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閑話 いけない布教活動 3

最近プライベートがやたらと忙しく。。なかなか更新できませんでした。今後はどの作品もコンスタントに更新できるかな?と思います。

「せんせーーーー!! 来たよーーーー!!」


森のそばに立つ小さな家の庭に、少女のかわいらしい声が響く。玄関の扉がガチャリと音を立てて開き、紅い瞳の小柄な少女が姿を現した。アンジェリカの従姉妹であり、三人の少女を弟子として育てているリズである。


「早かったですわね、三人とも。さ、おあがりなさいな」


弟子のユイとモア、メルの三人娘に優しげな目を向けたリズが、少女たちを自宅のなかへと招く。三人はリビングへ直行すると、そろってお気に入りのソファへ体を埋めた。


「昨日、新しい茶葉を手に入れたばかりですの。今紅茶を淹れますわね」


「あ、リズ先生。私もお手伝いします」


三人のなかで一番まじめなモアがソファから立ちあがろうとするが、リズがそれを手で制した。


「大丈夫ですわ。来たばかりなのですから、ゆっくりしていなさいな」


「は、はい」


かすかにしょんぼりとしたモアを見て、リズがくすりと笑みを漏らす。


本当にあの子はまじめちゃんですわね。まあ、そこがあの子の良さでもあるのですが。


まじめで曲がったことが大嫌いなモア、楽天家で誰よりも負けん気が強いユイ、どこまでも天然だけど間違いなく天才の部類に入るメル。何もかも違うのに、よく仲よしでいられるものだ、とリズは感心した。


紅茶を淹れたカップをトレーにのせてリビングへ向かうと、いつものように三人娘は仲よくお喋りに興じていた。微笑ましい光景に思わず頬が緩んだリズだったが、テーブルの上に白い紙袋が置かれているのに気づいた。


「その紙袋、何ですの?」


「あ。これ先生にお土産! 最近王都で人気のお菓子なんだって! みんなで食べようと思って買ってきたんだ!」


元気印のユイが「にひひ」と笑みを浮かべる。


「そうでしたの。高かったんじゃありませんの?」


「大丈夫だよー。最近いいお小遣い稼ぎができたから」


紅茶のカップに手を伸ばしながら、ユイが口もとをにんまりとさせる。


「お小遣い稼ぎ?」


三人の向かいに座ったリズが首を捻る。モアとメルがちらりと視線を交わしている様子を見るに、二人もユイのお小遣い稼ぎとやらについてよく知らないようだった。


「私たちが聞いても教えてくれないんです」


「ユイはむっつりだから」


メルの言葉を聞いたユイが「はぁっ!?」と素っ頓狂な声をあげる。


「ユイ。あなた、まさかよくないことに手を出しているわけではないでしょうね?」


「ち、違うって! そんなことしないよっ」


じっと見つめてくるリズに対し、ユイが慌てたように胸の前で両手を振る。


「なら、お小遣い稼ぎっていったい何ですの?」


「う……」


問い詰められたユイが言葉に詰まる。


「ユイちゃん、友達である私たちにも教えてくれないんですね」


「多分、いかがわしいことしてる」


ジト目を向けてくる二人の友人に挟まれ、ユイはわかりやすく肩をすくめた。


「はぁ……わかったよ。実は……」



――商業地区の路地裏を全力疾走で駆け抜けた二名は、扉を乱暴に開けて部屋のなかに飛びこむと、その場でがっくりと肩を落とした。


「はぁ……はぁ……あ、あ、危なかった……!」


声の主は大きな扉のそばからフラフラと離れると、その小柄な体をベッドへ横たえた。その様子を、一緒に逃げてきたもう一名が呆れたような顔で見やる。


「いや、冗談抜きで危なかったですよ……! まさか、あんなことになるなんて……」


先ほど、路地裏でキラたちへ魔法を放ち、メンバー全員が逃げる手助けをした女がため息をついた。


「あはは……まあ、私としてはスリルもあって楽しかったけど」


「やめてくださいよ。ていうか、もうやめましょうよ。これから先は、本当に命がいくつあっても足りませんよ?」


「まあ、ね」


いたずらっぽい笑みを浮かべた女が、ベッドの上でガバっと半身を起こす。扉の前に立っていた女がそばに近づき、ベッドに腰をおろした。


「私もかなり危ない橋を渡ってるんですよ? もし猊下に知られたら何を言われるか……」


「そうだね。聞いたところによると、ソフィア教皇猊下は『商売敵が出てきた!』ってピリピリしてるみたいだし」


「それに、()()()()がやってきたということは、確実に御母堂様の耳にも伝わってるということです」


「うう……それはちょっと、怖い。私は直接お話ししたことないんだけど、やっぱり怖いのかな、レベッカ?」


教会で聖騎士団長を務めるレベッカは、再び呆れたような表情を浮かべると、当たり前なことを口にした女へジト目を向けた。


「当然じゃないですか、メアリ様。世界中の種族が恐れる真祖、国陥としの吸血姫ですよ? 怖くないわけないじゃないですか」


「そりゃそうか」


聖デュゼンバーグ王国の第一王子、ゾアの側室であるメアリが乾いた笑みをこぼす。


「というわけで、もうこのあたりにしておきましょうよ、メアリ様。聖女様の大ファンであるあなたの気持ちはよく理解していますが、キラが言っていたように、本人やそのご家族が迷惑だと感じてるんですから」


「うう……」


うなだれた様子のメアリは、ベッドからゆっくりと立ちあがると、窓際に設置された大きな机へと足を向けた。


机の天板に置きっぱなしになっていた、数枚の紙のなかから一枚を手にとり、じっと見やる。そこには、パールが満面の笑みを浮かべてクッキーを頬張る姿がていねいなタッチで描かれていた。


メアリは、以前王室が開いたお茶会でパールと直接顔をあわせたことがある。もともと、大ファンであるパールの絵をこっそり描きためてきたメアリだったが、あの日以来さらに創作意欲に火がついてしまったのだ。


「私も、メアリ様からその絵を見せていただいたときは、思わず感動しました。それに、パール様の功績をもっと知らしめたいという想いにも。でも……」


「うん……」


「今回はキラとルアージュさんの二人でしたが、今後はウィズさんやアリアさんがやってくるかもしれません。本当の刺客として。そうなったら、私でも今日のようにメアリ様を守ることはできませんよ」


自ら描きあげた自慢の絵を、そっと机の上に戻したメアリは、天井を見あげたまま大きくため息をついた。


「そう、だね。私は、聖女様のことをもっともっとみんなに知ってもらいたい、もっと好きになってもらいたいって、ただそれだけだったんだけど。聖女様にとっては、迷惑だよね」


「……ですね。暴走する熱狂的なファンが生まれないとも限りませんし。ないとは思いますが、万が一そのような輩に聖女様が傷つけられでもしたら、怒り狂った御母堂様にこの国ごと焼き尽くされてしまいます」


苦笑いを浮かべるレベッカを見て、メアリも力なさげに笑みをこぼした。


「……わかった。もうやめるよ。もちろん、聖女様のファンはやめないし、絵も描き続けるけど。私だって、聖女様には迷惑なんてかけたくないもの」


「それがいいと思います。絵もそうですが、あの伝記もかなりクオリティが高かったので、少々もったいない気はしますが」


「あはは。情報をくれたという女の子にもお礼を言っておいてちょうだい。あ、礼金もね。その子のおかげで、絵のイメージが湧いたし伝記にも深みを出せたから」


軽くほほ笑んだレベッカは、しっかりと頷くとメアリの部屋をあとにした。



――愛弟子たちと楽しい時間をすごしていたリズだが、ユイの話を聞いて苦笑いを浮かべずにいられなかった。


「とまあ、そんな感じかなー」


あはは、と笑ったユイがティーカップに口をつける。


「少し前から、パール嬢の絵や伝記まがいの冊子が出まわっているとは噂で聞きましたが……まさか情報源があなただったなんて」


「レベッカさんから直接お願いされたしね」


「聖騎士団長ともあろう者が関わっているのにも驚きですわ」


「まあ、パールちゃんの凄さを世に広めるためにってことだったし、まあいいかなって」


リズがくすりと笑みをもらす。


そう言えば、この子は以前から教会やその関係者とは接点がありましたわね。だからこそ、レベッカさんもユイにコンタクトをとったのでしょうが。


ちなみに、お姉様はパール嬢の絵や伝記が広まっているのをご存じなのでしょうか。パール嬢の神格化が進むと、いろいろと面倒なことになりそうな気がしますが。


すでにその件は解決しているのだが、リズがそのことを知るよしもない。その後、聖女パールの功績を人々に広めようとしていたメアリたちは活動を休止し、絵や伝記がそれ以上広まることはなかった。


絵や伝記を熱望していたデュゼンバーグ国民のなかには、涙を流して大いに悲しむ者もいたという。


ちなみに、メアリが描いたパールの絵は素晴らしい芸術性と完成度が高く評価され、作者不明のまま芸術界で伝説的な作品となった。


絵の作者が判明したのはメアリの死後である。彼女の死後、王室はメアリが描いた作品の多くを世界各国の美術館や博物館に寄贈した。


メアリが深い愛情と敬意のもと生み出した数々の絵は、彼女が亡くなったあとより多くの人の目に触れることとなり、数百年後の世界に生きる人々にも感動を与えたのである。

JKとJSの友情譚「永遠のパラレルライン」、天才エルフの少女が知能戦を繰り広げる「連鎖〜月下の約束〜」、魔王と娘の父娘愛?を描いた「子離れできない困ったパパは世界最強の魔王です」連載中。ほか、「戦場に跳ねる兎」「万能吸血鬼リズ先生の弟子育成日記」「今もあなたに私の声は聴こえていますか?」も連載中。

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― 新着の感想 ―
[一言] 死後とは言え世界規模の評価に発展するのは感無量かな~
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