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第百四十四話 準備

エビルドラゴンが潜むおおよその場所を絞り込んだアンジェリカは、エルミア教の教会へ転移しソフィアを拉致して屋敷へ戻った。


「ええと……アンジェリカ様? 私はどうして連れてこられたのでしょう……?」


リビングのソファに腰をおろしたソフィアがおずおずと質問する。なお、ソフィアの向かいに座るアンジェリカの隣ではリズがすまし顔で紅茶のカップに口をつけている。


「何? ここへ来るのは嫌?」


「い、いえ。そうではないのです。ただ、執務中にいきなり現れて理由も告げず拉致されたものですから……」


有無を言わさずエルミア教の教皇を拉致できるのは、世界広しと言えどもアンジェリカぐらいであろう。


「ああ。まああとで説明すればいいやと思って」


「ええぇ……いいですけど……それで、何かあったのですか?」


「うん。エビルドラゴンが潜んでいると思わしき場所がだいたい分かったわ」


「ほ、本当ですか!?」


「ええ。ランドールとセイビアン帝国、デュゼンバーグ、三国の国境にまたがる山脈。あのあたりでエビルドラゴンの気配を感じとったわ」


アンジェリカとアリア、リズの三名は索敵で気配を検知した場所へ直接赴き、さらに調査したのだが、エビルドラゴンそのものの発見にはいたらなかった。


感知できた魔力がごく微量であったためである。そこから推測できるのは、エビルドラゴンが敢えて魔力を抑えて潜んでいる、もしくは眠りについている、何らかの理由で弱っているのどれかだ。


「ただ、納得できないこともある。前、あなたに話した通り、デュゼンバーグの王族や国の中枢に関わる者が次々と亡くなっているのはエビルドラゴンが何かしら関係していると考えられるわ」


「はい……」


「でも、そのエビルドラゴンは山脈に潜み、しかも検知できた魔力は微量……謎じゃない?」


眉を顰めながら言葉を紡ぐアンジェリカに、ソフィアが黙って頷いた。


「いったい……どういうことなのでしょうか?」


「正直分からないわ。でも、あの山脈のどこかにエビルドラゴンが存在するのはほぼ確定よ」


「そうなのですね。では早急に各国で連携して軍を――」


「おやめなさい」


カップをカチャリとソーサーへ戻したリズが、ソフィアの言葉を遮り紅い瞳を向ける。


「人間の軍をいくら差し向けたところでムダな犠牲者を出すばかりですわ。まあ……物理攻撃は効くわけですし、大軍で囲めばかすり傷程度は負わせられるかもしれませんが」


「う……」


「考えてもごらんなさいな。子どものころとはいえ、真祖であるお姉さまでも倒しきれなかった相手ですわよ? 人間が束になっても叶うわけはありませんわ」


リズが口にすることは正しい。エビルドラゴンのブレスや強力な魔法は圧倒的だ。過去には複数の国や都市が壊滅に追いやられている。


ただ、エビルドラゴンはひとしきり暴れたあと長い眠りに入る。だからこそ、人間の国がすべて滅びるようなこともなかったのである。


「で、ではいったい私たちはどうすれば……」


ソフィアの顔に苦渋の表情が浮かぶ。自分たちに降りかかる火の粉はできるだけ自分たちで何とかしたい。だが、それは無理だと断言されてしまい、ソフィアは自分たちの無力さに打ちひしがれた。


「戦いは私たちに任せればいいわ。ソフィア、あなたたちは被害をできるだけ減らすべく、今からしっかり準備を進めなさい」


「準備……というと?」


「エビルドラゴンが潜んでいると思わしき地点の周辺には誰も近づけさせないこと。あと、避難できる場所があるのなら避難させたほうがいいわね」


「なるほど……ただ、その前に国王陛下や王子たちへの説明が必要ですね」


「そうね。まあ、そこはあなたなら何とかなるでしょ。他国とも情報を共有したほうがいいわね」


ソフィアは少し目を伏せ思案するような素振りを見せたかと思うと、アンジェリカの瞳を正面からしっかりと見据えた。


「アンジェリカ様、お願いがあります。国王たちへの説明に、聖女様をお借りしてもよろしいでしょうか?」


「パールを?」


「はい。エビルドラゴンの脅威が迫っていることをお伝えするにも、私の言葉だけでは信憑性が低いと言わざるを得ません」


アンジェリカが腕を組んで天井を見上げる。なるほど、たしかにそれもそうか。いきなりソフィアからそのような話をされても普通は信じないかもね。


「聖女様がそのお力でエビルドラゴンの脅威を感じとったというのなら、王族や他国もきっと信じるはずです」


「そうね。まあパールがいいって言えばだけど……あの子が断るはずはないか」


クスリと笑ったアンジェリカは、壁際に控えていたフェルナンデスに目を向ける。


「フェルナンデス。パールはどこ?」


「は。パールお嬢は図書室で読書中です」


「そう……邪魔しちゃ悪いわね。ソフィア、さっきの件は私からあの子に伝えておくわ」


「はい。ありがとうございますです」



――本のページをめくる音だけが一定の間隔で聞こえる静かな空間で、熱心に読書をしているのはアンジェリカの愛娘であり聖女のパール。


最後のページに目を通したパールは、パタンと本を閉じ余韻に浸る。最近パールがはまっているのは創作の物語である。なかでも、恋愛ものの物語にはまっていた。


「ああ……素敵なお話だったなぁ……」


机の上に横たわっていた魔剣のケンが、ぎょろりとパールへ目を向ける。


『ずいぶん感動しているな。パールもそういう色恋に興味があるのか?』


「うーん、私自身はそういうのに興味はないかな。でも、物語として読むのはとっても楽しい!」


どこからどう見ても美少女なパールはリンドル学園でも注目の的である。ただ、学園始まって以来の天才児ともてはやされ、しかも凄まじい魔法の使い手ともあっておいそれと近づく男子は少ない。当然、恋愛にいたることもないのである。


『なるほどねぇ~。まあ、パールは俺様が認めるイイ女だからな。いつかきっと俺みたいなイイ男が現れるはずさ』


「あはは、ありがとうねケンちゃん」


イイ男じゃなくてイイ魔剣なのでは? とツッコミたかったパールだが、それは口に出さない。


「さてと……ちょっとリビングに行こうかな……ん?」


椅子から立ち上がったパールが「ん~」と伸びをしてケンを手にとろうとしたとき、少し離れた机の上にあった一冊の本が視界の端に映りこんだ。


「んー? 何だろこの本」


鮮やかな青い表紙の本を手にとったパールが、ペラペラとページをめくる。と、途中にしおりが挟まれているのに気づいた。


あ。エビルドラゴンについて書かれてある。ママかフェルさんが調べものでもしていたのかな?


『パール、リビングへ行くんじゃないのか?』


「ん……ちょっと待って……」


何となく興味をひかれたパールは、立ったまましおりが挟まれていたページへ目を通し始めた。

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