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第三十三話 デュゼンバーグが抱える問題

エルミア教の教皇ソフィアから聖騎士を鍛えてほしいとお願いされるアンジェリカ。一方、パールはギルドマスターから冒険者向け実技講習の講師をしてほしいと依頼されていた。奇しくも母娘双方が指導を要請されるという事態になったのだが・・・。

先日、アンジェリカのもとへ訪れた教皇ソフィアは、アンジェリカやパールの意思を尊重すると口にした。


だが、口ではそう言いつつも、どこか聖女を諦めきれないような表情を浮かべていたのをアンジェリカは見逃さなかった。


その理由をソフィアから聞いたとき、アンジェリカはなるほどと納得した。



-一昨日-


「デュゼンバーグは今、獣人族とのあいだに問題を抱えています」


俯き加減のソフィアが口を開く。


「どういうことかしら?」


話によると、デュゼンバーグ国内には獣人族が実効支配する地域があるらしい。


デュゼンバーグの人々ともある程度良好な関係を保ってきたが、近年関係が悪化したとのこと。


原因は教会聖騎士との諍いだ。


聖騎士の一部には人族こそ至上であると考え、獣人を認めない者がいたという。その者たちが獣人と直接的な争いを起こし、関係が大いに悪化したらしい。


その結果、まったく関係がない一般人や聖騎士まで獣人から襲われるようになった。


しかも、襲撃の規模こそ小さいものの、頻度が多いため日に日に怪我人が増えていくという。



「なるほど。パールがいれば状況が改善すると言っていたのはそういう理由ね」


聖女の力に魔力は関係ない。パールがいれば怪我人が大勢いても治療は容易だろう。


「はい。でもそれだけではありません。聖女の存在は獣人族にとっても大きなものです。我が国が聖女を迎えたとなれば、彼らも矛先を収めるだろうと考えていました」


「……話は分かったけど、それほど大きな問題かしら?獣人族が支配する地域があると言っても、それほど大勢はいないんでしょう?なら国軍を送りこんで殲滅すれば問題は解決するじゃない」


まるで脳筋の発想である。


「それができれば簡単なのですが、現実的には難しいでしょう」


「なぜ?」


「デュゼンバーグ第二王子に嫁いでいる側室の一人が獣人族なんです」


なるほど。さすがにそれでは難しいか。


「ですから聖女様に怪我人を治療してもらいつつ、穏やかに状況が改善するのを待てば、と考えていたのです」


「でもそれって根本的な解決にはならないわよね。きっとまた同じことは起きるわよ」


「やっぱりそうですよね〜……」



と、ここまでが昨日のやり取りである。



そして今日、突然やってきたかと思えば聖騎士を鍛えてほしいと意味不明なことを口にするソフィア。


「……いったいどういうことかしら?」


一瞬ぽかんとしてしまったアンジェリカだったが、何とか意識をたぐり寄せる。


「単純な話です。聖騎士が強くなれば襲われても怪我をしなくなりますし、何より獣人たちに認めさせられます」


獣人族は強い者に従う、これは常識だ。たしかに良案かもしれないが。


「それでどうして私が聖騎士を鍛えるなんて話になるのよ」


「それはアンジェリカ様がお強いからです!」


うん。分かりやすい。でも……。


「悪いけど興味ないわ。それに、いきなり真祖がやってきて今からあなたたちを鍛えます、なんて言って聖騎士が素直に従うと思う?」


「そこは私とレベッカが何とかします!何ならアンジェリカ様が最初にガツンとぶちかましてくれたら、きっと素直になりますよ!」


いや、この子本当に教皇なの?私騙されてるんじゃないよね?


聖職者とは思えない発言をするソフィアに若干引き気味のアンジェリカ。


でも、聖女は渡しません、その母親もいっさい協力しません、というのは何となく外聞が悪いような気もする。


それに、最近ただでさえパールからママは出不精だの引きこもりだの言われているし。



「……分かったわ。協力しましょう」



聖騎士たちを恐怖に陥れる鬼教官の誕生である。



-リンドル冒険者ギルド-


実技講習の講師をしてほしい。


ギルドマスターからそう依頼されたパールは驚きのあまり大絶叫してしまった。


あまりの大声に、ホールで雑談していたキラやケトナーが心配して執務室に飛び込んでくるほどである。


「いったいどういうことでしょうか?」


キラとケトナーに挟まれるような形で座り直したパールは、一つ深呼吸をしてから質問した。


「私が先ほど話したことがすべてです。戦力の底上げにパール様のお力を貸してほしいのです」


「いや、だからなぜ私なのでしょうか?」


六歳児になんてこと頼むのよ。


「それはパール様がお強いからです!」


うん。分かりやすい。でも……。


「申し訳ないんですけど、お断りします……。私みたいな子どもにそんな大役は難しいと思います。そもそも、冒険者さんたちがこんな子どもの言うこと素直に聞いてくれると思います?」


「そこは私やキラさんたちが何とかします!何ならパールさんが最初にガツンとぶちかましてくれたら、きっと素直になりますよ!」


やだ脳筋怖い。ギルドマスターとしてその発言はどうなのよ。


でも、よく考えたらギルドマスターにはいつもお世話になっている。せっかくこうして依頼してくれてるのに断るのは申し訳ない気も……。


それに、最近ただでさえママからパールはもっと経験が必要とか感情と魔力をうまく調整しなさいとかいろいろ言われているし……。



「……分かりました。その話お引き受けします」


冒険者たちの心をへし折る小さな鬼講師の誕生である。



ギルドマスターさんにもう少し詳しく話を聞くと、どうやら私がママ直伝の不思議な魔法を使えるというのも、講師をしてほしい理由みたいだ。


新たな体験をさせることで、冒険者たちの対応力を向上させたいらしい。ギルドマスターさんはいろいろと考えているんだなー。


あ。引き受けたもののママは許可してくれるのかな?


帰ってからきちんと説明しなきゃ。



アンジェリカも同じような状況に陥っているなど知る由もないパールであった。

最後までお読みいただきありがとうございました。少しでも面白いと感じてもらえればうれしいです。評価やブックマーク、感想をいただけるとより励みになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初は面白かったです。37話ぐらいで主人公の考えが無さ過ぎてついていけなくなりました。
[一言] 似た者親子ー!
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