第百九十七話 神族評議会
「子離れできない困ったパパは世界最強の魔王です!」連載中☆
世界中の女子を虜にするイケメン魔王ロキ。その魔王と人間の女性とのあいだに生まれた娘サクラ。物心ついたころから世界中の人気者だったロキは、サクラにとって近くて遠い存在。ゆえに素直にパパとも呼べない。一方、サクラを溺愛するロキは何としてでも娘からパパと呼んでほしく奮闘する。
どこまでも続く真っ白な空間。そのなかにポツンと設置された大きな円卓の席に、八名の男女が座っている。
「まだ来ていないのは二名か……」
灰色の髪をオールバックにまとめた、こわもての男が眉をひそめながら呟く。
「先に始めててもいいんじゃないのー?」
こわもて男の隣に座る、背の低い少女が頬杖をつきながら、退屈そうに口を開いた。
「そうもいかん。彼はまだしも……あの女は議題の中心なのだから」
「ふぁ……そっかそっか」
いかにも興味ない、といった様子であくびをする少女を、こわもて男がジロリと睨む。と、そのとき。空間の一部がぐにゃりと歪み、そこから一人の女が現れた。
「ごめんごめん。遅れちゃった」
ウェーブがかかった長いブロンドヘアの美女は、にっこりと微笑むと用意された自分の席へ優雅に腰をおろした。
「ごめんごめん、ではない。我々も暇ではないのだ。そもそも、今回の神族評議会の議題はサディ、お前に関することなんだぞ?」
「うるさいわね。謝ったんだからいいでしょ?」
こわもて男こと、豊穣の神ディルの苦言に対し、慈愛の女神サディはあっけらかんと言い放つ。
「まあまあディル、落ち着きなさい。サディ、あなたの態度も問題ですよ? あなたの行動について議論するため皆を招集しているのですから」
穏やかな表情を浮かべた黒髪の男、戦争の神クレイズがやんわりとサディを注意した。が、サディは「ふん」と鼻を鳴らすと、しなやかな足を組んで椅子の背もたれへもたれかかった。
「クレイズ、時間が惜しいので早く始めませんこと?」
金色の長い髪を左右で三つ編みにした美女が口を開いた。復讐の女神デランジェである。
「そうですね……まあ、一名足りませんが、彼はいつものことですし」
クレイズが一つだけ空いた席をちらりと見やる。
「ちょっと。私が少し遅れただけで文句言ってたくせに、どうしてエルミアは来てなくてもいいのよ」
「彼の行動にはすべて意味があるからです。ここに来ていないのなら、何かやるべきことがあるのでしょう」
不満を口にしたサディへクレイズが言う。まだ不満なのか、サディは唇を尖らせたままだ。
「とりあえず、神族評議会を始めます。議題は、慈愛の女神サディによる物理世界への過度な干渉について」
参加している神々が、一斉にサディへと視線を向ける。が、当の本人はというと涼しげな顔をしていた。
「女神サディは吸血鬼の真祖、アンジェリカ・ブラド・クインシーを抹殺するため、物理世界へ過度な干渉を続けています。その過程で悪魔族にも犠牲者を出したばかりか、結果的に竜人族や関係のない人間たちまでをも巻き込んでいる。これは神族として由々しき――」
「異議あーり」
議長であるクレイズの言葉を遮ったのは、今まさに議題にのぼっている慈愛の女神サディ。
「過度な干渉と言うけれど、私がやったこと、やろうとしていることはすべて物理世界のためを思ってよ。真祖アンジェリカは危険すぎる存在。放置すれば、きっといつか世界を破滅させるわ」
「そんな未来は確定していません。むしろ、あなたの身勝手な行動によって、より世界が不安定な状況に陥るとは考えなかったのですか?」
「はぁ? あんたたちはアンジェリカのことほとんど知らないでしょ? 私はね、狭っ苦しく何もない退屈な空間で、ずっとアンジェリカを見てきたの。その私が、あの女は危険だって言ってんのよ」
次第にサディの語気が強まる。そんなサディを、豊穣の神ディルがぎろりと睨みつけた。
「それはお前の勝手な思い込みではないのか。たしかに、真祖アンジェリカは物理世界において恐るべき力をもっている。が、それは世界の破滅につながるほどのものではない」
「過去にいくつも人間の国を滅ぼしたり、他種族を殺戮したりしているけど?」
「それはアンジェリカと敵対したゆえのことだろう。彼女が嬉々として国を滅ぼしたり殺戮したりした記録は残っていない!」
声を荒げたディルをサディが睨みつける。
「アンジェリカはこれから先、さらに力をつけるわ。そうなったら、誰も彼女を止められなくなる。私がやっていることは決して間違っていない」
「バカが……だから、悪魔族を利用してあのようなホムンクルスを創りだしたというのか」
「バカはあなたよ。それにホムンクルスなんて言わないで。あの子はれっきとした『天命の聖女』なのだから」
「何が天命の聖女だ! お前が気に入らない存在を消し去るためだけに作られた、殺戮人形ではないか!!」
怒り心頭に達したディルが勢いよく席を立ち、サディを指さしながら糾弾する。
「はぁ……話にならないわ。悪いけど、これ以上議論するだけ時間のムダよ」
「どういう意味ですか、サディ。神族評議会を侮辱する発言は許しませんよ?」
「別にそういう意味じゃないわよ。ちょっと、気分悪くなっちゃったから帰るわね。それじゃ」
一方的に言い放ったサディが、白い空間に吸いこまれるように消えていく。
「ま、待てサディ!」
「ばいばーい」
ディルの声が真っ白な空間に虚しく響く。まるで、まだそこにサディがいるかのように、ディルは彼女が座っていた席を睨み続けた。
――ガーデンテーブルの上を埋め尽くすカラフルな焼き菓子を見て、パールが目をキラキラと輝かせる。
「うわぁ! おじい様、これ全部食べていいの!?」
「うむ。パールのために世界中から取り寄せた甘味だからな。遠慮せずに食べるのだ」
「ありがとう、おじい様!」
次から次へと菓子を手にとっては、ハムハムと美味しそうに口へ運ぶパールを見て、サイファの口もとがかすかに綻ぶ。
「どうだ、美味しいか?」
「うん! どれも美味しい!」
「そうかそうか。実はな、ほかにこんなお菓子も――」
「ちょっとお父様」
アイテムボックスを展開しようとしたサイファをアンジェリカが制止する。
「む。どうしたアンジェ?」
「どうした、じゃありません。あまりパールを甘やかさないでください」
「か、菓子を与えるくらい、よいではないか……」
「ダメです。それに、パールが太ったらどうしてくれるんですか?」
「む……」
娘から説教されたサイファが、シュンと肩を落とす。
「ハムハム……ママ、おじい様をあまり……ハムハム……怒らないであげてよーハムハム…」
「パール、食べながら喋るんじゃないの」
満足そうな顔で焼き菓子を食べるパールの様子に、アンジェリカが小さくため息をつく。と、そこへ――
「おーい、パール」
庭から声が聞こえ、アンジェリカとパール、サイファが目を向ける。にこやかな笑みを浮かべながらテラスのほうへ歩いてくるのは、アンジェリカの兄ヘルガ。その背後には苦笑いを浮かべるアリアの姿も。
「あ。ヘルガおじ様!」
「やあ、パール」
テラスにあがってきたヘルガが、パールの頭を優しくなでる。
「ど、どうしたんですか、ヘルガお兄様」
「ああ。ちょっとアリアと一緒に買い物へ出かけていてな」
そう口にするなり、ヘルガは宙に展開したアイテムボックスのなかへ腕をつっこみ、いくつもの紙袋を取りだした。
「な、何ですかそれ……」
「パールの服だよ。似あいそうなかわいい服を買ってきたんだ」
嬉々とした様子で、ウッドデッキの上へいくつもの服を広げていくヘルガ。
「うわぁ……! どれもかわいい! ヘルガおじ様、これ全部私が着ていいの?」
「もちろんだよ。そのために買ってきたんだから」
「ありがとう! ヘルガおじ様!」
満足そうににんまりとした笑みを浮かべるヘルガを見て、今度はサイファが「ぐぬぬ」と唸る。そのそばではアンジェリカが深いため息をつき、アリアはひたすら苦笑いしていた。
「ちょっと待って……この流れはもしかして……!」
アンジェリカがハッとしたように庭へ目を向ける。視線の先では、軽い調子でノアと会話している兄、キョウとシーラの姿が。
「まさか……」
にこにこと笑みを浮かべるキョウとシーラが、軽い足取りでテラスのほうへやってくる。
「やあ、アンジェ。ちょっとパールにプレゼントをもってきたんだ」
「実は俺ももってきた」
キョウとシーラが同時にアイテムボックスを展開する様子を見て、アンジェリカはがっくりとうなだれた。
こ、このままでは……娘が甘やかされてとんでもないわがまま娘になってしまう……!
危機感を覚える母を尻目に、パールは満面の笑みでキョウとシーラにお礼の言葉を述べていた。
レビューしてくれたらガチで泣いて喜ぶ笑
「永遠のパラレルライン」連載中☆
カリスマJK読者モデル、樹里とアメリカ帰りの天才小学生、神木陽菜。いっさい共通点がなく価値観も異なる二人だが、ひょんな出会いから二人は友情を育んでいく。