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第百十話 邂逅

「非常にまずい」


デュゼンバーグ王都の商業街。大通りから一つそれた路地で頭を抱える少女。健康的な小麦色の肌が印象的なダークエルフのウィズである。


昨日、ウィズはアンジェリカから一つのお願いをされた。デュゼンバーグへ遊びに出かけるパールたちを陰からこっそり見守ってほしいとのこと。


お小遣いも貰えるとのことで快く応じたものの、想像以上の混雑で三人を見失ってしまった。


まずないとは思うが、お嬢たちに何かあったら間違いなく姐さんに消されてしまう。一刻も早く見つけなくては──


覚悟を決めたウィズは再び混雑する大通りへと歩みを向けた。



――大通りの北側。カフェのそばに立ちパールが戻ってくるのを待っていたジェリーとオーラは、二人そろって目をぱちくりさせていた。


二人の視線の先に見えるのは、建物の壁によじのぼってあたりを見回している一人の少女。ふんわりとしたブロンドの髪なので一瞬パールかと思った二人だが、さすがの彼女もあそこまでの奇行に及ぶことはない。多分。


「ちょ、ちょっと! あなた、危ないよ! それにスカートでそんなとこのぼったら……!」


駆け寄って大声で注意するジェリー。そう、下着が丸見えなのである。


「んー……降りる」


ジェリーの声が届いたのか、少女は器用に壁から降りてきた。が、その顔を見てジェリーとオーラは再び驚くことになる。少女の顔が二人のよく知る友人、パールと似ていたためだ。


「な、何かパールちゃんに似てますですね……」


「だ、だよね……いや、まあよく見るといろいろ違うけど……」


二人からまじまじと見られているにもかかわらず、少女、もといメルは特に表情を変えることもない。規格外の存在であるパールやアンジェリカをよく知る二人からしても、少女は異質に思えた。


「ね、ねえ。あなたあんなところのぼって何してたの?」


「ん。友達とはぐれたから探してた」


「ああ……そうなんだ。じゃあ私たちと同じだね」


「そうなの? あ、お腹すいた」


いきなり会話の流れをぶった斬るメル。とてつもないマイペースぶりに戸惑うジェリーとオーラ。こんなものしかないけど、とオーラが飴玉を手渡すと、メルはひょいっと口のなかへ放り込み満面の笑みを浮かべた。



――大通り南側の広場。串焼きを堪能したパールは、偶然知り合ったユイ、モアの二人とベンチに並んで座りお喋りを楽しんでいた。


「へえ~。パールちゃんはリンドル学園の生徒なんだ。じゃあ、今度の魔法競技会には出場するの?」


「うん。もしかして二人も?」


「そのつもりだけど、出場するには選抜試験に合格しないといけないんだよね」


はぁ、とため息をつくユイ。その隣ではモアがうんうんと頷いている。


「あ、やっぱり王立魔法女学園でもそうなんだ。リンドル学園も同じだよー」


「そうなんだね。私とモアはまあ、魔法の成績もいいし多分大丈夫なんだけど、今まさに迷子になっている友達がちょっと危ういんだよね」


もちろんメルのことである。


「あー、私の友達も試験が不安だからって、うちのママに魔法を習いに来てるよー」


特訓初日にいきなりオークと戦わされていた二人を思い出すパール。


「へえ。パールちゃんのママは魔法が得意な人なの?」


興味津々な目を向けてくるユイに、パールはにんまりとした笑みをこぼす。だが、もちろん母親が真祖であるなどと言えるはずはない。


「うん。高位冒険者だからね」


「すごーい! でも、私たちも今凄い先生に魔法を習ってるんだよー」


もちろんリズのことであるが、吸血鬼に魔法を習っているなどと言えるはずはない。そのあとも、魔法のことや学園生活、勉強のことなどいろいろな話題に華を咲かせた。



――あれほど混雑していた大通りだが、時間の経過に伴いやや人が少なくなってきた。先ほどに比べると混雑具合はずいぶん緩和されたので、もみくちゃにされるおそれはないだろう。


「さて、と。そろそろ友達を探しに行くかな」


ベンチからひょいっと立ち上がったパールは、大通りのほうへ目を向けた。


「そうだね。私たちも探しに行かなきゃ」


パールとユイ、モアは連れ立って大通りに向かう。やはり先ほどより相当歩きやすい。どうやらピークタイムはすぎたようだ。


と。かなり離れてはいるが、パールの目にジェリーとオーラの姿が目に入った。


「あ、いたいた。友達見つかったから私は行くね。じゃあ、競技会の試験頑張ってね!」


パールちゃんもね、と手を振る二人に笑顔で手を振り返したパールは、ジェリーとオーラのもとへ小走りで駆けていった。



――混雑が緩和された通りをじっと見つめていたメルは、相当遠くではあるが友人のユイとモアがいるのを発見した。


「あ。友達いた。じゃあ私は行くね。お喋りしてくれてありがとう。あと飴玉も」


ほんのわずか、にこりとした笑みを浮かべたメルは、ジェリーとオーラに手を振ると友人のいる場所へ小走りで駆けていった。



大通りの中間あたりですれ違う二人の少女。双方の距離は五メートル以上離れている。何かを感じたのか、すれ違いざまにお互いがちらりと横を向いた。


通りを歩く人々のあいだを縫ってごくわずかな時間交錯する視線。二人は同時に何とも言えない感覚を覚えた。


「……気のせい?」


パールとメルの言葉が重なる。先ほど感じたのは何だったのか、と考えつつも、二人はそのまま手を振っている友人のもとへと駆けていった。



――商業街に建ち並ぶ店舗のなかで、もっとも高い建物の屋根から通りを見つめるウィズ。パールが無事友達と再会できたことにウィズは安堵し、一人胸をなでおろしていた。


「ああ~よかった~……何事もなかった~……」


安心したウィズはローブのフードを目深にかぶると、三人そろって再び街を散策し始めたパールたちに目を向ける。今度は見失わないようにしなくては、と決意を新たにするウィズであった。

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