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間話 皇城の総メイド長

大切なお知らせがあるので、活動報告をお読みください⭐︎

アンジェリカが国を飛びだし、放浪を始める前夜──


「ええと……これとこれ、あとはこれも……。あ、お嬢様お気に入りの茶葉も持っていかなくちゃ」


一人ぶつぶつと呟きながら、荷作りをしているのはアリア。紅茶の茶葉に本、武器などを手に取っては、無造作にアイテムボックスへ放り込んでいく。


「ふう……こんなものか。それにしても……」


アリアが小さく息を吐く。


ほんっと、お嬢様って……。行動力があるのはいつものことだけど、まさか国を出ようだなんてことを考えるとは。


まあ、気持ちは分かる。いつも自由奔放でお気楽に見えるけど、実際はそうでもない。


何せお嬢様は、始まりの真祖であるご当主様の大切な一人娘なのだから。


どろどろの権力争いに巻き込まれそうになったり、毎日のように求婚されたり。私がお嬢様の立場なら間違いなくストレスで死んでしまう。


アリアは大きく伸びをすると、展開していたアイテムボックスを閉じた。と、そのとき──


「忘れ物はないか?」


「ええ、そりゃも──!?」


背後からの声に、返事をしかけたアリアが石のように固まる。が、何とかそーっと背後を振り返った。


視線の先に立っていたのは、メガネをかけた白髪の少女。


「メ……メイド長……!!」


腕組みをしたままアリアを見つめるメガネの少女こそ、皇城の全メイドを統括するメイド長、マリーメイアである。


「ど、ど、ど、どうしてここに……!?」


ここはアリアの自室だ。


「私が何も気づいていないと思うか? 総合キッチンからこそこそと茶葉を持ち出したり、蔵書室でお嬢様好みの本を選別してたり……。それに、最近はお前もお嬢様も、どことなくソワソワしていたし」


「あう……」


マリーメイアが指でスッとメガネを押し上げる。レンズの奥に見えるオレンジ色の瞳。アリアは蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。


マリーメイア・ツェッペリン。


アンジェリカの母であるメグの専属メイドを経て、皇城に勤める全メイドの頂点に立った吸血鬼。


そして、兵士からメイドへ転身することになったアリアの教育係も務めていた。


「私に悟られるようでは、お前もまだまだだな」


「う……」


アリアの肌が粟立ち、頬を冷たい雫が伝う。それもそのはず、アリアはマリーメイアからめちゃくちゃ厳しく指導されてきたのだ。


「ま……いいさ」


マリーメイアがかすかに頬を緩ませる。張り詰めていた室内の空気も、わずかに緩んだ気がした。


「お嬢様はこうと決めたら一直線だからな。専属メイドであるお前が、それにつき従うしかないことは私も理解しているさ」


「メイド長……」


「ただ……」


「……っ!!」


アリアに近づいたマリーメイアは、そのこめかみを正面から鷲掴みにした。彼女の得意技、アイアンクローである。ちなみにこれはメグ直伝だ。


「い、いたたたたっ……ち、ちょっと、メイド長……!! 痛いですって!!」


「痛くしてるんだよ」


「な、なんでですかっ! あいっ……! ちょ──」


「私の心はもっと痛い」


「!?」


マリーメイアがそっと手を離す。


「お前、私に何も言わずに行くつもりだっただろ?」


「う……」


「当然だよな。お嬢様と一緒に国を出ようとしてるんだから」


くくっ、と笑みをこぼすマリーメイアに、アリアはジト目を向ける。が、すぐに姿勢を正し、マリーメイアに頭を下げた。


「すみません、メイド長……」


「おや、ずいぶん殊勝になったもんだな。昔はあんなに私に噛みついてたのに」


なお、そのたびに酷く折檻された模様。


「……」


「頭を上げな。今はお嬢様の専属メイドだろう? 簡単に頭なんて下げちゃダメだ」


マリーメイアが、アリアの栗色の髪をわしゃわしゃと撫でる。


「でも……」


「ふふ……ちょっと寂しかっただけさ。出来の悪い子ほど、可愛いとよく言うだろう?」


「で、出来が悪い……」


「高価な皿を何百枚も割るわ、掃除しようとして部屋を燃やしかけるわ、大切なお客様の前で派手にすっ転ぶわ……。あのころのドジっ子ぶりが鮮明に蘇るな」


「や、やめてくださいよっ。そんな黒歴史をほじくり返すのっ!」


アリアの頬がリンゴのように赤く染まる。


「でも……今はいいメイドになったと思うよ」


「え……?」


褒められたことが意外すぎたのか、アリアの口が思わず半開きになる。


「ほら、これ。持っていきな」


アリアへ差し出した手のひらの上。そこには、黒く細いブレスレットのようなものが載せられていた。


「これは……?」


「アイテムボックスを魔道具化したものだ。身につけておけば、いつか役に立つときが来るかもよ。ま、私からのささやかな餞別だ」


「メイド長……!」


アリアの瞳に涙が浮かぶ。


「お嬢様をしっかり守れよ、アリア。お嬢様はお強いが、脆い部分も多い。お前がそばで支えてさしあげるんだ」


「はい……! あ……私がお嬢様と一緒に出ていくことで、その……メイド長に迷惑かかっちゃうかも、ですけど……」


「気にするな。これでも皇城の全メイドを取り仕切る総メイド長だ。ご当主様からも最大の信頼を得ていると自負している。名門吸血鬼や軍部でさえも、私には何も言えんよ」


メガネの奥にある、オレンジ色の瞳がギラリと鈍い光を帯びる。


「お偉いさんや軍部も、必要以上に騒ぎ立てて私と敵対するようなことはしないだろう。何も心配しなくていいさ」


そりゃそうか、とアリアは素直に思った。皇城に勤めるメイドは、一人一人が一騎当千の強者だ。そして、その頂点に立つのが総メイド長、マリーメイア。


つまり、マリーメイアは軍に匹敵するほどの武力、組織力を有していると言っても過言ではないのだ。


「メイド長……どうか、お元気で」


「お前もな。元気でしっかりやれよ」


「はい……!」


アリアがスカートの端を摘み、スッと持ち上げる。


「では、メイド長……ごきげんよう」


涙を堪えながら、渾身のカーテシーを披露する。が──


「……やり直し」


「……は?」


「だから、やり直しっ! 姿勢が悪い! 今さらそんなこと言わせんな!!」


「は、はいぃっ!!」


やっぱり、最後の最後までメイド長はメイド長だった、と思わざるを得ないアリアであった。

出版情報を活動報告に載せました⭐︎表紙画像とあらすじもアップしてるので、ぜひ活動報告をご覧ください⭐︎

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