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森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜  作者: 瀧川 蓮
第一章 滅びゆくジルジャン王国
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第二十一話 ギルドマスターの提案

冒険者ギルドの執務室には微妙に緊迫した空気が漂っていた。


本来このような場所にいるはずがない、伝説の真祖がソファに座っているのだから当然である。


「まず、今回の出来事については把握できているかしら?」


「はい。何でも娘さんを国王にさらわれたとか……」


「話が早いわね。そう。国王は私を従属させるため、娘をさらって人質にしようとした。あれはその報いよ」


悪意と敵意をもつ者にはいっさい容赦しない。おとぎ話で語られている通りだと、ギブソンは変に感動してしまった。


「その結果、王族や国の中枢にいた貴族たちが消えてしまったわけだけど、このままじゃこの国の人々が困るでしょ」


「そうですね……。帝国の動きもきな臭くなっていますし、何より統治者がいなくなったことで内乱が起きるかもしれません」


内乱など勃発したら、それこそ周辺諸国の思う壺だ。内乱で国力が低下した隙を突かれたらひとたまりもない。また、どちらかの勢力に肩入れして勝利へ導き、自分たちに都合のいい統治者を担ぎ上げる可能性もある。


「キラからあなたはこの町の有力者だと聞いたわ。貴族たちとも交流があると。これまでの王家に代わって国を治められるような人材に心当たりはないのかしら?」


「……一人だけ心当たりがあります。かつて帝国との戦争で大きな武勲をあげ、英雄と呼ばれたバッカス侯爵です。」


聞くところによると、バッカスなる人間はもともと騎士爵家の六男だったが、いくつもの戦争で数々の武勲をあげ、侯爵にまで上り詰めたのだとか。


戦場では激しい戦働きをするものの性格は温厚で、貴族だけでなく平民からの信頼も厚いという。


アンジェリカは遠くを見るような目つきになる。話を聞いているうちに、()()()を思い出したからだ。


奴隷から身を起こし国を興したハーバード1世。


今話題にのぼっているバッカス侯爵と、あの子の姿が何となく重なった。


「信頼できる人物なのね?」


「はい。それは保証します。彼ならきっとこの国をまとめられるでしょう」


よかった。時間がかかるかもしれないと思っていたが、意外とすんなり話が進みそうだ。


「私にもそれなりの人脈があるので、根回しをしておきましょう」


「ええ。それでお願いするわ」


「ただ、彼を統治者として立てたとしても、国としてまとまるには多少時間がかかります。それまでに帝国が侵攻してこないかどうか……。それだけが心配ですね」


たしかに、王家が滅亡した今は他国からすると絶好の侵略機会だ。


「ならそちらは私が何とかしておくわ」


「……それはどのように……?」


ギブソンは恐る恐る聞いた。


「聞かないほうがいいと思うわよ」


「……分かりました。では、そちらはアンジェリカ様にお任せします」


「ええ。この町は私の娘やメイドが気に入っているの。他国に侵略なんてされたら娘が悲しむからね」


実は、アンジェリカもパールがカフェのお土産で買ってきてくれるケーキを気に入っているため、この町が戦火に巻き込まれるのは避けたいと考えていたが、それは内緒の話。


「じゃあそういうことであとは任せて私は帰るわね。キラ、あなたももう帰るのなら転移魔法で連れ帰ってあげるけど、どうする?」


「あ、お願いします!じゃあギルドマスターにケトナー、フェンダー、また!」


軽く挨拶し、キラとアンジェリカは執務室から姿を消した。



「──ふぅっ……!!」


アンジェリカが姿を消し、ギルドマスターは思わず息を吐く。


自然に会話していたようであったが、実は相当緊張していたのだ。


「いやはや……、まさか伝説の国陥としと話をする日が来ようとは……。人生何があるか分かりませんね」


かつてA級冒険者パーティの魔法使いとして活動していたギブソンは、やや白髪が混じった髪の毛をかき上げながら苦笑いした。


ただそこに座っているだけなのに尋常ではない存在感。


魔法使いだからこそ、アンジェリカの底知れぬ魔力に畏敬の念を抱かずにいられなかった。


「それにしても、真祖があれほど人間に対して配慮してくれるとは、思ってもいませんでした」


「ああ。おとぎ話では強さや怖さばかり強調されているから余計にそう思えるな」


ケトナーは初めてアンジェリカと相まみえたときのことを思い出した。


「拾った人間の子どもを娘として育てるような姫さんだからな。その辺のへたな人間よりずっと人間らしいのかもな」


「へえ……。それはそうと、キラさんはアンジェリカ様と一緒に住んでいるんですか?」


「彼女に手も足も出ずに負け、感動してそのまま弟子入りしたのさ。まあ手も足も出なかったのは俺たちもだが……。今は魔の森にある姫様の屋敷に居候しながら修行をつけてもらっているようだ」


「なんともすごい話ですね……。Sランク冒険者が手も足も出ないというのにも驚きですが……」


「まあギルドへの報告はそこまで詳しくしていないしな」


ケトナーとフェンダーは苦笑いする。


「ギルドマスター、とりあえず先ほどの件よろしく頼む。行動が早いほうが混乱も少なくなる」


「ええ。さっそく動くことにしますよ」



-魔の森・アンジェリカの屋敷-


リビングのソファでは、アンジェリカがパールを膝にのせてくつろいでいた。


ふんわりとしたブロンドの髪の毛を撫でたり頬ずりしたりと、思う存分パール成分を補充している。


「ねえパール。本当に痛いところや違和感があるところはない?」


先ほどから三分に一度くらいの間隔で同じことを聞いているため、パールはやや辟易としているようだ。


「んもう。ママ、大丈夫だって何度も言ってるよね?」


「だってこんなこと初めてだし、心配になるに決まっているじゃない」


アンジェリカも引かない。


「本当に大丈夫だから!ママは過保護すぎるんだよー」


「うう……」


屋敷に戻ってからというもの、アンジェリカはパールにべったりだった。


アンジェリカだけでなく……。


「パール、一緒にお風呂入りましょ」


「パールちゃんケーキ食べる?」


「お嬢、面白い本を読んであげましょうか」


アリアにキラ、フェルナンデスまでやたらとパールを甘やかそうとするのだ。


それだけみんなに愛されている証ではあるのだが。


しばらくこんな日が続きそうだなぁ……。


パールはうれしいような恥ずかしいような、何とも言えない気持ちで小さくため息をついた。

最後までお読みいただきありがとうございました。少しでも面白いと感じてもらえればうれしいです。ブックマークや感想、イイねありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 死んだけどこの国王妃もいなかったのか・・・
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