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第百八話 罰

名古屋はホワイトクリスマスイヴです。めちゃくちゃ寒いです。皆さまも体調にはお気をつけください。

まるで世界から音が消えたかの如く静まり返る森のなか。殺気を撒き散らしながら現れた強者に恐れおののき、森に生きとしあらゆる者が気配を殺し息を潜めた。


「な、何だてめ──」


雷槍(ライトニングランス)


突然現れた紅い瞳の少女に怪訝な目を向けた狼獣人が口を開いた刹那、顕現した雷の槍がモアを抱えた獣人の胸を貫通し地面に刺さった。


「ぐぎゃっ……ぎぎ……!」


ふわりと地上に降り立ったリズは、串刺しになり痙攣する狼獣人に目も向けずモアを抱いて地面に降ろす。


「せ、先生……!」


「もう大丈夫ですわよ」


にこりと微笑みモアの目元の涙を指でそっと拭ったリズは、地面に尻もちをついたままのユイに近づくとそばにしゃがみ込み治癒魔法を発動した。


「せ、先生……私……ごめんなさい……」


顔をくしゃくしゃにして涙を零すユイ。


「話はあとで聞きますの。それより、もう痛いところはありませんの?」


「うん……!? 先生、うしろ!」


リズの背後に忍び寄った獣人の一人が、その小さな体を引き裂かんと鋭い爪を振り上げる──が。


狼獣人の額を細い何かが貫いた。リズは振り返りもしていない。額を貫いた凶器の正体は、肩越しに背後へ向けた指先から伸びた彼女の爪。額へ一直線に伸びた爪がしゅるしゅるともとに戻り、狼獣人は力なくその場へ崩れ落ちた。


「……メルはどこですの?」


ユイの手を取り立ち上がらせたリズは周りに視線を巡らす。先ほどからメルの姿だけが見えない。仲間を虫けらのようにあっさりと殺された狼獣人は、怒りよりも恐怖に支配され立ち尽くしている。


と、そのとき。ガサガサと音がしたほうへ目をやると、落ち葉にまみれたメルが茂みのなかから這い出てくる様子が目に入った。


「メル! 大丈夫ですの!?」


三人はメルのもとへ駆け寄ると、服や髪の毛にまとわりついた落ち葉を手で払った。


「ん。大丈夫。ちょっと痛かったけど」


メルはにこりと笑いながら、お腹のあたりを両手でさする。どうやら本当にケガはしていないようだ。


「ほ、本当に……? だって、あんなに強く蹴られてふっ飛ばされて木にぶつかったのに……」


メルが狼獣人から受けた仕打ちをユイはその目で見ている。だからこそ、メルが平気な顔をしていることが信じられなかった。


「何か大丈夫みたい。それよりユイは大丈夫だった?」


メルは少し心配そうにユイのつま先から頭のてっぺんまでまじまじと視線を這わせる。


「うん、私も大丈夫。メル、さっきはありがとうね」


「ん。友達だから」


身を寄せ合ってお互いを思いやる三人。リズはその様子を微笑ましそうに眺めていた。が、まだ狼獣人が三名ほど残っていることを思い出した。紅い瞳にスッと冷たい色が戻り、狼獣人たちを振り返る。


「……こんな小さな子どもを襲おうとするなんて、とんでもない下衆ですわね。野蛮な犬っころはここで始末しておいたほうがよろしいかしら?」


「ま、待ってくれ……! すまなかった、すべて俺たちが悪かった……もう勘弁してくれ……」


急にしおらしくなる狼獣人たちに呆れたリズは、そっとため息を吐いた。


「はぁ……分かりましたわ……今回は見逃してあげましょう」


狼獣人たちを一瞥したリズは、三人娘に向き直ると三人まとめてぎゅっと抱きしめる。


「さあ、帰りますわよ」


三人を連れて森の出口に向かって歩き始めようとしたそのとき――


三名の狼獣人はお互いの顔を見合わせニヤリと笑みをこぼし、同時にリズたちの背後から飛びかかろうとした。のだが――



「まあ、そんなことだろうと思いましたわ」


振り返りもせずぼそりと呟くリズ。途端に、狼獣人たち個々の足元に魔法陣が展開する。


煉獄(ヘルファイア)


魔法陣から黒い爆炎が立ち昇り、またたく間に三名の狼獣人は消し炭になった。


「どうしようもない犬っころですこと」


燃え尽きる寸前の狼獣人をちらりと視界の端に見たリズは、三人娘の背中に手を回し森への出口に向かって歩き始めた。



――紅茶を注いだカップから立ち昇った湯気がゆらゆらと揺らめく。屋敷に戻ったリズは、まず三人にあたたかい紅茶を振る舞った。爽やかなベルガモットの香りに、三人娘も落ち着きを取り戻したようである。


「さて、あなたたち。私が以前言ったことを覚えているかしら?」


カップを手にもったまま目を伏せるユイにモア、メル。どうやらしっかりと反省はしているようだ。


「この森には先ほどのような獣人のほかに、会話が成り立たない魔獣もたくさんいるんですの。大人でも危険なのに、子どもだけで入ったらどうなるか分かりますでしょ?」


「はい……」


「反省したのならいいですわ。今後二度と勝手に森へ入らないこと。分かりましたわね?」


三人はリズの目を真っすぐ見て、強く頷いた。


「よろしい。とりあえずはあなた方が無事でよかったですわ」


慈しむような優しい視線を向けられ、三人娘の瞳に涙が浮かぶ。


「でも、罰として明日からの指導は今まで以上に厳しくしますからね」


その言葉に一瞬ぎょっとした三人だったが、すぐに「はい!」と力強く返事をするのであった。




――肩で息をしながら魔の森の大地に座りこむ二人の少女。その前には巨体のオークが二体、骸となって地面に転がっている。


「うん、初日ならまあこんなものでしょ。よくやったわね二人とも」


人生初となるオークとの戦闘を終えたジェリーとオーラ。途中アンジェリカとパールの助けを借りつつ、何とかオークを倒すことに成功した。


「は、はい……ありがとうございます……」


やっと呼吸が整ってきた二人は地面から腰をあげると、アンジェリカに感謝の言葉を伝えた。正直、何度も危ない場面があったが、その都度アンジェリカやパールが手助けをしてくれたのだ。


「二人の魔力と能力はほぼ把握できたから、明日からはそれを踏まえた特訓をしましょう。適度に実戦も交えつつね」


「は、はい!」


実戦、という言葉にややびくっとした二人だったが、オークとの戦いを経てたしかな手ごたえを感じていた。このまま特訓を続けてもらえば、パールのようになれるのでは、と希望を見いだす二人の少女。


「あー、懐かしいなぁ。私もよくオーク相手に実戦練習したよー」


「や、やっぱりパールちゃんもオークとの実戦を経てそんなに強く……!?」


オーラがキラキラした目をパールに向ける。


「うんうん。五歳か六歳のころはよくやったよ。一人で五体くらいを相手にしていたかなぁ」


平気な顔でとんでもないことを口走るパールに、唖然とするジェリーとオーラ。道のりはまだまだ長いと強く感じた二人であった。

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