第百四話 紅い瞳の少女
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悪魔族と手を組んでランドールを手中に収めんと計画していたセイビアン帝国だが、アンジェリカたちの活躍によりその野望は潰えた。
あの戦いから約一ヶ月。教皇ソフィア率いる聖軍の圧力と追及により帝国は皇帝を更迭、そのまま幽閉した。
ランドールへの賠償も滞りなく行われ、首都リンドルも普段通りの活気を取り戻した。もともと情報収集のため学園に通い始めたパールは、今も変わらず通学している。
パール自身がそれを望んでおり、アンジェリカも学園生活が娘によい影響を及ぼしていると考えているからだ。
なお、一時的にアンジェリカ邸に居候していたダークエルフのウィズだが、すっかり居ついてしまった。もう非合法な仕事はしておらず、冒険者ギルドに登録し依頼を受けている。
アンジェリカを取り巻く環境はすっかり変わった。もともとアリア、フェルナンデスと三人で静かに暮らしていたが、娘と弟子ができ、メイド見習いにダークエルフの居候まで増えた。
すっかり美少女だらけになったアンジェリカ邸。ハーレムというより女子寮のような感じになってしまった。
どんどんフェルナンデスの肩身が狭くなっていくわね。テラスで紅茶を口に運びながら庭に目を向けるアンジェリカ。
視線を向ける先には、花壇を整備している執事、フェルナンデスの姿が。次いで目を向けた庭の中央では、巨体を横たえるアルディアスに娘たちがまとわりついている。
相変わらずアルディアスも子フェンリルも大人気である。今ではウィズもすっかりモフモフの虜だ。
あ、そう言えば明日はソフィアが遊びに来るって言っていたわね。今さらだけど、教皇ってそんなに暇なのかしら。
そんなことを思いつつ、アンジェリカはカップに残った紅茶を飲み干した。
「猊下、こちらもお願いします」
「……そこに置いといて」
枢機卿ジルコニアが運んできた書類の山を見て眉間にシワを寄せる教皇ソフィア。朝から大量の書類仕事に追われているため機嫌が悪い。
でも、明日はアンジェリカ様に会える。だから何としても今日中に仕事を片づけておかないと!
気合いを入れ直して次々と書類へ目を通していくソフィアに、ジルコニアは呆れた視線を向けた。いつもそれくらいまじめに働いてくれれば、とでも言わんばかりの表情を浮かべている。
「あ、そう言えば猊下。そろそろアレの時期ですね」
「アレ? ああ、もうそんな時期?」
「ですね。今年はなかなか将来有望な子がそろってるみたいですよ」
「へえ。それは楽しみね」
そうか、もうそんな時期か。あ、今年って……これは明日のいい話題ができた。
にんまりとしたソフィアだが、気持ちを切り替えて再度大量の書類に目を通し始めた。
「リズせんせー!」
聖デュゼンバーグ王国の王都郊外。森への入口そばに建つ家の庭で洗濯物を干していた少女が声の主を振り返る。
視線の先には三人の子ども。いつもの仲良し女の子三人組だ。
「あなたたち、また来たんですの?」
ウェーブがかかったグレーの髪をツインテールにした少女は、ぱっちりとした目を細めて呆れたような表情を浮かべた。
「当たり前じゃん! あたしら先生の弟子なんだから!」
腰に手をあてて胸を張るのは元気が取り柄のユイ。
「そうですよー、今日もよろしくお願いしますリズ先生」
落ち着いた物言いが印象的なモア。メガネがよく似合うまじめそうな子だ。
「先生、お菓子持ってきたから食べよー?」
のんびり屋で天然なメル。いつもお菓子をお土産に持ってきてくれる。
「はぁ……あのねぇ、私はあなたたちを弟子にした覚えなんてないのですが?」
子どもたちだけで森へ入ろうとしていたのを止めて注意したのがきっかけ。それ以来、頻繁にここへ訪れるようになってしまった。
退屈しのぎに魔法を教えてあげているうちに、先生と呼ばれ慕われるようになったのだ。
弟子にした覚えはないと言われ、しゅんとする三人娘。その様子にリズはそっとため息をつく。
別に意地悪でそんなことを言ったわけではない。突き放すようなことを口にするだけの理由があるのだ。
「あなたたち、以前私が話したことを覚えていますの?」
「うん……」
リズは血のように紅い瞳で子どもたちをじっと見つめる。
「私は吸血鬼。ヴァンパイアなのですわよ? 恐ろしい恐ろしい吸血鬼ですの。豹変してあなた方の血を吸うかもしれないのですわよ?」
「……先生はそんなことしないもん……優しいし……」
「そうですよ。リズ先生が吸血鬼だろうがそんなの関係ないです」
「リズ先生かわいいしね」
見当違いな発言が紛れているが、またまた呆れてしまうリズ。人間の子どもってこんなに警戒心がないものなんですの? 大丈夫なのかしら人間界。
「はぁ……まあいいですわ。せっかくメルがお菓子を持ってきてくれてるんだし、おやつにしますわよ。いらっしゃい」
パッと顔が明るくなる子どもたち。現金なものである。
「ねえ先生! 今日は何の魔法を教えてくれるの!?」
「うーん、そうですわね。新しい魔法を覚えるよりも精度を高める練習が必要ですわね」
「ええーー地味そう……」
「先生に文句があるんですの?」
文句を垂れるユイにジト目を向けるリズ。口では弟子にした覚えはないと言いつつも、子どもたちとの関係をそれなりに楽しんでいた。
とりあえず今日は魔法の精度を高める練習を取り入れて、次は炎系の魔法でも教えましょうか。
なんだかんだ先生らしいことを考えるリズであった。
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