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第百三十六話 慌ただしい聖女

少々体調を崩してしまい更新が遅れました。皆様も体調にお気をつけください。

「デュゼンバーグの王城ってこんな感じなんだ~」


第一王子ゾアの正室、セリアを助けてほしいとお願いされたパールは、ソフィアと一緒にデュゼンバーグ王城へ訪れた。


物珍しそうにきょろきょろするパールを、微笑ましそうに眺めるソフィア。と、そこへ――


「教皇猊下」


声をかけられ振り返ると、ゾアの側室クアラが不思議そうな表情を浮かべて立っていた。


「おお、クアラ殿」


「猊下、今日はもうお帰りになられたのでは……? それに、その少女は……?」


「ああ、実はこのお方に助けを求めに出かけていたのだ」


「助けを……? その少女にですか?」


目を丸くするクアラに、パールはぺこりと頭を下げた。


「このお方、パール様はただの少女ではない。聖女様だ」


「え!?」


クアラの顔が驚愕に染まる。驚いてそれ以上の言葉を紡げなくなったようだ。


「そういうわけでクアラ殿。私とパール様は少々急いでいる。また後ほどな」


それだけ口にすると、ソフィアとパールは踵を返しセリアの寝室へと向かった。



――セリアの寝室では、相変わらず第一王子ゾアがセリアの手を握ったままそばに控えていた。その背後には、ゾアからもっとも寵愛を受けていると言われる側室の一人、メアリの姿も。


「殿下……せめてお食事くらいとられてはいかがですか……?」


心配そうな表情を浮かべたメアリがゾアの背後から声をかける。


「大丈夫だ。私がセリアのそばにいたいのだ……」


メアリはそれ以上言葉をかけるのを諦めた。ゾアがこう言いだしたら聞かないことをよく理解している。


と、部屋にノックの音が響き、教皇ソフィアが一人の少女を伴い入ってきた。


「こ、これは教皇猊下。もうお帰りになられたのかと……」


「ああ。だがどうしてもセリア殿を救いたくてな。このお方にお願いするため席を外したのだ」


「その少女に……?」


わけが分からないといった表情を浮かべるゾア。至極当然の反応である。


「こちらの御方は聖女様であらせられる」


その言葉に、部屋のなかにいた全員が息を呑んだ。特に、ゾアの背後に立つメアリは大きく目を見開き驚いている。


「ま、まさか……聖女様が誕生しているという話は聞いていませんが……」


「いろいろと理由があってな。それについてはあとで話す。それより、パール様。お願いしてよろしいでしょうか?」


金髪の少女へ丁寧に頭を下げるソフィアを見て、ゾアや医師、メアリも腰を折った。


「うん。手を握らせてもらいますね」


トテトテとベッドのそばへ移動したパールは、眠っているセリアの顔をちらりと見たあと、白い手をそっととった。


「もう大丈夫ですよー」


パールがそう口にした途端、セリアの体が光に包まれる。驚きながらも、一同はその光景から目を背けることができなかった。少しずつ光が収まり、パールはセリアの手を静かに戻す。


「……ん……んん……」


これまで医師がどれほど手を尽くしてもまったく反応がなかったセリアに意識が戻った。再び驚く一同。


「セリア!」


ゾアがセリアの手をとり真上から顔を覗き込む。少しずつ開くセリアの目。


「ん……ゾア……殿下……?」


「ああ……あああ……セリア……!」


人目をはばからず大粒の涙を零し始めたゾア。とんでもない奇跡を目にしたからか、同席していた医師や大臣も涙を流している。


「わ……私はいったい……?」


「病気で今までずっと寝込んでいたんだ……!」


「そう……だったのね。でも……ふぁ……まだ少し眠いから眠るわね……」


意識は戻ったものの、寝たきりで体力が低下しているからか、セリアは再び眠りについてしまった。また目を覚まさなくなるのでは、と不安の色を滲ませるゾアに、パールが声をかける。


「病気はもう治ったと思うので大丈夫ですよ。ゆっくり休ませてあげてください」


「わ、分かりました。聖女様……此度の件、まことにありがとうございました。もしよろしければ、このままお礼をかねて歓待の催しをしたいのですが……」


「いえ。明日の授業に向けて予習をしておきたいので。このまま失礼します。それじゃソフィアさん、私は帰るからあとよろしくね」


さて、お姉ちゃんはどこで時間潰しているかな? パールが帰宅するときのため、王城の近くでアリアが待機しているのだ。


ゾアに軽く頭を下げたパールは、ソフィアに手を振るとそのままパタパタと部屋を出て行ってしまった。呆気にとられる一同。


「授業……聖女様が? いったいどういう……?」


「まあそれについては私から話そう」


怪訝な表情を浮かべるゾアとは対照的に、ソフィアは苦笑いが止まらなかった。そして、なぜか側室のメアリだけが廊下に出て走り去るパールの後ろ姿を眺めていた。



――外部からの来客を接待する応接室。革張りのソファに腰かけるのは、教皇ソフィアに第一王子ゾア、側室のメアリ、内務大臣ゲルドの四人。


「それにしても、聖女様がお生まれになっていたとは、まったく知りませんでした」


爽やかな香りの紅茶で多少気分を落ち着かせたゾアが、向かいに座るソフィアへ視線を向ける。


「いろいろと事情があってな。聖女様は現在ランドール共和国で暮らしておられる」


「授業と言っておられましたが、聖女様は学校へ通っているのですか?」


「ああ。殿下も聞き及んでいるのではないかな? 先日行われた学園対抗魔法競技会で、数名の教師を相手に一人で戦い一撃の魔法で全員に地を舐めさせた少女のことを」


「ええ、それはもう。とんでもない逸材がいるものだと驚いたのを覚えています……まさか!?」


「そう。その少女が先ほどの聖女パール様だ」


目を見開いて驚く一同。メアリにいたっては驚きなのか、手が微妙に震えていた。


「何と……癒しの力だけでなく戦闘にも長けているとは……!」


ゾアが顎に手をあてて何やら考え込む。隣に座りその様子を見た内務大臣ゲルドが、ソフィアに目を向けた。


「教皇猊下。聖女様は人類の救世主となるべき存在です。お生まれになっていることを公表しないばかりか、教会が保護もしていないのはどういうことでしょうか?」


ゲルドの言葉にはやや棘が含まれている。ソフィアへ向ける視線も厳しい。


「それが最善だったからだ。今後も、聖女様がお生まれになっていることを公表するつもりも、教会が保護する予定もない」


「バカな。あれほどの力をみすみす他国の手に委ねるのですか?」


「……誰に口を聞いている、大臣」


ソフィアの口から漏れた冷たい声に、ゲルドは思わずハッとする。エルミア教の教皇と言えば、この国では国王陛下に匹敵する権力者なのだ。


「……申し訳ありません猊下。しかし、聖女様への対応については、この国の大臣として納得がいきません」


「ほう。貴殿は無理やりにでも聖女様を教会の保護下に入れよと申すか?」


「それが通例です。そもそも、聖女様の両親も何をしているのですか。聖女様がお生まれになったら国と教会へ届け出るのが習わしであるのに……!」


憤りを隠せない様子のゲルドは、膝の上で拳を強く握りしめた。


「もし貴殿が言われるように聖女様を無理やり何とかしようなどと考えた場合、この国は間違いなく滅びるが、それでもそうしろと申すか?」


ソフィアはゲルドの瞳をまっすぐ見つめながら言葉を紡いだ。一方のゲルドやゾアは、言葉の意味が分からないといった表情を浮かべている。


「旧ジルジャン王国の王族が皆殺しにされ、王城が破壊されつくしたのは記憶に新しいだろう? その理由を知っているか?」


「……ええ。国陥としの吸血姫、真祖を激怒させたことが原因だと話に聞いております」


「なぜ激怒したのか、その理由は?」


「何でも、真祖の娘を王族が攫ったとか……市井の噂で聞いただけですが」


「それで合っている。そして、その攫われた娘というのが先ほどの聖女パール様である」


誰もが耳を疑った。もしソフィアの言葉でなければ、笑い飛ばされていたかもしれない。現にその場にいる全員が微妙な表情を浮かべている。


「そ、それはつまり……」


「そう、聖女パール様の母君は真祖、アンジェリカ・ブラド・クインシー様だ」


「そ、そそ……そんなバカなこと……」


「事実だ。生まれて間もない赤子だった聖女様は森に捨てられていたそうだ。それを、真祖アンジェリカ様が拾い娘として育てたのだ」


にわかに信じられない話を聞かされ、一同は驚愕のあまり言葉が出ない。それほど現実離れした話だった。


「ちなみに、私は個人的にアンジェリカ様と交流がある。だからこそ、今回娘のパール様に力を貸してもらえるようお願いができたのだ」


口をパクパクさせているゲルドと対照的に、ゾアは落ち着いていた。さすがは一国の王子である。


「なるほど……そのような理由があったのですね。それなら、聖女様の生誕が知られていないのも頷けます。まさか、猊下が真祖と交流をもっていたとは驚きでしたが……」


「過去に一度、教会の聖騎士が聖女様を攫おうとしたことがあってな。そのときはデュゼンバーグを更地に変えると酷く怒っておられた。私が直接出向き、謝罪することで許してもらえたのだ」


「そんなことが……。大臣、聞いた通りだ。聖女様に手だしすることはならん。冗談抜きでデュゼンバーグが更地に変えられてしまうぞ」


すっかり顔色が悪くなってしまったゲルドに、ゾアは苦笑いを浮かべながら注意を促す。


「ああ、猊下。聖女様は慌ただしくお帰りになられたので、きちんとお礼ができていません。いずれまたセリアと一緒にお礼をさせていただく機会を設けてくれませんか?」


「うん、そうだな。検討しよう」


真剣な目で見つめてくるゾアから視線を外し、ソフィアは少しぬるくなった紅茶に口をつけた。



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― 新着の感想 ―
[一言] これは正室をコロコロして側室が正室になり変わるパティーンかな?でもそれじゃほかの王族が無くなってる理由にはならないか。でもでも周りにうるさく言われないために先にコロコロした可能性も微レ存。 …
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