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第二十三話 冒険者パール誕生?

今回から第二章に突入です。よろしくお願いいたします。

旧ジルジャン王国の首都オリエンタルは、ランドール共和国へと再編されたのを機にリンドルと町の名称を変更した。


その首都リンドルにある冒険者ギルドは普段から喧騒に包まれているが、今は少し変わったざわめきが広がっていた。


原因は、受付カウンターで手続きを進めている三人の冒険者と一人の子ども。


三人の正体はキラとケトナー、フェンダーのSランク冒険者である。


ただでさえSランク冒険者は畏怖される存在であるうえに、三人はいずれも二つ名持ちだ。ギルド内の注目が集まるのは当然だが、今日は違う意味で思いっきり注目の的になっている。


「ええと……冒険者登録とパーティの申請、ということで間違いないでしょうか……?」


受付嬢は戸惑いを隠すことなく言葉を発した。


目の前にいる小さな女の子が冒険者登録を希望し、しかも著名なSランク冒険者三人とパーティを組むと言うのだ。


突っ込みどころが満載すぎて意味が分からない。


そんな受付嬢の戸惑いを知ってか知らずか、パールは元気よく「はい!!」と返事をするのであった。




時は5日前に遡る。


アンジェリカは屋敷のリビングでくつろぎながら、パールの安全を強化できる方法を考えていた。


あの愚王にパールをさらわれたのは私にも責任がある。真祖である私に直接手を出せない以上、弱点を狙ってくるのはある意味当然だ。


今後二度とあの子を危険な目に遭わせないためにはどうするべきか。


ただ危険から遠ざけるだけなら、外出を許さず箱入り娘にしてしまえばいいのだが、それは間違いなくパールの反感を買うだろう。


いくら良案でもパールに嫌われるようなことは絶対にしたくない。


パールをもっと鍛える……?


いや、すでにパールは十分強い。条件次第ではSランク冒険者のキラとも互角に戦える。6歳にしては驚異的な強さだ。


それでもパールは愚王の手に落ちた。戦闘力の問題ではなく経験が足りないのだ。


外部との接触がほとんどなかったため、人間の悪意にも気づきにくいのかもしれない。


「はぁ……。どうすればいいのかしら」


頭を抱えていると、お風呂上がりのキラがリビングに入ってきた。


「お師匠様、頭抱えてどうしたんですか?」


「うん、ちょっとね……」


アンジェリカが悩んでいたことをキラに話したところ……。


「それなら冒険者として経験を積ませてみたらどうですか?」


「……本気で言ってるの?」


思わず眉間にシワを寄せるアンジェリカに、キラは慌てて説明を始める。


「せ、戦闘も含めていろいろな経験を積むなら冒険者が一番だと思うんです。簡単な案件なら危険も少ないですし。何なら私がパールちゃんと一緒にパーティ組みますし。」


ふむ。なるほど。


「でも冒険者か……。うーん……」


今ひとつ決心がつかない。


「ひとまず、パールちゃんにも聞いてみてはどうですか?」


「……そうね」



結論から言うと、パールはこの話にノリノリだった。


まさに親の心子知らずである。


あまり反対しても、また過保護だの過干渉だの言われるし……。


まあパールがいろいろな経験を積めるのはたしかにいいことだとは思う。


でも保護者としてはどうしても不安が拭えないのだ。


うーん、悩ましい……。



翌日、ケトナーとフェンダーが私とキラを訪ねてきた。


彼らはときどき街の様子を伝えに足を運んでくれている。


会話のなかで昨夜のことを話すと、なぜか彼らもノリノリになってしまった。


「それなら姫様、私たちもパールちゃんと一緒にパーティ組みますよ」


「ああ。何か面白そうだ!パール嬢と冒険するのも楽しそうだしな!」


……まあそんなわけで。パールは6歳でありながらSランク冒険者三人とパーティを組むことになったのである。そして話は冒頭に戻る。




「えーと、お嬢さん年はいくつ?」


「6歳です!」


困ったようにキラたちへ視線を向ける受付嬢。


「大丈夫よ。6歳だけど強力な魔法の使い手だし、条件次第では私とも互角に戦えるくらい強いから」


キラが苦笑いしながら口にした言葉に、受付嬢だけでなくギルドにいた冒険者たちも驚きの表情を浮かべた。


「マジかよ、6歳でSランクと互角?」


「いや、いくらなんでもそれはないだろ」


「かわいい」


あちこちからさまざまな声があがる。なかにはやや不穏なものも混じっているが。


「わ、分かりました。とりあえずパールさんの冒険者登録ですが、試験を受けてもらいます。試験に合格できたらパーティの手続きを進めましょう」


「はい!お願いします!」


元気いっぱいに答えるパールであった。



冒険者ギルドに冒険者として登録するには試験に合格しなくてはならない。戦闘力を見極めランクを決めるためである。


ランクは最下位のFから最上位のSまであり、通常はD〜Fあたりに認定されるケースが多い。


なお、試験は実戦形式だ。


「では、パールさんの試験官は……」


「おう、俺がやってやる」


受付嬢の話を遮るように、一人の男が名乗りをあげた。


屈強な身体に鋭い目つき。剣を携えているところを見るに剣士のようだ。


「ふ、副ギルドマスター!?」


「俺じゃ不満か?ああ?」


目つきだけでなく口も悪そうだ。


「シェクター、わざわざお前がやってくれるのか?」


受付嬢に副ギルドマスターと呼ばれた男がケトナーに目を向ける。


「おお、久しぶりだなケトナー。何か面白そうなことになってたからな。お前らSランクが認めるお嬢ちゃんの試験なんて楽しそうなこと、ほかの奴に任せてられるかよ」


凄みのある笑みを浮かべるシェクター。


「ちょっと副ギルドマスター!試験官やってくれるのはいいんですけど、相手は小さな女の子なんですからね!絶対ケガさせちゃダメですよ!?」


焦る受付嬢の忠告に対し手をひらひらと振り、シェクターは「ついてきな」とパールに声をかけギルドの訓練場へ足を向けた。



Sランク冒険者が認める6歳の新人に対し、副ギルドマスターが直々に実戦試験をするという。


このような楽しいイベントを無視する者はこの場にいなかった。


訓練場の周りには大勢の冒険者が集まり、試験が始まるのを今か今かと待っていた。


「さてお嬢ちゃん、やることは簡単だ。本気で俺にかかってこい」


「はい!」


ぎゅっと手を握り気合いを入れるパール。


「パールちゃん!いつも通り落ち着いてやれば大丈夫よ!」


キラからの声援に対しニコリと笑顔を返す。



「では、始め!!」


受付嬢が開始の合図をし、戦いの火蓋が切って落とされた。


先手を取ったのは……。


風刃(ウインドブレード)×2!』


パールが放った二つの風の刃が異なる軌道を描きつつシェクターに襲いかかった。


「ほう。やるじゃねぇか」


無駄のない動きで魔法をかわすシェクター。


かつてはAランク冒険者として名を馳せた男である。さすがの動きで魔法をかわすと一気にパールとの距離を詰めにきた。


「この間合いじゃ魔法は使えないだろ!」


パールに接近すると上段から鋭い斬撃を繰り出す。なお、万が一を考えて使っているのは真剣でなく木剣だ。


誰もが終わったと思ったのだが──


魔法盾(マジックシールド)!』


堅固な盾が顕現し、シェクターの斬撃を弾き返した。


「……ちょっと驚いたぜ」


パールへの印象が変わったようだ。そのパールはと言うと、斬撃を防御して素早くシェクターとの距離をとっていた。


そして──


展開(デプロイ)


パールの背後に50cm前後の魔法陣が横並びに五つ顕現する。


魔導砲(キャノン)!』


詠唱と同時にすべての魔法陣から一斉砲撃が開始された。


「な、なんだと!?」


経験したことがない魔法を目の当たりにしシェクターは驚愕する。


魔導砲はアンジェリカの独自魔法であるため、シェクターが知らないのも無理はない。


何とか必死にかわそうとするが、魔法陣から放たれた光の砲弾はシェクターの動きに合わせて軌道を変えどこまでも追尾する。


「ぐはっ!!」


魔法を防ぐ手段を持たないシェクターは、すべての砲弾を受ける羽目になった。


「あ。やば」


ついキラちゃんとの模擬戦感覚でやっちゃった。


まさか死んでないよね?と心配しつつ慌ててシェクターのもとへ駆け寄りケガの様子を確認する。


よかった。命に別状はなさそう。


パールはシェクターにそっと手を触れる……。


よし、何とか回復した。あとは大人に任せよう。



「そ、そこまで!勝者パールさん!」


まさかの展開に呆然としていた受付嬢が、慌てて終了を宣言した。


こうして、割とあっさりパールは冒険者ギルドの試験をクリアしたのであった。



「すげぇ……あんな魔法見たことねぇ」


「本当に6歳なのか?」


「高名な魔法使いの弟子とか……?」


見物人たちがざわめくなか、タンカにのせられたシェクターが運ばれてゆく。



「お疲れ様でした!副ギルドマスターを歯牙にもかけなかったことから、パールさんはBランクで登録させていただきます!こんなの前代未聞ですよ、すごい!」


受付嬢のお姉さんがめちゃくちゃ興奮してた。


でもまあ、試験を無事クリアできたのはうれしいな。


「それにしてもパールさん、めちゃくちゃ強いですね。ほんとに6歳ですか?」


「ふふ。パールちゃんは私のお師匠様のご息女だからな。強いに決まっている」


なぜか得意げな表情のキラ。


「へえ!そうなんですね。もしかして有名な冒険者とか……?」


「ああ……。まあ……」


苦笑いを浮かべながらごまかそうとするキラだったが・・・


「ママは真祖だよ!」


満面の笑みでパールがそう口にすると、ギルドは水を打ったように静かになった。


「へ……?ママが真祖……?」


驚きと戸惑いで口をパクパクさせる受付嬢。


ギルドに居合わせた冒険者たちのあいだにも少しずつざわめきが広がっていく。


と、そこへ入り口からギルドマスターのギブソンが入ってきた。


ギブソンはギルドの雰囲気に違和感を抱いたものの、すぐにその原因を把握したようだ。


まっすぐパールのもとへ近づくと、彼女の前でいきなり跪いたのでギルドのなかに一層大きなざわめきが広がる。


「はじめまして。真祖アンジェリカ・ブラド・クインシー様のご息女であられるパール様ですね?」


「は、はい」


驚くパールにギブソンはにっこりと優しい笑みを浮かべる。


「私はギルドマスターのギブソンと申します。先日キラさんからお話は伺っていました。アンジェリカ様からもお手紙をいただいています」


なるほどー。ていうかママそんなことしてたのね。相変わらず心配性だなぁ……。


パールは少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。


ギブソンはスッと立ち上がると背後を振り向き、ギルド全体を見回した。


「みんな、聞いての通りだ。彼女は真祖アンジェリカ様のご息女である。特別扱いは必要ないが、決して無礼な言動をしないように」


まだ驚きから抜け出せない冒険者たちの視線が一気にパールへ集まる。


「あんなにかわいいのに吸血鬼なのか……?」


「いや、だって真祖もめちゃくちゃ美少女だったぞ……」


先日、アンジェリカがギルドで騒ぎを起こしたときに居合わせた冒険者もいるようだ。


「なお、パール様はアンジェリカ様の養女なので人間だ」


冒険者たちの疑問に答えるようにギブソンが言葉を発すると、ちらりとパールに目を向けた。


「あ、パールです!よ……よろしくお願いします!!」


真祖の娘と聞きやや警戒していた冒険者たちだったが、上目遣いでかわいらしく挨拶する様子にすっかりメロメロになってしまった。


そしてここに、新人冒険者パールが誕生したのである。


最後までお読みいただきありがとうございました。少しでも面白いと感じてもらえればうれしいです。評価やブックマーク、感想をいただけるとより励みになります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 回復魔法が今まで出て来ていないので所謂神官だったり僧侶などの回復職や聖女の回復魔法と違う一般的な回復魔法があるのであれば大丈夫かもですが 副ギルドマスターに回復を施したのはアウトでは?…
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