の中心に立つパールは、このような状況であるにもかかわらず落ち着いたものだ。


「では、始め!!」


凛としたキラの声が響くと同時に、冒険者たちが一斉にパールへ向かってきた。


「よし、あれ試してみよっと。『展開(デプロイ)!』」


五つの魔法陣がパールを取り囲むように顕現する。これまで魔導砲で使用していたのとは違い、魔法陣のなかに直径3センチほどの緻密で小さな魔法陣がいくつも描かれている。


「んーーーー!!『魔散弾(バレット)』!!」


詠唱にあわせて、すべての魔法陣からいくつもの細く鋭い閃光が全方位へ放たれた。


魔導砲は一つの魔法陣から一つの光弾しか発射できないが魔散弾は違う。


数えきれないほどの光弾が一斉に発射され冒険者たちに襲いかかった。


防御も回避もできず、なす術なく倒れていく冒険者たち。


あっという間に王城跡地には死屍累々の惨状が広がった。


うん、うまくいったっぽいね!



「ぐ、ぐぐ……っ!!」


そんななか、一人の冒険者が立ち上がろうとしていた。講習参加者のなかで唯一のAランカー、サドウスキーだ。


「こ……こんなデタラメな魔法があっていいのかよ……!」


徹底的に鍛えあげられた肉体には、そこまで大きなダメージが見当たらない。


サドウスキーは立ち上がり再び剣を構える。


接近されたら負けちゃうな、となると──


展開(デプロイ)!』


サドウスキーがパールとの距離を詰めようとする前に、五つの魔法陣で彼を取り囲む。


「ごめんなさい!!『魔導砲(キャノン)』!!」


高出力の魔導砲を四方八方から一斉に受けたサドウスキーは、あっさりと意識を刈り取られその場に沈んだ。


やば。ちょっと強すぎたかな?体おっきいし大丈夫だよね、うん。



「それまで!勝者パール!」


キラの宣言で模擬戦は終了した。



ある程度魔力を調整していたため、大きな怪我をした冒険者はいなかった。


念のため、パールは一人ひとりを聖女の力で癒していく。


このとき、初めてパールが聖女であることを知った者もおり、大いに驚いていた。


完全に意識を失い肉体的なダメージも大きかったサドウスキーも、パールが手で触れると無事に回復した。


「……負けたのか、俺は」


そうですね、って答えていいのかな?こういう質問困るよね。


「……すまなかった。あんたの実力は理解できた。講習にも参加させてもらう」


「はい!よろしくお願いします!」


とりあえず無事に講習を始められそうで良かったよ。


実力を疑っていた冒険者たちにも認められ、ここに鬼講師パールが誕生したのである。


同じころ、デュゼンバーグではアンジェリカが聖騎士たちを完膚なきまでに叩きのめし恐怖を擦り込んでいたのだが、パールがそれを知る由もない。



お読みいただきありがとうございました!

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[一言] 獣人「あ、ありのまま起こったことを話すぜ・・・」 な未来しか見えねぇ
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