第百二十三話 刺客
前話で盛大な誤字をやらかしました。ご指摘くださった方、ありがとうございました。
「そうね……でもその前に」
リズから真剣な目を向けられたアンジェリカは、隣に座るソフィアへ視線を向ける。
「ソフィア、あなたそろそろ戻らなきゃいけないんじゃない? 昨日も今日も遊んでるんだからジルコニア怒ってるわよきっと」
「う……たしかにその通りなのです」
嫌なことを思い出したかのように顔色が悪くなるソフィア。
「リズ、私はこの子を転移で送るから、あなたもついてきなさい。で、そのままあなたの屋敷へ行きましょう」
「私の、ですか? まあ別に構いませんがなぜですの?」
「妹分がどのようなところに住んでるのか見てみたくなったのよ」
「お姉さまが暮らすこの屋敷に比べればちっぽけなものですわ。一人住まいですしね」
と、そこへアリアが姿を現した。リズの顔を見て懐かしそうに目を細めるアリア。
「リズ様、久しぶりですね」
「ごきげんようアリアさん。本当に懐かしいですわ。それに相変わらず……」
リズの熱い視線がアリアの胸元に注がれる。貧乳のリズにとってアリアの胸は憧れの対象である。
「ふふ。リズ様もいずれ大きくなりますよ」
にっこりと微笑むアリアに対し唇を尖らせるリズ。よく見るとアンジェリカもアリアにジト目を向けていた。
「こほん。ま、まあまたお邪魔しますわ。それじゃお姉さま、参りましょう」
リズに促され、アンジェリカとソフィア、リズは屋敷から姿を消した。
転移した先はエルミア教の教会内部、ソフィアの自室である。珍しそうに部屋のなかをじろじろと見てまわるリズ。
「……不思議な雰囲気の部屋……と言いますかこの建物全体が何やら……」
違和感を抱き首を傾げる。いったい何だろうこの不思議な感覚は。
「ああ。ここはエルミア教の教会だからね」
「エルミア教の教会? あなた、教会のなかで暮らしていますの?」
アンジェリカの言葉を聞きリズはソフィアへ怪訝な目を向ける。
「はい。こう見えてもエルミア教の教皇ですので」
「き、教皇!? あなたが!?」
驚きに目を見開くリズ。何となく只者ではないと思っていたが、まさか教皇だったとは。でも教皇の割には何というか、残念な感じというかポンコツ感というか……。
「ふふ。仕事中は残念な感じもポンコツ感もないわよ」
心のなかで思っていたことをアンジェリカに言い当てられ、リズはぎょっとした表情を浮かべる。本当、お姉さまは人の心が読めるのかしら?
「じゃあソフィア、また来るわね」
アンジェリカはソフィアに軽く手を振ると、リズと一緒に姿を消した。
──薄暗い地下室のなかで、ソファに深く腰かける男。闇ギルドを取り仕切るガーランドである。
数々の修羅場を潜ってきたガーランドの頰を冷たい汗が伝う。その理由は目の前に立つ二人の刺客。闇ギルドの人脈を駆使して見つけだした、今回の仕事に最適な刺客である。
「……話は聞いていると思うが、何か質問はあるか?」
明らかに只者ではない雰囲気を纏う目の前の刺客に対し、恐る恐る尋ねるガーランド。機嫌を損ねたら殺される、そう思わせるのに十分な殺気と魔力を纏う二人の刺客。
「質問はねぇ。が、うちらの取り分が少ないんじゃねぇか?」
「いや、だが……」
「相手は高位の吸血鬼なんだよな? ならもう少し色をつけてくれなきゃな」
ガーランドは思わず舌打ちしそうになった。くそっ、足元見やがって。
「分かった……その代わり確実に仕留めてもらうぞ?」
「ああ、任せとけ」
刺客は金を革袋に入れると、何も口にしなかった物静かな刺客を伴い踵を返した。
──ダイニングに漂うフルーティーな香り。リズの邸宅へ転移した二人は、改めてティータイムを楽しんでいた。
「……なるほど。そのようなことが……」
アンジェリカがパールを娘として育てるにいたった経緯や聖女であることなどを聞き、そっと目を伏せるリズ。
「ええ。血はつながってないけど、私はあの子を本当の娘と思っているわ」
リズはリンドル学園で会ったパールのことを思い返す。競技会の閉会式が終わったあと、ユイたちに続きパールがアンジェリカのもとへやってきた。
そのとき改めて娘であると紹介された。笑顔が素敵なかわいらしい少女。近くで見れば見るほど弟子のメルに似ていると感じた。
「……いったいどういうことなのでしょうか? メルとパール嬢が姉妹であるのはほぼ間違いないですわ。それが二人とも森に放置されていた……しかもパール嬢は聖女……」
リズは眉間にシワを寄せて思考を巡らせる。考えれば考えるほど謎が多いと感じた。子どもを育てる余裕がない家庭が赤子を捨てることはそう珍しくないが、人間にとって希望となる存在の聖女をなぜ捨てたのか。
しかも、二人が放置されていた場所は相当離れている。意図して離れた場所へ放置したのなら、そこにいったいどのような意味があるのか。
「まあ考えたところで分からないわよ」
あっけらかんと話すアンジェリカに呆れるリズ。
「……お姉さまらしいと言えばそこまでですが……」
はぁ、とため息を吐いたリズの片眉がぴくりと跳ねる。悪意をもつ者が近づく気配。
「お姉さま、どうやら来客のようですわ」
「そのようね。あなた、何か敵を作るようなことをしたの?」
「思いあたる節はありませんわ。まあ、とりあえず片づけて参りますのでお姉さまはごゆるりとしていてくださいまし」
そう口にするとリズは飲みかけの紅茶を飲み干し、落ち着いた足取りで屋敷の外へ出て行った。
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