第二十六話 気づかれた存在
森のなかでゴブリンの巣を見つけた一行。パールの活躍によりまたたく間に二十匹以上のゴブリンを殲滅、巣の排除にも成功したのであった。
依頼を無事に完遂したパールたちは村に戻り村長に報告した。わずかな時間でゴブリンを退治し、巣も潰したとの朗報に村長は目に涙を溜めて感謝の言葉を述べる。
早期に解決したお礼に村の馬車でリンドルまで送ってくれるとのことなので、好意に甘えることにした。
「はい、これで大丈夫ですよ」
村にはゴブリンの襲撃で大ケガを負った人もいたので、パールは聖女の力で治療してあげた。
なお、村の人たちはパールのことを凄腕の魔法使いと説明されていたので、聖女の力ではなくただの治癒魔法だと思っている。
そんなこんなでケガが酷い人を中心に治療を続け、村人たちから深く感謝されつつパールたちは村を去るのであった。
ギルドに戻ったパールたちは、さっそくカウンターへ向かい受付嬢に依頼完了の報告をした。
「お疲れ様でした!やっぱりSランク冒険者が三人もいると一瞬ですね。パールさんは初の依頼だったけどうだった?怖くなかった?」
むむ。一応Bランク冒険者なのですが。
「何言ってんだ。ゴブリンの群れは嬢ちゃん一人で殲滅したんだぞ」
憮然とした表情のフェンダーから指摘され驚く受付嬢。
「ええ!?本当ですか?二十匹以上のゴブリンをパールさん一人で!?」
えっへん、凄いでしょ。
「ああ。間違いない」
「いつでも手助けできるよう準備してたけど、まったく必要なかったわよね」
ケトナーとキラも、フェンダーの言葉が真実であることを保証する。
「そ、そうですか……。パールさん凄いですね。そんなちっちゃいのに」
む。すぐ大っきくなるんだから。
感嘆する受付嬢の言葉を素直に受け止められないパールであった。
「パールちゃん、今日はアリアが迎えに来てくれるんだよね?」
「うん。でもまだ少し時間が早いね」
「お!じゃあ久々にそこの酒場でも行くか!」
ガハハと笑うフェンダー。いや、酒場って子どもが行ってもいいの?
「パールちゃん連れて酒場なんて行けるわけないでしょ。教育に厳しいお師匠様にバレたらあんたたち消し炭にされちゃうわよ」
ママそこまで短気じゃないと思うけど。多分……。
「私はここでお姉ちゃん待たなきゃだから、キラちゃんケトナーさんたちと行ってきたら?」
このギルドに出入りしてる冒険者さんのほとんどは、私が真祖の娘って知ってるし変なちょっかい出してこないよね。
「うーん、パールちゃん残して行くのは心配だなぁ……。何かあったら怖いし」
Bランク冒険者で強いとはいえ、パールはまだ6歳の子どもだ。キラが心配するのも当然である。
「うん、やっぱり心配だからアリアが来るまで私も一緒にいるよ。そのあとで飲みに行こうかな。あ、お師匠様に今日はリンドルに泊まるって言っといてね」
「なら俺も一緒に待とう」
「俺も待つぞ」
おお。ここにも過保護が。なんてこったい。
「……ありがとう」
その気持ちはうれしいので、パールは素直にお礼の言葉を口にした。
「おい。そこに村があるから少し休ませてもらおう」
白い鎧を着て馬にまたがる男は仲間に視線を巡らせた。
同じ白い鎧を着用した者が八人。
彼らはランドール共和国と国境を接する聖デュゼンバーグ王国の聖騎士たちである。
同国が国教とするエルミア教の教会、その総本山に所属する彼らは、教皇からの親書を携えランドールへ向かっていた。
馬に騎乗したままの長旅はつらい。ブロンドの髪をオールバックになでつけた教会聖騎士団副団長のエドワードは、遠目に見えてきた村で休憩をとらせてもらおうと考えた。
村に着いたエドワードは、目についた村人に声をかけ休憩をとりたい旨を伝えた。
少しすると村長がやってきて、村の集会所を使用する許可を貰えたため馬も連れて移動する。
全員が疲労困憊なので、ゆっくりと足を伸ばせる場所を提供してもらえるのはありがたい。
それから、村長は聖騎士団副団長と名乗った私を自宅に招待してくれた。
「大したもてなしもできずに申し訳ない限りです」
「いや、休める場所を提供してもらっただけで十分だ。感謝する」
エドワードは簡潔に答えた。
「つい最近までゴブリンの襲撃が酷くてですね。いろいろと大変だったんですよ」
「ほう。それは大変だったな。その問題はもう解決したのか?」
ゴブリンは弱い魔物だが群れをなすと厄介だ。いまだ標的にされているのなら、滞在中に戦闘が発生する可能性がある。
そう懸念していたのだが……
「ええ。冒険者ギルドに依頼を出したところ、とても強い冒険者のパーティが来てくれまして。すっかり解決しましたよ」
「ほう。それは何よりだ」
どうやら余計な戦闘はしなくてよさそうだ。
「ゴブリンに襲われて重傷を負った村人もいたんですけどね。小さな女の子の冒険者があっという間に治してくれたんですよ。ありがたい話です」
なかなか興味深い話だ。高位治癒魔法の使い手か何かだろうか。
「不思議なものでしてね。あの子がケガをしてる村人にそっと手を触れると、それだけであっという間に治ってしまったんですよ。魔法ってほんと凄いですね」
村長の言葉を聞いたエドワードは凍りついた。
そっと触れるだけで重傷が治った?
そんな魔法は聞いたことがない。
そんなことができるのは……。
「まさか聖女様なのか……?」
気がつくとエドワードの体は小刻みに震えていた。
「そ、その女の子は治療するとき何か魔法を唱えていたか?」
焦りで思わず声が裏返りそうになる。
「いえ、何も言っていませんでしたよ」
「手の甲に何か模様のようなものは?」
「うーん、そう言えばずっと手袋をしたままでしたね」
……間違いない。聖女様だ。
もちろん、治癒魔法を無詠唱で使用することは可能だ。ただ、それは遥か高みにのぼった一部の魔法使いのみなしえることである。
それを踏まえて考えると、やはり聖女様としか思えない。
「村長。この村に来た冒険者とその女の子についてもっと詳しく教えてくれ」
もし本当に聖女様なら、一刻も早く保護しなくては。
エドワードの目が冷たい光を帯びた。
-アンジェリカの屋敷-
「ックション!!」
屋敷に戻ったパールは、リビングでアンジェリカやアリアとのんびりくつろいでいた。
「パール、もしかして風邪?」
アリアが心配そうにパールの額に手をのせる。
「熱はなさそうだけど……」
「パール、どこか調子が悪いんじゃないの?依頼で無理しすぎてない?大丈夫?」
アンジェリカの表情が曇る。
「んーん。ちょっと鼻がむずむずしただけだよ」
「ほんとに?無理しちゃダメよ?」
んもう。相変わらずママもお姉ちゃんも過保護だなぁ。
「大丈夫だよ。心配かけてごめんねママ、お姉ちゃん」
パールの言葉にデレるアンジェリカとアリア。似た者主従である。
「あ、ママ。明日は依頼受けないけど、ギルドの講習に出席するね」
「あら。そんなのあるのね」
冒険者ギルドでは、冒険者向けにさまざまな講習を実施している。パールはBランクとはいえ初心者であることに違いはない。
ギルドマスターからも勧められたので、参加することに決めたのだ。
「私も明日はリンドルに用事があるから送っていくわね」
「うん!ありがとうママ」
「じゃあ今日は早めに寝なさい。魔力たくさん使って疲れてるでしょ?ゆっくり休まなきゃダメよ?」
「うん。分かったー。じゃあおやすみなさい、ママ、お姉ちゃん」
たしかに今日はちょっと疲れたなー。でも思う存分魔法使えて楽しかった。また早く依頼受けたいな。
……ん?そう言えばママはどうして私がたくさん魔力使ったこと知ってたんだろ?
……まあいっか。
ゴブリンとの戦闘をアンジェリカが空の上から見ていたとは思いもよらぬパールであった。
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