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第百三十七話 情報収集

青空の下で一列に並び両手を前方へ突き出している三人の少女。彼女たちの前にはそれぞれ魔法陣が展開している。


「ユイ、もう少し集中しなさいな。モアはそのままだと魔法陣を維持できないので魔力を練ること。メルは逆に魔力を抑えなさい」


少女たちから少し離れた場所で指示を飛ばすのは、真祖アンジェリカの従姉妹でユイたちの師匠リズ。


「うう~……きつい~……」


「私もつらいです~」


「お腹すいた」


ユイとモア、メルの仲良し三人娘は今日もリズ邸の庭で魔法の練習中である。顔を歪めるユイとモアに対し、平然とした表情を浮かべるメル。


「……はい。ではそこまで」


リズがパンパンと手を打ち鳴らし、少女たちのそばへ歩を進める。一気に疲労が襲ってきたのか、ユイは両膝に手の平をのせて肩を上下させ、モアはその場へペタンとへたりこみ、メルは空を見上げた。


「疲れた……」


肩で息をしながらぼそりと呟いたユイを見て微かな笑みを浮かべたリズは、その頭をそっと優しくなでる


「ふふ。でも以前に比べるとずいぶん魔力が安定するようになりましたの。努力はきちんと実になっていますわ」


「本当!?」


「ええ。精進なさいな」


リズから褒められて疲れが吹き飛んだのか、途端に元気になったユイにモアとメルがジトっとした視線を向けた。


「ユイって本当に現金というか……」


「ユイは単純」


二人の言葉はユイの耳にも届いているが、どこ吹く風である。


「さあ。おやつにしますわよ。先日美味しい紅茶を手に入れ――」


リズがユイたちに声をかけ屋敷へ戻ろうとしたところ、強い風が庭を吹き抜けた。風に煽られるスカートを慌てて押さえる少女たち。と、そこへ――


「ちゃんと先生やってるじゃない、リズ」


「きゃあっ!!」


突然背後から声をかけられリズは思わず跳びあがった。振り向いたリズの目の前に立っていたのはアンジェリカ。


「お、お姉さま!」


「ちょっとあなたに用があったから来ちゃった。お邪魔だったかしら?」


少し悪戯っぽい笑みを浮かべたアンジェリカに、リズは眉を顰めながらも心のなかでは喜んだ。


「い、いえ。お邪魔だなんて。ただ、いきなり背後から声をかけるのはおやめになってくださいまし」


非難めいた視線を向けられたアンジェリカだが、そんなことは気にも留めずユイやモアたちに向き直る。


「三人とも久しぶりね。美味しいお菓子をお土産に持ってきたから、一緒にいただきましょう」


その言葉に小躍りして喜ぶ三人娘。単純なのはユイだけではないようである。



――アンジェリカ邸の一室には大量の本が保管されている。もともと、アンジェリカとフェルナンデスが読書家であるため、屋敷の一室を図書室のようにしてしまったのだ。幼いころのパールがフェルナンデスに勉強を教えてもらっていたのもこの部屋である。


「……これも違うようですね」


片っ端から本を開き、ペラペラとページをめくっては閉じてを繰り返しているのは、アンジェリカの忠実なる執事フェルナンデス。


アンジェリカからエビルドラゴンについての情報収集を任されたフェルナンデスは、記憶を辿りながら資料を探していた。


かなり前だったとは思いますが、たしかにエビルドラゴンに関して記載された本があったはず。いったいどこに収めてしまったのか……。


ん? これは……パールお嬢が三歳くらいのときに読んでいた本ですね。なになに……『古代魔法についての分析と考察』? ああ、そうでした。お嬢はあれくらいのころから難しい本を好んで読んでいましたね。


幼いパールに付きっきりで勉強を教えていたころの記憶が蘇る。あまりにも呑み込みが早すぎて驚いたものだ。


あれほどの知識量がある生徒を指導する学園の教師はたまったもんじゃありませんね。


フェルナンデスはふっと笑みを漏らした。と、――


「フェルナンデスさん~休憩しませんかぁ~?」


思い出に浸っていたところ突然声をかけられ、フェルナンデスの心臓がびくんと跳ねる。声の主はルアージュ。手にはティーカップをのせたトレーを携えている。


「あ、ああ。ルアージュでしたか。ありがとう」


「いえいえぇ~それにしても、凄い本の数ですねぇ~」


この部屋へほとんど入ったことがなかったルアージュは、いくつもの本棚に大量の本が整理されている様子を目にして驚きの声を漏らした。


「お嬢様もパールお嬢も本が好きですからね。以前はこれほどはなかったのですが、パールお嬢のためにとお嬢様が張り切っていろいろな分野の本を集めたものですから」


「なるほどぉ~さすがアンジェリカ様ですぅ~」


部屋のなかをゆっくりと歩きながら、ルアージュは本棚に整理されている本の背表紙に視線を巡らせていく。


「それで、目的の本は見つかりましたかぁ~?」


「いえ。何せこの量ですからね。どれくらいかかることやら」


「ですよねぇ~。よし、私もお手伝いしますぅ~」


そう口にするなり、ルアージュは本棚のそばに置いてある脚立にのぼり始めた。


「ル、ルアージュ。メイド服で脚立にのぼるのは危ないですよ」


「大丈夫ですよ~……私身軽ですしぃ~」


焦るフェルナンデスと対照的に平常運転のルアージュ。脚立にのぼって何冊かの本を手に取ろうとしていたルアージュに視線を向けるフェルナンデスの視界の端に、見覚えのある本が映りこむ。


「あ、あれは……」


「ん? 目的の本見つかりましたぁ~?」


「ルアージュ、その左側にある青い背表紙の本をとってもらえますか?」


「え~とぉ。これですかぁ~……? きゃっ!」


「危ない!」


脚立の上でバランスを崩したルアージュが本を掴んだまま床へ落ちそうになったが、間一髪フェルナンデスが下で抱きとめた。ほっと息をつく二人。


「あ、ありがとうございますぅ~フェルナンデス様~」


「い、いえ。お怪我はありませんか?」


「はい~……それより、これでよかったでしょうか~?」


フェルナンデスはルアージュから本を受け取ると、パラパラとページをめくり始めた。エビルドラゴンに関する伝承を記した内容。これだ。


椅子に座ったフェルナンデスは、次々とページをめくりつつ内容に目を通していった。ほとんどは知識として覚えている内容だ。


が、あるページにフェルナンデスの目が留まる。それは、過去エビルドラゴンに滅ぼされた国に関する記載。


「こ、これは……!」


記載されていた内容に目を通すフェルナンデスの眉間にシワが寄る。頭のなかを整理し、紅茶のカップに手を伸ばす。口へ運ぼうとしたとき、カップの縁が少し欠けているのが目に入った。


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