第百十一話 選抜試験
年末で少々バタバタしている瀧川ですこんばんは。年末年始もできるだけ毎日更新しますのでよろしくお願いします。
「では、これより学園対抗魔法競技会の選抜試験を開始します」
リンドル学園の屋内運動施設には、競技会への参加を希望する生徒が五十人ほど集まっていた。試験の進行を担う教師、ラムールが流れや注意点などを丁寧に説明していく。
試験は実戦形式で行われる。学園の教師を相手に対戦し、総合的な評価のもと合否が決まるようだ。
「うう……緊張してきたのです……」
「そうね……でも、アンジェリカ様にあれだけ特訓してもらったんだもの。絶対大丈夫よ!」
緊張でもじもじしているオーラをジェリーが元気づける。ジェリーの言う通り、二人は一週間近い期間をアンジェリカとの特訓に費やしてきた。最初はアンジェリカやパールの手助けが必要だったオークの討伐も、すでに一人でできるくらいの腕前には上達している。
「そうだよ! 二人ならきっと大丈夫! 私も応援してるね!」
拳を胸の前でグッと握って二人を励ますパール。二人の頑張りを近くで見てきただけに、絶対試験には合格してほしい。
なお、基本的に競技会への参加を希望する生徒は試験を受けなくてはならないが、パールに関しては例外で試験を免除されていた。
パールの実力は誰もが知るところであるし、どの教師が相手しようが敵うはずがないと理解しているためである。というわけで、今日のパールは二人の応援担当だ。
「それでは皆さん、準備ができ次第試験を開始します」
教師の言葉を聞き終わり、ジェリーとオーラは顔と気持ちを引き締めた。
――聖デュゼンバーグ王国、王立魔法女学園。屋内運動施設へと続く廊下を三人の少女が歩いていく。元気印のユイに黒髪メガネっ娘のモア、ど天然の隠れた天才メルの三人だ。
「あー、やば。緊張してきたわ~……!」
「そうですね……でも、私たちはリズ先生の弟子なんですから。きっとうまくいきますよ!」
「おー。頑張ろー」
やや緊張気味の二人に対し、メルはいつも通り。特にこれといった感情を見せぬままテクテクと二人に並んで廊下を歩いていく。
「はあ……メルってほんと緊張しないよね。羨ましいわ」
まったく緊張する様子が窺えないメルにちらりと視線を向けたユイがそっとため息をつく。
でも、今回に関してはメルが緊張する必要はまったくないよね。だって、リズ先生が指導してくれたおかげでメルの魔法は以前と比べものにならないくらい上達したんだもん。
それにしても、まさかメルにあんな才能が隠されていたなんてなぁ……。リズ先生は指導する教師が無能すぎるって言ってたけど。
そんなことを考えながら歩いていると、試験が行われる屋内運動館へと到着した。三人がなかへ入ろうとしたところ――
「ん? お前たちも試験を受けるのか」
魔法指導を担当する男性教師、ハイロウが三人に声をかけてきた。年は三十代半ば。理詰めの教育と指導を信条とする教師であり、リズから無能と嘲笑された男でもある。
「あ、はい」
「そうか。ん? メル、まさかお前も受けるつもりか?」
返事をしたユイからメルに視線を向けたハイロウは、馬鹿にしたような表情を浮かべた。
「ん? そうだけど」
無表情のままハイロウへ顔を向けたメルが簡潔に答える。
「いやいや、お前自分の成績分かってるのか? 冷やかしならやめておけ、時間の無駄だ」
「いや、合格するつもりだけど?」
その返答にカチンときたのか、ハイロウの眉間にシワが寄り目が細くなる。
「……ふざけるんじゃないぞ、メル。お前の技術で合格なんてできるわけないだろう……」
「ふざけてない。合格する」
はっきりと断言したメル。ハイロウのこめかみには蜘蛛の巣のように血管が浮き出ていた。
「……身のほどしらずな奴め。分かった、お前の試験は私が担当してやろう。自分がいかにダメな奴なのか思い知らせてやる」
およそ教師らしくない言葉を吐き捨てたハイロウは、軽く舌打ちをするとそのまま屋内運動館のなかへと消えていった。
「な、何なのよあいつ~! ほんっと腹立つ!!」
「ええ。いくら教師といえど言っていいことと悪いことがあります」
怒り心頭といった様子のユイとモアは、ワナワナと震えながらハイロウの背中を睨みつけた。一方、メルはと言えばいつもとまったく様子が変わらない。
「メル! こうなったら絶対に合格しなきゃだからね! 私たちが不合格になったらリズ先生が笑われちゃうんだから!」
怒りが収まらないユイは、メルの両肩を掴んで前後に強くゆすりながらその目を真っすぐ見つめた。
「うん。分かってるよ」
そう言いながら、メルは二人にVサインをしてみせた。
すでに建物のなかには試験を受ける生徒たちが集まっており、今まさに教師の説明が始まるところだった。一通りの説明を聞き終え、出番を待つ生徒たち。
リンドル学園と同様に、試験は教師との魔法戦である。広々とした建物内を三つに区画し、各区画で生徒と教師が魔法戦を繰り広げるのだ。
三人娘のなかで最初に出番がやってきたのはユイ。もともと魔法の成績がよく、リズの指導を受けたことでさらに技術を磨いたユイの攻撃に担当教師は幾度となく苦しめられる。
続くモアも、少ない魔力量をうまく調節しながら戦闘を優位に進めた。おそらく、ユイもモアも合格間違いなしであろうと多くの生徒が感じた。そしていよいよ、メルの出番である。
試験を担当するのは、普段からメルたちへ魔法指導を行っているハイロウ。腕を組んだままのハイロウは、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
「さあ、メル。好きに攻撃してきなさい。と言っても、魔法の成績が最下位に近い君の攻撃が私にあたるとは思えないがね」
安っぽい挑発をするハイロウに対し、メルの表情はいつもと変わらない。
「ん。じゃあ攻撃する」
メルの学園における魔法の成績はほぼ最下位である。どれほど指導しても、メルがハイロウの言う通り魔法を使えるようになることはなかった。
何を考えているのか分からない、身のほど知らずで生意気な生徒を少々懲らしめてやろう。ハイロウはそう考えていた。
だが、次の瞬間、ハイロウは信じられないものを目撃する。
『展開』
メルがぼそりと呟いた刹那、彼女の前に三つの魔法陣が同時に展開した。それも、極めて緻密な魔法陣である。ハイロウでもそれほど緻密な魔法陣は描けないうえに、三つ同時に展開するなどまずできない。
「な、なな……!?」
みっともないほど狼狽し始めたハイロウとは対照的に、落ち着きはらった表情のメルはスッと手を前方へかざすと静かにその魔法を口にした。
『魔導砲』
瞬間、三つの魔法陣から放たれた閃光が凄まじい速さでハイロウへ襲いかかる。回避するまもなく被弾したハイロウは数メートルふっ飛ばされゴロゴロと床を転がった。
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