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第百十七話 魔法競技会 初日

聖デュゼンバーグ魔法女学園の選手が控えるテント。対戦表に目を通している者もいれば、体を少し動かして戦いの準備をしている生徒もいる。


「皆さん、日ごろ学んできたことをしっかり出して頑張りましょうね」


教師からの激励に大きな声で返事をする選手たち。先ほどの魔法演習に相当な衝撃を受けた選手たちだったが、何とか気持ちを切り替えられたようだ。



「うーん、私は第三戦か。モアとメルは?」


見ていた対戦表を折り畳んでポケットに仕舞ったユイは、準備体操をしていたモアとメルに視線を向けた。


「私は第五戦ですね。相手は……サリーさん」


「私は第十戦。えーと、相手はジェリーちゃん……?」


取り出した対戦表に目を通したメルは首を傾けて何事か考え始める。


「どしたの、メル?」


「ん……どこかで聞いたことがある名前だと思って」


デュゼンバーグの商業街で迷子になったとき、メルはジェリーとオーラに会っている。が、どうやら思い出せないようだ。


「ユイの相手は……カイルさん。男性のようですね」


女子校のデュゼンバーグ魔法女学園に対しリンドル学園は共学であるため当然男子生徒もいる。


「みたいだね。まあ前はよく男子とも殴り合いのケンカしてたし何の問題もなし!」


腰に手をあて胸を張るユイに、モアは苦笑いを浮かべる。


「男子なんかよりパールちゃんのほうがよっぽど怖いよ。あんなの絶対勝てないって」


先ほどの魔法演習を思い出し、ユイは大げさにブルブルと震えてみせた。パールが独自魔法で五人の教師を一瞬で倒したとき、ユイたちは驚愕のあまり言葉が出なかった。それほどの衝撃だったのである。


「それに……パールちゃんの魔法って、リズ先生が見せてくれた魔法に似てなかった……?」


ユイの言葉に黙って頷くモアとメル。二人もユイと同じことを考えていたようだ。


「もしかして、パールちゃんもリズ先生の弟子だったとか……?」


「いや、それはないんじゃない? リズ先生、私たちのことも渋々弟子にしてくれた感じだったし」


「たしかに、それはそうですね」


うーん、と唸りながら考え込む三人だったが、そうこうしているうちに第一戦の開始時刻がやってきた。


「まあいいか。とりあえず三人で勝ち抜き目指そう! 今日も明日も絶対勝つぞー!」


おー、と三人は拳を天に突きあげると仲良く小走りで闘技場のそばへ駆けていった。



――ひな壇状になった観客席のもっとも高い位置に並んで座する二人の女性。エルミア教の教皇ソフィアと真祖アンジェリカである。


「ちょっとソフィア、やっぱりまずかったんじゃない?」


「だって、どうしても観戦に来たかったのです。大丈夫なのです、気づかれていないのです」


顔を寄せあいひそひそと会話する二人の美女に、周囲の観客がちらちらと視線を送る。二人は目立たぬように地味な見た目に変装しているが、素材がよすぎるためにどうしても目立ってしまうのだ。


アンジェリカはともかく、エルミア教の教皇がこのような場所にいるとなると大騒ぎになってしまうため、会話もなるべく小声でしている。


「それにしても、やはり聖女様は凄いですね。大人を、しかも魔法の教師五人を相手に圧倒するなんて」


「まあ私の娘だしね」


少し得意げな表情を浮かべるアンジェリカ。娘のことを褒められるのは何より嬉しいのだ。


「でも、あれほど強いとなると、同い年の子どもではまったく相手にならないですよね」


「そうね。だからパールは初等部ではなく高等部扱いらしいわ。対戦も高等部の選手になるみたいよ」


まあそれでも相手にならないとは思うが。それにしても、パールが闘技場に現れたときと教師を圧倒していたときの客席からの歓声は凄かった。我が娘ながら、あれほど学園で人気とは知らなかったわ。


ふふふ、と顔を伏せて静かに笑みをこぼすアンジェリカ。闘技場では第一戦が終了し、二人の生徒がお互いの健闘を称え合っていた。


続く第二戦はなかなか決着がつかなかったが、リンドル学園の選手が対戦終了間際に放った魔法が有効となり、リンドル学園側が勝利した。


そして第三戦。闘技場にのぼったのは栗色の髪をポニーテールにまとめた少女。魔法女学園の選手でありリズの弟子でもあるユイだ。


「あら……? あの子……?」


ユイの姿を目にしたソフィアは、顎に指をあてて首を傾げた。どこかで見たことあるような……。


「あ! あのときの!」


思い出した。教会で泣きながらお祈りしていた子だ。そうか、あの子も代表選手だったんだ。


「ど、どうしたのよ、突然大声出して」


「す、すみませんです。知っている子どもだったもので……」


アンジェリカにジト目を向けられたソフィアは、口を手で塞ぐと申し訳なさそうに肩をすくめる。


「ふーん、そうなのね」


視線を闘技場へ戻したアンジェリカの目に飛び込んできたのは、男子から撃ち込まれる魔法をことごとく回避し上手に魔法で反撃している女の子の姿。


ふむふむ。いい戦い方ね。魔力の調整もきちんとできている。指導している先生が有能なのかしら。


一進一退の攻防が続くが、リンドル学園の選手が一瞬態勢を崩した隙を逃さず、ポニーテールの女の子が魔法を撃ち込んだ。ユイの見事な勝利である。


思わず体の横で拳をグッと握るソフィア。わずかでも関わりをもった者が輝く姿を見られたことが嬉しい。


第四戦に登場したのは、この日二回目の戦いとなるパール。相手は五つ年上の上級生である。


が、当然パールの相手にはなりえなかった。開始直後にいくつもの魔法を連続で撃ち込まれた上級生は、あっさりと戦闘不能に。


「そりゃそうなるでしょうね」


苦笑いしつつぼそりと呟くアンジェリカ。パールの圧倒的な強さにソフィアもやや呆れ顔だ。


第五戦の舞台にあがったのは黒髪に眼鏡のまじめそうな女の子。魔法女学園側の選手、モアである。おとなしそうなお嬢ちゃんね、と思ったアンジェリカだったが、少ない魔力を巧みに調整しつつ戦闘を有利に進める姿に思わず嘆息した。


「最近の子どもって強いのね」


「その最たるものは聖女様ですけどね」


アンジェリカの言葉に思わずツッこんでしまうソフィア。でも、たしかに今年の競技会は全体的に水準が高い気がする。見に来てよかったとつくづく感じるソフィアであった。


第六戦に登場したのは、ソフィアの姪でありアンジェリカが魔法を指導したオーラ。ソフィアの応援にも思わず熱が入る。


「ちょ、ちょっとソフィア。バレちゃうわよ?」


隣ではしゃぐソフィアを肘でつっつき自制を促す。もしバレたらとんでもない騒ぎになるのは目に見えている。


対戦の結果はオーラの勝利。一方的に撃ち込まれる魔法に魔法女学園の生徒は手も足も出なかった。なお、対戦中にソフィアの存在に気づいたオーラが一瞬ぎょっとした表情を浮かべたのをアンジェリカは見逃さなかった。


「アンジェリカ様がオーラを鍛えてくれたのですよね? おかげで勝てました!」


「まあ素質もあったしね。それなりに厳しく指導したしこれくらいは当然の結果かしらね」


とはいえ、自ら指導した生徒が勝利するのはやはり嬉しいものだ、とアンジェリカは一人頷く。その後も見ごたえのある対戦が続き、ついに最終の第十戦となった。



――闘技場の上で向かい合う二人の少女。お互いが顔をあわせた瞬間「あっ」と小さく声を漏らす。メルもどうやら思い出したようだ。


「まさかあのときのメルちゃんだったなんてね」


「ん。負けないからジェリーちゃん」


主審から説明を受けた二人が開始位置まで戻る。いよいよ、魔法競技会の初日、最終戦の火蓋が切って落とされた。


まず動いたのはジェリー。


風刃(ウイングブレード)×二』


鋭い風の刃が二つメルに襲いかかる。が、メルは落ち着いてそれをかわすと、お返しとばかりに風刃を放った。


「やるねメルちゃん!」


ツインテールの髪を風刃がかすり、ジェリーの足元にパラパラと髪の毛が落ちた。


うーん、メルちゃん意外と素早いうえに魔法上手だなー。あのときと全然印象が違うよ。でも、私だってアンジェリカ様に鍛えられたんだし、これくらいなら何とか――


何とかなる。そう考えていたジェリーだったが、目の前の状況に戦慄が走る。目に映るのはこちらへ向けて手の平をかざしているメルの姿。


彼女の前には展開した三つの魔法陣。


「うそ……」


ジェリーの顔が驚愕の色に染まる。私はこの魔法を知っている。でも、そんなこと――


観客席から咆哮のような歓声があがる。実況も大声で何かを叫んでいるが、ジェリーの耳には聞こえなかった。そして――


魔導砲(キャノン)


メルがぼそりと呟くように詠唱した刹那、魔法陣から一斉に放たれた三つの閃光がジェリーに襲いかかる。


咄嗟に魔法盾を展開するがあっさりと破られ、直撃を受けたジェリーは闘技場の上をゴロゴロと転がりそのまま意識を失った。


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