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第百十五話 癒し系金髪ふんわり魔法美少女

聖デュゼンバーグの首都から少し離れた場所にある歓楽街を一人の男が歩いていた。フードを目深にかぶった男は背中を丸め、あたりを見回しながらゆっくりとした足取りで人通りの少ない歓楽街を歩いていく。


夕方以降は騒々しくなる歓楽街も昼間は人通りが少ない。目に映るのはまばらに行き交う人々の姿と、開店していない店舗が建ち並ぶ殺風景な風景。


小さな路地から猫ほどもある大きなネズミが飛び出し、男は思わず尻もちをつきそうになった。男は舌打ちをすると、ネズミが飛び出してきた路地へと歩みを向ける。


薄暗い通り沿いにある一軒のバーの前に立った男は、ゴクリと唾を飲み込むと静かに扉を開けた。日中だというのに、店内ではすでに数名の男女がカウンター席でグラスを傾けている。


「……ここに来れば仕事を請けてもらえると聞いた」


カウンターのなかでグラスを磨いていた初老の男性に話しかける。灰色の髪をべったりと後ろへ撫でつけた初老の店員は、男にジロリと視線を向けると何も言わず奥の扉を指さした。


扉を開けると地下へと続く階段があった。足元がよく見えないため、男は壁に手をそわせながらゆっくりと階段を降りていく。


小さな地下室のなかにいたのは数人の男。燭台が少ないため部屋はかなり薄暗く、誰の顔もはっきりと見えない。


「……依頼か?」


「……あ、ああ。ここはどのような仕事でも引き受けてくれると聞いた」


「ふん。まあ金と内容次第だがな」


部屋の奥でソファに腰かけふんぞりかえっている男が顎をしゃくる。近くに座れという合図なのだろう。足元に注意しつつ進み椅子に腰かけた。


「で、依頼の内容は?」


「……人を探して殺してほしい」


「おいおい、ずいぶん物騒な話じゃねぇか」


「……ここは闇ギルドなんだろう? それくらいお手のものじゃないのか?」


ソファでふんぞりかえったままの男がふんと鼻を鳴らす。


「まあな。だが依頼の難易度にもよる。いくら闇ギルドとはいえ誰でも襲撃対象にできるわけではない。いったいどこの誰を始末してほしいんだ?」


「……元教え子に魔法を教えていた外部の指導者だ。名前から察するにおそらく女だと思う」


「元教え子? ってことはあんた教師か?」


闇ギルドの男は呆れたような声をあげる。薄暗くて見えないが、おそらく顔にも呆れた表情が浮かんでいるのだろう。


「……元教師だ。私はそいつのせいで教師の職も地位もすべて失った」


聖デュゼンバーグ王立魔法女学園の元教師、ハイロウは怒りに顔を歪ませた。


「……へえ。とりあえず詳しい話を聞こうじゃねぇか」


ハイロウと闇ギルドの男、二人は同時に口の片端を吊りあげた。



――広大なリンドル学園の校庭に設けられた特設会場。校庭の中心には四角形の闘技場が設置され、それを囲むように階段状の観客席が設けられている。


学園対抗魔法競技会の初日、すでに観客席のほぼすべてが埋まっていた。参加者を応援しようと駆けつけた双方の学園関係者と生徒たちで観客席は埋め尽くされ、お祭り騒ぎさながらの喧騒である。


『あーあー、お集まりいただきました皆様! 大変長らくお待たせしました! これより第十八回、学園対抗魔法競技会を開催いたしまー---す!』


音声を増幅させる魔道具を通した声が校庭に響き渡る。


『わたくし、本大会の実況を任されましたリンドル学園高等部のアイドル! キャロルでーす! どうぞよろしくお願いしますー-!』


鈴のようなコロコロとした声で挨拶をしたキャロルに観客席が沸き立つ。


『えー、皆さん競技会の規則はご存じだとは思いますが、改めて説明しておきますね!』


競技会は二日にわたり開催される。各学園で選抜された十名の選手が個別に魔法戦を行い、最終的に勝ち星が多かった学園の勝利となる。ちなみに初等部と高等部の生徒が混在しているため、基本的には初等部は初等部の生徒と、高等部は高等部の生徒との対戦となる予定だ。


『なお、一日目と二日目では対戦相手が変わりますから選手の皆さんには臨機応変な対応が求められますねー!』


ちなみに、勝ち星が同じだった場合には双方で代表選手を選出し決定戦が行われる。


『それではさっそく第一試合……といきたいところですが、その前に模範魔法戦を行います!』


キャロルの言葉にどよめく観客席。今までそのような催しが行われたことは一度もない。


『双方の学園から選出された魔法教師の混成チームに、我が学園が誇る最っ強の生徒が一人で挑みます!』


驚きと困惑の声が一斉に観客席からあがる。一方、リンドル学園側の選手が控えるテントのなかではパールが苦り切った表情を浮かべていた。



「はぁ……何か見世物になるみたいでヤダなぁ……」


ため息をついたパールは、椅子に座ったまま足をバタバタとさせる。実は、何日か前に模範的な魔法の実演を実戦形式で披露してほしいと担任の教師からお願いされたのだ。


それにしても、子ども一人に大人の教師数人がかりってどういうこと? とパールは頬を膨らませる。


「まあまあパールちゃん。学園としては自慢の生徒を見てもらいたいって意味もあるんだと思うよ」


「そうなのです。きっと女学園の人たち、パールちゃんの強さに驚くのです」


ジェリーとオーラから諭されるも、パールは再度ため息を吐く。


「まあ、いいけどね。数人の先生たち相手だと手加減は難しいんだけど……」


自分が負けることなど微塵も考えていないパールに、ジェリーとオーラは苦笑いを浮かべた。と、そこへ再度キャロルの声が響き渡る。


『混成教師チームに対するのはリンドル学園始まって以来の天才児! 編入試験を満点で合格し、実技試験では強化された運動施設の魔法防壁を一撃の魔法で粉砕した癒し系金髪ふんわり魔法美少女、パール選手!!』


恥ずかしいよ!! 何だよ癒し系金髪ふんわり魔法美少女って! 痛々しすぎるよ!


心のなかで叫ぶパール。明るいイジメに遭っている気分である。


『なお、実況席にはリンドル冒険者ギルドのギルドマスター、ギブソン様とエルミア教の教会本部所属、枢機卿のジルコニア様にお越しいただいています!』


え、初耳なんですけど。何日か前に会ったときギルドマスターさんそんなこと一言も言っていなかったよね!?


『えー、ギブソン様。こちらの情報によりますと、パール選手は七歳にして冒険者としても活躍していると聞きましたが、これは真実なのでしょうか?』


『ええ、真実です。パール様はあのお年ですでにAランクの冒険者。ご両親も高位冒険者なので素質を受け継いでいるのでしょう』


『おー! そうなのですね! これはがぜん期待が高まります。ジルコニア様もパール選手と面識があるのだとか……?』


『はい。パールさんのお母様と親しくさせていただいておりますので』


『なるほど……! これは楽しみです。では、さっそく登場していただきましょうか! リンドル学園が誇る天才魔法美少女、パール選手の入場です!!』


いや、だからそれやめて!


頬を引き攣らせたパールだったが、テントのなかにいた選手たちから次々と激励の言葉をかけられ何とか気持ちを引き締める。とりあえず、なるべく目立たない程度に頑張ってこよう。


「じゃ、じゃあ行ってきます」


パールは選手たちに軽く手を振ると、緊張感のない足取りで試合会場へと向かった。

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