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第百六十七話 再戦

少しの距離を置いて向かいあうパールと少女の姿をしたゴーレム。洞窟への侵入は決して許さない、と言わんばかりにゴーレムが入り口へ立ちふさがる。


「ケンちゃん、行くよ!」


『おう!』


魔力で体を強化したパールが、魔剣のケンを振りかざして一気にゴーレムへと迫った。正面から飛びかかり、ゴーレムの頭上からケンを思いきり振り下ろす。が――


ギンッ、と耳障りな音が響くと同時に、ケンが弾かれた。体勢を崩したパールに少女が鋭い蹴りを放つが、これは魔法盾(マジックシールド)で防御する。蹴りは防御したためダメージはないものの、パールは衝撃で吹き飛ばされてしまった。


魔力装甲(マジックアーマー)か……しかも俺様を弾くなんざ、めちゃくちゃ硬いな』


大きな目をぎょろぎょろと動かしながら、ケンが独りごちる。ゴーレムの魔力装甲によって攻撃を妨げられてしまい、少しプライドが傷ついたようにも見える。と、そこへ――


「パールちゃん、大丈夫!?」


特別パーティーの面々が到着したようだ。先頭を全力で走ってきたらしき、キラとミヤビの肩が激しく上下している。


「うん! それよりキラちゃん、気をつけ――!?」


ゴーレムが魔法を使うことをキラたちに伝えようとした刹那。ゴーレムが両手のひらを天に掲げ、キラたちの頭上に魔法陣が展開した。


「み、みんな、危ない! 離れて!!」


呆然とするキラやミヤビたちの頭上から、いくつもの雷が降り注ぐ。耳をつんざくような音を鳴らしながら降り注いだ雷により、複数の冒険者が黒焦げになった。


キラとミヤビ、彼女のパーティーメンバーは咄嗟に転がりながら魔法の有効範囲から脱したため難を逃れた。


「キラちゃん、気をつけて! あのゴーレム魔法も使えるから!」


「くっ……! 何てこと!」


こちらの魔法は効かないのに向こうの魔法は効く。何て不公平なんだ、とキラは憤ったに違いない。その顔には明らかな怒りと焦りの色が浮かんでいる。


「ミヤビちゃんたちも、少し離れて! 魔法が届く範囲にいるとまた攻撃されちゃう。あの洞窟、多分聖域だと思うんだけど、彼女は誰一人あそこへ入れるつもりはないみたい。入り口の前に立ってから、一歩も動かないしね。だから、魔法が届かないくらい離れれば、とりあえずは安心だよ!」


「なるほど……分かった!」


パールの話を聞き、キラたちはゴーレムとの距離をとる。一方、パールは先ほどから気になることが一つあった。


「ねぇ、ケンちゃん。さっき、あの女の子が展開した魔法陣見た?」


『……ああ。俺が考えていることも、おそらくパールと同じだ』


パールの頬を冷たい汗が伝う。先ほど、ゴーレムが攻撃のために展開した魔法陣を見たパールは、思わず息を呑んでしまった。


なぜなら、ゴーレムが展開した魔法陣の術式は、パールがよく見知ったものだったから。


「あの術式は……ママやお姉ちゃん、私と同じだったよね……」


『ああ。つまり真祖が用いる魔法陣の術式だ』


いったいどういうこと? ママからずっと魔法を習っている私ならともかく、どうしてこのゴーレムが真祖の魔法陣を展開できるの? 少女姿のゴーレムを視界に捉えたまま、パールは必死に思考を巡らせた。


ゴーレムが勝手に生まれることはない。つまり、今目の前にいるゴーレムも何者かによって生み出された存在だ。近接戦闘の強さに加え強力な魔法を使い、しかも魔法を無効化。さらに魔法陣の術式は真祖と同じ。


そこから導き出される答えは――


「もしかして……ママの一族の誰かが作った……?」


『もしくはアンジェリカが作った、ってところか』


何てこった。もし、もしも本当にママが作ったゴーレムだったとしたら。それってほぼママの眷属みたいなものなんじゃないの? とてもじゃないけど、そんなのに勝てる気がしないよ! 


ん……待てよ……? もしそうなら、ママに来てもらえばいいんじゃ……。いやいや、いやいやいや。すぐにママを頼るのはダメだ。これは冒険者である私たちの仕事なんだし! いつもママに迷惑と負担をかけるわけにはいかないよ! 


実際のところ、パールに頼られたらアンジェリカは小躍りして喜ぶのだが。何とか自分たちの力で解決したいと考えるパールだが、正直なところ状況はあまりよろしくない。ダメージを与えられる可能性があるとすれば近接戦闘だが、それでも確実に倒せる保証はないのだ。


さて、どうするべきか――


もう一度斬り込むか。パールがケンを構えなおしたそのとき――


背後で何かが炸裂したような音があたり一帯に響きわたった。同時にあがる冒険者たちの悲鳴。驚き振り返ったパールの目に、舞いあがる白い煙と地を転げる冒険者たちの姿が映りこむ。


「な、何なの!?」


『油断するな、パール!』


ただならぬ気配を察知したパールが空へ視線を向ける。三十メートルほど離れた場所の上空に浮かぶ一人の男。離れた場所からでもはっきりと分かる禍々しい魔力。パールは、それが間違いなく悪魔族であると認識した。


そう、キラやミヤビたち冒険者を空から攻撃したのは、悪魔族ドラゴ。上空から地上を見下ろしていたドラゴは、パールが立つ場所から少し離れたところへふわりと舞い降りた。


「キラちゃん、ミヤビちゃん、大丈夫!?」


強力な魔法で地面が抉れ、足場がかなり悪くなっていた。キラやミヤビなど、上位ランカーは難を逃れたようだが、悪魔の攻撃によって数人の冒険者が怪我をしている。


「あ、ああ! あたいは無事だ! アリサにゾフィー、カイ、怪我は!?」


「問題ねぇ! ルイ、怪我した奴らに治癒魔法を!」


「は、はい!」


怪我をして唸っている冒険者のそばへしゃがみこみ、ルイが治癒魔法をかけてゆく。パールもケンを一度背中の鞘へ戻すと、怪我をしているとおぼしき冒険者のそばへ駆け寄り聖女の力を発動させていった。


「すまねぇ、パール嬢! 助かる!」


荒々しくパールへ感謝の意を伝えたミヤビは、少し離れた場所に立ちこちらを見やる悪魔族を睨みつけた。


「くそったれ……許さねぇぞあんにゃろう……」


悔しそうに言葉を絞りだしたミヤビが歯噛みする。


「落ち着け、ミヤビ。あいつはこの前の悪魔たちとはワケが違う。間違いなく上位の悪魔だ」


今にも飛びかかっていきそうなミヤビをキラが窘める。悪魔族との戦闘経験が豊富なキラには、ドラゴがただ者ではないことは嫌というほど理解できていた。


「分かってるさキラの姐御。ただ、強そうだからって手をこまねくわけにもいかねぇだろ。パール嬢、あいつはあたいらが引き受ける。パール嬢は引き続きゴーレムの相手をしてもらえるか?」


「分かった! でも、ミヤビちゃん気をつけてね。あいつ、本当に強いと思うから」


「ああ、任せとけ! おい、てめぇら! ハノイを拠点とする冒険者の意地、ここで見せねぇでいつ見せるんだ!? あの悪魔の目的は不明だが、パール嬢がゴーレムを倒す邪魔をさせるわけにはいかねぇ! あたいらで押さえるぞ!」


おお! と気を吐いた冒険者たちが、一丸となってドラゴのもとへ殺到する。強者の悪魔族とはいえ、Sランカーも加わる特別パーティーの全員を相手にするのは簡単ではないはずだ。パールは、キラやミヤビたちに心のなかでエールを送りながら、再び洞窟の入り口へと目を向けた。


少女の姿をしたゴーレムは、相変わらず表情をまったく変えていない。キラちゃんやミヤビちゃんたちが強いとはいえ、あの悪魔族もただ者ではないはず。戦闘が長引いたり、ほかの悪魔族を呼ばれたりすると面倒だ。一刻も早くこの厄介なゴーレムを何とかしなければ。


覚悟を決めたパールが、再び背中からケンを抜こうとしたそのとき――


特別パーティーの一行が通ってきた細い道がある方角から、高出力の魔法がパールに向けて放たれた。咄嗟に魔法盾を展開し魔法を弾く。


「ちょ、やっぱり仲間がいたの!?」


振り向きざまに魔法を防御したパールは、離れた場所に立つ黒い影を注視する。パールは、魔法で攻撃してきた相手が、今まさにキラたちと戦闘を繰り広げている悪魔の一味であると信じて疑わなかった。


相当離れた場所から魔法を放ってきた相手が、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。その姿をはっきりと視界に捉えたパールの表情が凍りついた。


「ど……どうして……?」


お互いの顔を認識できるくらい距離が近づく。パールは、今目の前にいる男のことをよく知っていた。何せ、昨日会ったばかりなのだ。眼前にいるのは悪魔ではなく人間、若き少年である。その右腕は、肘から先がなかった。


「マオ君……どうして……?」


瞳に冷たい色を宿しパールを見据えているのは、紛れもなくマオであった。ただ、見た目こそマオに違いないのだが、纏う雰囲気や漏れ出る魔力はマオと似ても似つかない。しかも、マオの額からはとても短い角が二本生えている。


突如、冷たい風が吹きすさび、パールの頬を力いっぱい殴りつけた。

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