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第百二十四話 尋問

永遠に続くかのようなときを生きていると、知らず知らずのうちに恨みを買うこともある。少しぬるくなった紅茶に口をつけながら、アンジェリカは自らの過去を振り返った。


リズもきっとどこかで恨まれるようなことをしたか、敵を作るような行為に及んだのであろう。アンジェリカ自身、人間を含むさまざまな種族から敵視された過去がある。


アンジェリカはダイニングチェアに腰かけたまま意識を集中させた。外にいるのは二人……どちらかはエルフだろうか、相当魔力が強い。もう一人はおそらく人間だ。


襲撃者が発したであろう声が耳に届く。声色こそかわいらしいものの言葉遣いは粗野だ。育ちの悪さが窺えるわね。アンジェリカの顔から薄い笑みがこぼれる。


ん? ちょっと待って。んん? この声どこかで……。


アンジェリカは静かに椅子を後ろへ引いて席を立つと、つかつかと一直線に玄関へと向かい扉を開けた。



「てめぇがここに巣くってる極悪な吸血鬼ってのは調べがついてんだ! 神妙にしやがれ!」


胸は大きいくせに背は低い少女がドスのきいた声でリズを威嚇している。


「そ、そうですよぅ~……おとなしくやられてくださいぃ~……」


語尾を伸ばす喋り方が特徴的な少女も、抜き身の剣を携え戦闘態勢をとっている。そして、アンジェリカはそのどちらもよく知っていた。


「……ちょっと。ウィズにルアージュ、あんたたち何やってんのよ」


突然よく知る声が屋敷の庭先に響き、跳びあがるウィズとルアージュ。次の瞬間にはアンジェリカを認識し二人とも呆然とした表情を浮かべた。


「ア、アンジェリカの姐さん!? ど、どうしてここに……?」


「いや、それはこっちが言いたいんだけど」


リズの隣に立ったアンジェリカは、呆けるウィズとルアージュに怪訝な目を向ける。


「……? この方たち、お姉さまの知り合いなんですの?」


「というか、二人ともうちで一緒に暮らしているわ。ダークエルフの居候ウィズに吸血鬼ハンター兼メイド見習いのルアージュよ」


「……お姉さまの屋敷はいったいどういうことになっていますの? 意味が分からないですわ」


すっかり毒気を抜かれたリズがため息を吐き、アンジェリカにジトッとした目を向ける。そんな二人のやり取りをちらちらと見やるウィズ。


「あ、あの……お、お姉さまってもしかして……アンジェリカ姐さんの妹さん……とか?」


「従姉妹よ。ただ幼いころから一緒にすごすことが多かったし、本当の妹みたいなものね」


その言葉に一瞬リズの頬が緩む。が、すぐ顔を引き締めウィズとルアージュに刺すような視線を飛ばした。


「それで、あなた方どうするんですの? 戦いたいのなら私は構わないのですが」


「い、いえ……アンジェリカ姐さんの従姉妹なんて絶対勝てる気しないんでやめときます……」


「右に同じですぅ~……別に恨みがあるわけでもありませんしぃ~」


二人は分かりやすく両手を挙げて降参の仕草を見せる。とりあえず詳しい話を聞くため、アンジェリカは二人をリズの屋敷に連れ込むのであった。



「……というわけなんですよ」


ウィズとルアージュは事のいきさつを簡潔にアンジェリカとリズへ説明した。話によると、二人は闇ギルドからの依頼でここへやってきたとのこと。


ルアージュはかつて凄腕の吸血鬼ハンターとして名を馳せていたため、その筋から声がかかったようだ。ウィズも以前はアングラな仕事を主に引き受けていたため、闇ギルドの関係者から話が回ってきたらしい。


「闇ギルドの賞金首になるなんて、あなた何したのよ」


アンジェリカが呆れたような目をリズに向ける。


「まったく身に覚えがありませんの。ねえ、あなた方。闇ギルドへ依頼した人物のことは分かりませんの?」


「そこまでは聞いていないです。私もルアージュの姐さんもちょっとしたお小遣い稼ぎ程度に考えて引き受けただけですし」


「そう……では直接聞きに行くとしますわ。あなた方、その闇ギルドとやらへ案内してもらえるかしら?」



――寂れたバーの地下にある闇ギルドの拠点では、木製の椅子に腰かけた男が落ち着きなさげに貧乏ゆすりを続けていた。聖デュゼンバーグ魔法女学園の元教師、ハイロウである。


「……ちっ! うっとうしいな! 落ち着きやがれってんだ」


ソファでふんぞり返る男が見かねて声を荒げる。結果を聞きたいからと先ほどから椅子に座って報告を待っているのだが、爪を噛んだり貧乏ゆすりをしたりととにかく落ち着きがない。


「心配しなくても、今回雇った二人は間違いなく凄腕だ。今ごろ吸血鬼の奴はボロ雑巾のようにされているだろうよ」


男は下卑た笑みを浮かべると、酒精の強い酒が注がれたグラスを一気にあおった。と、地下への階段を降りてくる足音が聞こえてきた。


「ほら、戻ってきたみたいだぜ」


だが、男の予想を裏切り、扉を開けて入ってきたのは髪をツインテールにした少女だった。


「あん? 何だてめぇ。ここはガキが来るところじゃねぇぞ。さっさと帰んなお嬢ちゃん」


「……あなたが私を殺すように刺客を差し向けた闇ギルドの人間ですの?」


「……何者だてめぇ……」


男がソファから腰を浮かしかける。どうやら、目の前にいるのが只者ではないことに気づいたようだ。


「あなた方が殺そうとした吸血鬼よ」


表情を変えることなく口にしたリズは、ソファに座る男へスッと指をさす。瞬間、男の右腕がちぎれ飛んだ。


「あぎゃあああああっ!!」


肩口から噴きだす鮮血。男は左手で肩口を押さえて汚い床の上を転がりまわる。


「正直に答えたら命だけは助けてあげますわ。私を殺すよう依頼したのはどこの誰ですの?」


紅い瞳に冷たい光を宿したまま、リズはみっともなく転げまわる男へ視線を刺す。


「あぎっ……ぎぎ……そ、そい……そいつ……そいつだ……!」


痛みを堪えて必死に言葉を紡いだ男が指さした先にいたのは、床に尻もちをついて失禁しているもう一人の男。リズは転げまわる男に興味をなくすと、失禁男のそばへ近寄った。


「……あなたが私を殺すように依頼した方ですの? さて、私あなたのような方と面識はないと思うのですが」


「わわ……あわわわわ……!」


男は歯をガチガチと鳴らすだけでまともに喋れない。はぁ、と小さくため息を吐くリズ。


「よくお聞きなさいな。すべて正直に話さなければ、今すぐあなたをここで殺します。さあ、どうなさるんですの?」


そこからは簡単だった。失禁男ことハイロウはみっともないほどペラペラとすべてを白状した。


聖デュゼンバーグ魔法女学園の元教師であり、ユイやメルたちに魔法を指導していたこと。


メルがリズの指導によって急成長し、自身が無能の烙印を押されたこと。メルの成長を認めず競技会の選抜試験で敢えて不合格にしたこと。そして教皇によって地位も職も奪われたこと。


最初は冷静に話を聞いていたリズだったが、次第に怒りがこみあげてきた。こめかみにくっきりと浮かぶ血管が怒りの度合いを示している。


「こ、これですべて話した! こ、殺そうとしたことは謝る! だから命だけは助けてくれ!」


ハイロウの言葉に答えることなく、リズは冷たい視線を突き刺した。


「……私を殺そうとしたことなど別にどうでもよいですわ。でも……私の弟子を傷つけたことは決して許せませんの」


怒りのこもった目でハイロウを睨みつける。


「ゆ、ゆゆ……許して……!」


「お断りしますわ。あなたのような下衆が生きているだけで私の大切な弟子が汚されているような気がしてしまう」


リズはスッと手をかざしてハイロウと闇ギルドの男を囲むように魔法陣を展開させた。


煉獄(ヘルファイア)


漆黒の炎がまたたく間に二人の男を包み込む。二人の男は断末魔の声を発する暇も与えられず消し炭となった。


ふん、と小さく鼻を鳴らしたリズは表情を変えることなく踵を返し闇ギルドをあとにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄腕の刺客がウィズとルアージュって…なんだか拍子抜けの気分ですがw  アンジェリカ屋敷構成員が超絶的なだけで、一般市民からすればパールにボコられるダークエルフも十分隔絶した存在だと再確認さ…
[一言] そっかぁ。そういえばその線もあったなぁ。まぁ二人の懐は温まっただろうし結果オーラーイ。( 'ω')
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