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第百二十五話 二人の指導者

「万能吸血鬼リズ先生のほっこり弟子育成日記」連載中⭐︎

森のなかを抜けてきた風が優しく肌を舐める。艶やかな長い黒髪が光を絡めて風に揺れた。魔獣だろうか、猛々しく吠える声が遠くに聞こえる。


「さあ、いつでもいいわよ」


芝生が敷き詰められた庭に立つアンジェリカ。視線の先には二人の少女。パールの友人であるジェリーとオーラだ。


雲が太陽を隠したのか、足元に影が落ちる。アンジェリカの意識が一瞬地面へ向いた隙を逃さず、ジェリーが魔法を撃ち込んだ。


次いで離れた位置からオーラも魔法を放つが、アンジェリカはわずかな笑みを浮かべつつそれらを回避する。


「次はこっちの番ね。しっかり受け止めなさい」


だらりと下げていた右手をスッとジェリーに向けるアンジェリカ。指先からほとばしる稲妻がジェリーに襲いかかる。


すぐさま魔法盾を展開したジェリーだが、アンジェリカが指先をくいっと上に向けると雷の軌道が変化した。


咄嗟に魔法盾を頭の上にも展開しようとするものの、わずかに反応が遅れ空から降り注ぐ雷を浴びる羽目になった。もちろん威力は落とされている。


一人になったオーラが焦りの表情を浮かべ魔法を連続で放つ。が、アンジェリカはそれらを悠々とかわしつつオーラとの距離を詰めると、彼女の頭を手刀で軽くぽかりと打った。


「はい、ここまでね」


アンジェリカがパンパンと手を打ち鳴らす。地面にへたり込むオーラ。雷を浴びて体が痺れているジェリーのそばでは、パールが聖女の力で回復させていた。


「二人とも上達が早いわね。でも、ジェリーは相手の動きを見てから行動に移る癖があるわ。最初の動きは見てもいいけど、そこからさまざまな可能性を考え予測しながら動けるようになること」


「は、はい!」


「次にオーラ。あなたは焦ったらいたずらに魔法を連続で放とうとするけど、あれでは魔力がいくらあっても足りないわ。まずは落ち着いてとるべき行動を考えること」


「わ、分かりました!」


アンジェリカによる振り返りの言葉を聞き、直立不動のまま元気に返事をする二人。


「よろしい。では、今日の指導はここまでにします」


「ありがとうございました!」


勢いよく頭を下げる二人にアンジェリカは優しい目を向ける。当初、競技会へ参加するためアンジェリカに指導をお願いした二人は、継続的な指導を望んだ。


どうしようかなと思ったアンジェリカだが、弟子にしたなら最後まで責任をもつこと、とリズを諭したこともあり継続的な指導を了承した。


アンジェリカ自身、指導した二人が成長していく姿を目の当たりにし楽しいと感じている。パールも加えてさっそく先ほどの復習を始めたジェリーとオーラを眺め笑みを浮かべるアンジェリカ。


「さて……あの子たちもうまくやっているかしらね」


自分と同じく人間の子どもを弟子にした妹分に思いを馳せつつ、アンジェリカは空にぷかりと浮かぶ雲へ目を向けた。



──お世辞にも広いとは言えない部屋のなかで、何かを思案しながらうろうろと歩き回る少女。


リズは頭を悩ませていた。何せ今まであまり経験がないことだ。うーんと唸りながら、ベッドの上に並べた衣類に視線を這わせていく。


「リズせんせーー! まだーー!?」


ユイの元気な声が響く。ああもう、焦らせないでよ。せっかく頭のなかがまとまりそうだったのに。


……よし、これにしよう。うん、そうしようそれがいい。リズは無理やり自分を納得させると、おもむろに服を脱ぎ始めた。



「……あ! やっと出てきた!」


「わあ! リズ先生とっても似合います!」


「うん。先生はきれい」


玄関の扉を開け出てきたリズに、三人娘が思い思いに言葉をかける。リズの顔はやや赤い。


「そ、そうかしら? 私、このような服はあまり似合わない気がするのですが……」


恥ずかしそうにもじもじとするリズ。普段は黒を基調にしたシックな装いのリズだが、今彼女が着ているのは華やかな花柄のワンピース。


「そんなことないよ! めっちゃ似合ってるし!」


リズのそばに近寄ったユイが、つま先から頭のてっぺんまで舐めるように見つめ感嘆の言葉を口にした。


「本当ですよリズ先生。それに、そういう服持ってるってことはいつか着るつもりだったんですよね?」


モアに追及されリズの目が泳ぐ。ええ、その通りですわよ。でも、買ったはいいものの何か華やかすぎというか子どもっぽいというか、私には似合わない気がして今日まで棚の奥で眠らせていたのですわ。


「大丈夫。先生はきれいだから何を着ても似合う」


相変わらず何を考えているのかまったく分からない表情のまま口を開いたメルが、リズに向かって親指をビシッと立てる。


昨日、三人の弟子から街へ一緒にお出かけしたいと言われたリズ。たまにはいつもと違う恰好を見てみたいと言われ、昨晩から家中の衣類を引っ張り出し何を着ていくか頭を悩ませていたのだ。


「……本当に変じゃありませんの?」


くねくねしながら、ちらちらと三人娘に目を向けるリズ。


「ぜんっぜん変じゃないよ! めちゃくちゃかわいいし!」


「そうですよ先生。もっと自信もってください」


「無問題」


子どもから励まされるような形になり苦笑いが漏れる。何か弟子たちが大きく見えますの。ふっと笑いリズは遠いものを見るような目になった。


「よーし! じゃあ行こーー!」


「そうですね。リズ先生、この前王都の商業街でとっても素敵なカフェを見つけたんです。一緒に行きましょう」


弟子たちと並んで歩き始めると、メルが腕を組んできた。


「あーー! ずるいぞメル!」


「早いもの勝ち」


ユイにニヤリとした笑みを向けるメル。


「じゃあ私はこっちを……」


反対側の腕にモアが絡みつく。


「ちょっと! 二人だけずるいぞー! せんせーー!」


「はいはい。では帰りはユイと腕を組みますの。それでよいでしょ?」


「うー……まあそれなら我慢するか」


ぷっくりと頬を膨らませるユイに思わず笑みがこぼれる。かわいいものですわね。ふと空を見やると、青空のなかにぷかりと雲が浮かんでいた。


……お姉さまもあの雲を見ているのだろうか。なぜかそんなことを考えながら、リズは愛弟子たちと王都への道をゆっくりと歩き出した。


「永遠のパラレルライン」「戦場に跳ねる兎」「今も貴方に私の声は聴こえていますか」連載中⭐︎

「連鎖〜月下の約束〜」完結⭐︎

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