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第百九話 迷子

Happy Christmas⭐︎

「デュゼンバーグへ遊びに行きたい?」


「うん。オーラちゃんに誘われたんだけど行ってもいい?」


アンジェリカ邸のダイニング。夕食後そう切りだしたパールに、アンジェリカはやや困ったような表情を浮かべた。


「うーん、子どもたちだけで?」


「うん。私とオーラちゃんにジェリーちゃんの三人で。オーラちゃん、もともとデュゼンバーグに住んでたらしくて、王都の街にも詳しいんだって」


アンジェリカはむむむと唸りながら眉間にシワを寄せる。友達と遊ぶのは問題ないが、子どもたちだけで離れた場所へ遊びに出かけるのは心配でしかない。


うーん、でもこの前なるべく子ども扱いしないって約束しちゃったしなぁ。パールのことは信じてるし何かあっても大抵のことは大丈夫なんだろうけど……。


「ママ?」


「……ん、ああ。ごめんなさい、ちょっと考えごとしてたわ」


「……心配?」


「まあ、それはね……でも、いいわ。路地裏とか危なそうなところには近づかないこと、お友達をきちんと守ること、暗くなる前に帰ること。この三つ約束できる?」


パールの顔がパッと明るくなる。


「うん! ありがとうママ!」


満面の笑みを浮かべたパールは、グラスの水を飲み干すとパタパタとダイニングを出ていった。入れ替わりにダイニングへ入ってきたのはダークエルフの居候ウィズ。


「姐さん、お嬢は何か嬉しいことでもあったんですか?」


元気にパタパタと廊下を走っていくパールの姿を見て、ウィズが首を傾げる。


「……そのことで話があるの。あのね……」




──翌日。聖デュゼンバーグ王国の王都、その商業街をお喋りしながら歩く三人の少女。ユイ、モア、メルの仲良し三人娘である。


「いやー、いい買い物したね!」


「ですね。リズ先生喜んでくれますかねぇ」


「きっと大丈夫」


三人は、普段世話になっているリズに何かお返しをしようと街へ贈り物を買いにきていた。もちろん、あまり高価なものは買えない。


結局、持ち寄ったお小遣いで購入したのは紅い石をあしらったペンダント。リズの瞳の色に合わせたのだ。


祝日のため王都の商業街はいつにも増して活気に満ち溢れていた。お菓子や飲み物、軽食を販売する屋台もたくさん出ている。


「うわ、凄い人」


商業街でもっとも広い通りに溢れる人を見て、思わず顔を顰めるユイ。


「うわあ、本当ですね」


人混みのなかを何とか進む三人娘。小さな子どもなのでなかなか先に進めない。前後左右からぎゅうぎゅうと押され、もみくちゃにされながら通りを歩く。


「うう……メル、大丈夫か?」


いつもぼーっとしているメルを心配してユイが後ろを振り返る。が、そこにメルの姿はない。


「あ、あれ? モア、メルは!?」


「あら? いませんわね……もしかしてこの人混みではぐれたとか?」


「あちゃー……とりあえずいったん人混みから脱出しよう!」


とは言ったものの、とんでもない密集度なのでそう簡単なことではない。ユイはモアと手をつなぎ、何とか人混みの隙間を縫って進み大通りの南側へ出ることに成功した。




──商業街の大通り、北側にある一軒のカフェから満足そうな笑顔を浮かべて出てきたのはパールにジェリー、オーラの三人組。


「あー、美味しかったね!」


「うん、これは当たりね!」


「喜んでもらえてよかったのです」


以前デュゼンバーグに住んでいたオーラの情報で、お勧めというカフェにやってきた三人。リンドルでは見たことがない珍しい焼き菓子にも巡り会え三人はご満悦である。


「それにしても凄い人ね」


大通りに目を向けたジェリーの目に飛び込んできたのは人、人、とにかく人。ややうんざりとした表情が浮かぶ。


「今日は祝日ですからね。デュゼンバーグでは祝日のたびに商業街がお祭り騒ぎになるのです」


オーラの説明になるほどと頷くパールにジェリー。


「んー、あ! 何か美味しそうな匂いする!」


先ほど食べたばかりなのに、パッと目を輝かせて匂いのするほうへ走りゆくパール。その小さな体のどこに入るのか、ジェリーとオーラは不思議でならなかった。


「ちょ、ちょっとパールちゃん! 一人で行くとはぐれちゃうよ!?」


喧騒のなかでかき消されるジェリーの声。パールの耳に届くことなく、そのまま人混みのなかへ消えていってしまった。


「んもうーー! オーラ、どうする?」


「んんー、今私たちが追いかけると三人ともはぐれるおそれがあるのです。戻ってくる可能性もあるので、もう少し下がったところで待ちましょう」


オーラの案に従い二人でパールの戻りを待つ。が、五分、十分経ってもパールは戻ってこなかった。




──商業街の南側にある広場。ベンチの上に立ち周りへ視線を巡らせているのはユイ。


「んー、どこにもいないなぁ」


「困りましたね……今探しに戻ったら私達もはぐれそうですし……」


途方に暮れる二人。と、ユイが何かを発見した。


「ん? あれメルじゃない?」


視線の先には両手に肉の串焼きを持った少女。ふんわりとした美しいブロンドの髪はメルによく似ていた。駆け寄るユイとモア。


残念なことにメルではない。服装がまったく違う。だが、二人は少女を見て明らかに驚きの表情を浮かべた。


髪の色に質、顔立ちまでメルに似ていたからだ。もちろんよく見れば違うのは分かる。メルはもっと眠そうな目つきをしているが、目の前の少女は目元がぱっちりとしている。


「あれー? はぐれちゃったかなー?」


串焼きを両手に持ったままきょろきょろとする少女は、呑気なことを呟く。


「困ったなー。どうしよっか……ん? なーに?」


まじまじと見つめてくる二人の少女に気づいたパールが声をかける。


「え、あ! ごめんなさい! あなたがはぐれた私の友達に似てたものだから……」


ユイは慌てふためくが、喋った感じもメルとは全然違うと感じていた。


「そうなんだ。実は私も友達とはぐれちゃったんだー。探しに戻ろうかなー」


「そ、それはやめたほうがいいと思います。行くにしてももう少し人混みがマシになってからのほうが……」


親切心から止めるモア。


「そう、だよね。じゃあここで少し休憩しようかな」


そう口にすると、パールはベンチにぴょんと座り手に持っていた串焼きを美味しそうに頬張り始めた。

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