間話 アリア・バートン
日間ランキング・ハイファンタジー部門で7位にランクインしました。これも読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!
あらゆる種族から畏怖される存在、それが真祖である。
吸血鬼の頂点に君臨する真祖一族に仕え、いったいどれくらいの時が流れただろうか。
私の名前はアリア・バートン。
真祖一族の王女、アンジェリカ様の忠実なる眷属でありメイドだ。
私はもともと、ヘルガ・ブラド・クインシー様付きのメイドだった。
真祖一族における皇子の一人であり、アンジェリカ様の兄上だ。お嬢様が幼少のころ、ヘルガ様は執務でよく城を空けていた。
そのため、手が空いた私は頻繁にお嬢様の遊び相手をしていたのだ。やがてお嬢様はすっかり私に懐き、諦めたヘルガ様が私をお嬢様に付けてくれた。
それから私とお嬢様は悠久のときを共に過ごしてきた。お嬢様と一緒に魔族の国を殲滅したり、人間の国を滅ぼしたりもしたものだ。
ただ、ここしばらくは私もお嬢様も少し退屈していたような気がする。
永遠に繰り返されるかのような日々のなかで、私たちは終わりのない時を生きていた。
ある日、そんな日々が突然終わった。
森のなかを散策していたお嬢様が、人間の赤ん坊を拾ってきたのだ。しかも聖女の紋章をもつ者を。
お嬢様はかわいいから育てると言ったが、私はあまり乗り気ではなかった。もちろん、お嬢様に逆らう気など毛頭ない。
私はただただ人間という脆弱な種族が嫌いだったのだ。
でも、お嬢様が拾ってきたその赤ん坊はたしかに愛らしい子だった。
寝顔を見ているだけでなぜか幸せな気持ちになり、言葉を話したときは嬉しくて涙が出たものだ。
お嬢様がパールと名付けた赤ん坊は、私にとってもかけがえのない存在になった。今ではお嬢様と同じくらい大切なかわいい妹と胸を張って言える。
ある日、パールが何者かにさらわれた。しかも、私と外出しているときにだ。
私は激しく動揺した。
必死になって周辺を探したが姿は見つからず途方に暮れた。
嫌だ。パールを失うなんて考えられない。
私は屋敷に転移しお嬢様に事の次第を報告した。
あのときのお嬢様の顔と声色は今でも忘れられない。
国陥としの吸血姫と呼ばれて久しいが、あのころのお嬢様の姿が鮮明に脳裏へ甦った。
結局、主犯であった国王とその他諸々はお嬢様の怒りを買い消し炭に変えられた。
正直なところ、国王とパールをさらった実行犯は私の手で八つ裂きにしてやりたかったが。
とりあえず無事に帰ってきてくれたのは安心したし嬉しかった。ここ数百年で一番嬉しかったし、久しぶりに涙を流した。
最近のパールは冒険者として活動を始めた。いろいろな経験を積ませるためだとお嬢様からは聞かされていたが、正直私は心配で堪らなかった。
だから、ときどきお嬢様に内緒でこっそりパールの冒険者活動を観察している。
先日、ゴブリンの群れを退治したときも、実はこっそりパールの戦いぶりを覗いていた。
お嬢様から直接魔法の指導を受けているため、ゴブリン程度ではパールの相手にはならなかった。
ただ、それなりに数が多かったのでそれだけは心配だったけど。
二十数匹のゴブリンを魔法であっさり蹂躙したときは思わず拳をぐっと握って喜んだ。
頑張ったね、偉いね、強いね、よくやったね、と心で叫びながら、何となく左方に目をやると、何とお嬢様も私と同じく空からパールを見守っていた。
幸いお嬢様はパールからまったく目を離さなかったので、その隙に転移して自宅に戻り、何食わぬ顔でお嬢様を出迎えた。あのときは本当に焦ったわ。
ああ。最近はデュゼンバーグの教会にも行ったっけ。
パールが聖女と気づいた教会の聖騎士がギルドに押しかけて、パールを強引に連れ去ろうとした。
そのときはお嬢様が何とかしたけど、愚かなあいつらはまたパールに手を出そうとした。
あの手の馬鹿はきっとまた手を出すと確信していた私は、ギルド周辺に下級吸血鬼を配備しパールを護衛していた。
案の定、馬鹿が引っかかったので頭目らしいやつ以外はその場で全員殺してやった。
そのあと、お嬢様の命を受けてデュゼンバーグの教会へ行き、教皇に真意を確かめた。
途中、私を止めようと騎士が斬りかかってきたからみんな殺してしまったけど。
教皇は思いのほか若くかわいい女の子だった。間違いなくお嬢様好みだ。
現に今、お嬢様は謝罪に訪れた教皇をテラスに招いて楽しくお茶を飲んでいる。
お嬢様は昔からかわいいものに目がないのだ。
「はい、お姉ちゃんにあげる」
その日、ギルドへ迎えに行った私にパールが手渡したのはワイバーンの鱗だった。
「キレイでしょ?お姉ちゃんにあげようと思って!それ一枚でも結構高いらしいよー」
パールからの贈り物なら何でも嬉しいけど、まさか六歳の女の子からワイバーンの鱗を贈られるとは。
苦笑いしつつ頭を撫でてあげると嬉しそうにはにかんだ。
でも、お嬢様にバレたらきっと怒られるわね。
案の定、ワイバーン退治に赴いたことを自らバラしてしまったパールは、その夜長いお説教を受ける羽目になったのであった。
強くなっても中身はやっぱり子どもね。
お嬢様の怒りが少しでも和らぐよう、私は美味しい紅茶を淹れてお嬢様とパールのもとへ運ぶのであった。
本日、誤字報告してくれた読者の方、ありがとうございました。大変助かりました。精進いたします。




