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第百三十九話 不気味な類似点

リズのもとへ訪れた翌日、アンジェリカは冒険者ギルドに足を運んだ。扉を開けた途端、冒険者たちの賑やかな声が壁になって押し寄せる。


丸いテーブルへ足をのせてくつろいでいた行儀の悪い冒険者もいたが、アンジェリカの姿を見た途端に顔を青く染めて席を立ち(こうべ)を垂れた。


「ギブソンはいるかしら?」


つかつかと一直線にカウンターへ向かったアンジェリカは、受付嬢へ単刀直入に聞いた。すでに何度もアンジェリカと顔をあわせてはいるものの、受付嬢の顔に微かな緊張の色が浮かぶ。


「は、はい。執務室に……ご案内しましょうか?」


「ええ。お願いするわ」


アンジェリカは受付嬢へにっこりと笑みを向けた。話が早くて本当に助かる。受付嬢の後ろをついて歩きながら、アンジェリカは昨夜のことを思い出していた。帰宅後にフェルナンデスからもたらされた新たな情報。



──リズのもとから屋敷へ帰宅したアンジェリカを玄関で待ち構えていたのは執事のフェルナンデス。彼から手渡されたのは一冊の本だった。


訝しげな表情を浮かべたアンジェリカだったが、本を受け取りフェルナンデスとともにリビングへと移動する。


「パールはもう帰ってる?」


「はい、アリアと一緒に。今は部屋で勉強しています」


「そう」


ということは、向こうは何の問題もなく片づいたということか。さすがはパールね。


にんまりとしたアンジェリカはリビングのソファに腰かけると、先ほど渡された本をローテーブルの上に置いた。


「で、フェルナンデス。この本は何なの?」


「……五十八ページからお読みください」


おそらくエビルドラゴンに関する情報が記載されているのだろう、と思いつつアンジェリカは言われた通りページをめくる。そこには、遥か昔エビルドラゴンに滅ぼされたという国に関する記述があった。


そこに記載されている内容に目を通し始めたアンジェリカの顔が次第に険しくなる。大昔に滅びたといわれるその国と、ある国を取り巻く状況があまりにも酷似していたためだ。


伝承によるとその国が滅びる前、次々と王族や国の中枢に関わる者が謎の死を遂げたという。謎の病気が流行り国の運営に携わる者も次々と死を迎え国力は低下、民衆が苦しむことになったとのこと。


そして、国も人々も満身創痍になったとき、とどめをさすかのように群衆のなかからエビルドラゴンが突然現れ国を焼き尽くしたという。


同じ箇所を何度も読み直したアンジェリカは、やがてパタンと本を閉じると静かにため息を吐いた。


「……事実だとしたら由々しき事態ね」


先日ソフィアから聞いた聖デュゼンバーグ王国の状況。本に記載されたエビルドラゴンに滅ぼされたという国とあまりにも状況が似すぎている。


まだ確定ではないが、デュゼンバーグがエビルドラゴンに狙われている可能性は高い。だが疑問も残る。


エビルドラゴンの力をもってすれば、一国を火の海にすることくらいそれほど難しいことではないはずだ。それにもかかわらず、何故王族や重臣たちを殺したり、病気を流行らせたりする必要があったのか。


……考えたところで分かるはずもないか。とりあえず早く新しい武器を何とかしなくては。ソフィアにも伝えてあげないと。アンジェリカはソファの背もたれへ体をあずけると、天井を見上げたまま目を閉じた。



──相変わらず忙しそうにしていたギブソンだったが、アンジェリカの訪問を快く受け入れてくれた。多分。


「アンジェリカ様、本日はいったい……?」


「以前パールがスカイドラゴンを倒したわよね? あのときの素材って余ってないかしら?」


「ええと……ほとんどは各方面に売却したと思うのですが……具体的にどの部分の素材をお求めで?」


「鱗か爪、もしくは牙かしらね」


「牙は無理ですね。パール様が魔法で頭部ごと消し去ったので……鱗なら倉庫に余っているかもしれません。今から見に行かれますか?」


「そうね。お願いするわ」


素材やアイテムを保管する倉庫はギルドの裏手にある。関係者以外は利用できない裏口から外へ出たアンジェリカは、ギブソンに案内されて倉庫のなかへ入ってゆく。


広々とした倉庫のなかには所狭しとさまざまな素材が保管されていた。アンジェリカでもあまり目にしたことがない珍しい素材も整理されている。


「アンジェリカ様、こちらです」


倉庫の奥まった場所に平積みされている金属質の板。パールが討伐したスカイドラゴンの鱗だ。


「……なかなか大きいわね。相当巨大な個体だったのかしら?」


「そう……ですね。パール様がいなければリンドルもどうなっていたか……」


複雑な表情を浮かべて平積みされた鱗を眺めるアンジェリカ。あのときの恐怖と不安が蘇る。


あれほど取り乱したのは久しぶりかもしれない。そう言えば取り乱しすぎてスカイドラゴンの巣を壊滅させたんだった。


「……とりあえず一枚欲しいんだけどいくら?」


「い、いえ! お代など……」


「そうはいかないでしょ。これくらいで足りる?」


恐縮するギブソンを無視してアイテムボックスを展開させたアンジェリカは、無造作に手を突っ込み何枚かの金貨を鷲掴みして取り出した。


「はい、これ」


「お、多すぎですよ!」


見ると貴重な古代の金貨も混じっていたが、アンジェリカは気にすることなくギブソンに押しつける。


「いいから取っておきなさいよ。何だかんだであなたには私もパールも便宜を図ってもらっているところもあるし」


「そんな……我々のほうが遥かにアンジェリカ様とパール様にはお世話になっています……」


「いいから。それじゃあ一枚もらうわね」


一方的に会話を終わらせたアンジェリカは、屈強な冒険者三〜四人がかりで持ち上げるのがやっとの鱗をひょいっと片手で持つとそのままアイテムボックスへと収納した。


「よし、次は……」


冒険者ギルドをあとにしたアンジェリカは、何とか過去の記憶を探りドワーフの里へ転移した。のだが。


「……あら? こんなとこだったかしら?」


きょろきょろと周りに視線を巡らせ首を傾げる。きちんと舗装された地面にいくつもの大きな建物が建ち並ぶ街並み。


とりあえず記憶を辿りつつ、昔剣を打ってもらった名工の工房があった場所へ向かう。それっぽいところへ辿り着いたものの、そこに建っていたのは巨大かつ立派な工房。


「ここかしら……?」


建物に掲げられた大きな目立つ看板。『素材加工・武器防具製作 オルグ工房』


と、工房名の下に気になる一文が記載されているのに気づく。そこには『真祖御用達』と書かれていた。


「……御用達って一度しか使ってないんだけど」


呆れた表情を浮かべたアンジェリカは、工房の扉をドンドンと強くノックした。

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