第百三話 潰えた企み
いつもお読みくださりありがとうございます。第四章はこれで完結、閑話を挟み新章の投稿を開始します。よろしくお願いいたします。並行して投稿している「聖女の聖は剣聖の聖!ムカついたら勇者でも国王でも叩き斬ります!」もお読みいただけると嬉しいです☆
両腕を切断された悪魔、フロイドを乱暴に正座させるアリア。散々痛めつけられたらしく、もはやフロイドに反抗する気力も体力もないように見える。
「さあ、私に聞かせてくれたことをここでもう一度話してもらえるかしら?」
にっこりと微笑みながらも目の奥はまったく笑っていないアリアに促され、フロイドがぼそぼそと口を開き始める。
「お……俺とそこのニルヴァーナが……ランドールを手中におさめんと……協力し合っていたのは……間違いありません……」
苦しそうに途切れ途切れ言葉を紡ぐ。その様子を目にしたニルヴァーナはワナワナと震え始めた。すでに顔色は真っ青である。
「以前はランドールの商隊を襲い……国の中枢にいた議員の娘を人質に従属を迫り……そして要人たちの暗殺も企てました……」
皇帝ニルヴァーナの嫡男、オズボーンは悪魔が口にする内容に言葉をなくす。その顔には怒りの色が浮かんでいるように見える。
「そして今日……悪魔の軍勢を率いてランドールの国境近くに布陣したものの……我々は負けました……」
もはや意識を保つのも難しくなったニルヴァーナ。呼吸も荒くなっている。
「……すべて、そこのニルヴァーナと私が企てたことに間違いありません……」
すべてを告白したフロイドは正座したままがっくりとうなだれた。
「陛下……いや父上……あなたはいったい何ということを……!」
オズボーンは膝の上で拳を強く握りしめ、怒気を含んだ目をニルヴァーナに向けた。
「さて皇帝ニルヴァーナよ。そなたが言う証拠ならこの通りである。申し開きすることはあるか?」
「ぐ……ぐぐ……!」
玉のような汗を額から流しながら小刻みに体を震わせるニルヴァーナ。
「……ニルヴァーナよ……俺のことなど知らぬ、関係ないとシラを切るつもりなら無理だ……万が一裏切ろうとしたときのために、お前には呪いをかけている……もし裏切ればその瞬間お前の心臓は止まる……」
驚愕の事実を知らされ、口を開けてぽかんと間抜けな顔を晒す皇帝。完全に詰んだことをやっと悟った。
「猊下。父であり皇帝であるニルヴァーナがしたことは許されることではありません。我々が厳正に処分しますので、帝国を人類の脅威と認定することはどうかご容赦していただけないでしょうか?」
オズボーンはソファに腰掛けたまま、ローテーブルに額がつくほど頭を下げた。
「ふむ……具体的にどう処分するのか聞かせてもらえるか?」
「は。皇帝の座を剥奪し投獄、生涯にわたり幽閉いたします」
驚愕のあまり心臓が止まりそうになったニルヴァーナに、オズボーンは冷たい視線を向ける。
「なるほど。帝国が本来の姿に戻るのであればよしとしよう。あと、今回の件でランドールに多少なりとも被害が出ておる。それに対する賠償もするように」
ソフィアの言葉に強く頷くオズボーン。
「もちろんです。共和国へ使者を送りすぐにでも話し合いの準備をいたします」
「分かった。では私と聖軍はこれで引き上げるとしよう。ああ、その悪魔にはまだ聞きたいことがあるから、こちらで――」
こちらで引き取る、とソフィアが口にしようとした途端、フロイドの全身が激しく痙攣し始める。口からは泡も噴き始めた。
「ごぼっ……ぐぎぎ……ぐぎ……ど……か……お許しくださ……があっ!!」
大きくビクンと体を震わせたかと思うと、フロイドは前のめりに倒れ込み、そのまま体は灰となって消失してしまった。唖然とする一同。
「こ、これは……」
青ざめた表情でフロイドがいた場所を見つめるレベッカ。
「……おそらく呪いの類でしょう」
アリアがぼそりと呟く。以前交戦したとき、フロイドに呪いがかけられている可能性をアリアはアンジェリカに示唆していた。
「なるほど……アリア、ご苦労様。あなたも戻っていいわよ」
ソフィアがアリアに視線を向け顎をしゃくる。もちろん演技なのだが、ソフィアは内心ずっとビクビクしていた。アリアの恐ろしさは嫌というほど思い知らされているのだ。
「は。では私はこれで失礼いたします」
そう口にするとアリアはその場から姿を消した。突然いなくなったことに驚愕する一同。
「げ、猊下……あのメイドはいったい……!?」
「……余計な詮索はしないこと。それが長生きのコツよ」
ジロリと睨まれたオズボーンは慌てて頭を下げる。教会は我々が思っている以上にとんでもない組織なのでは……。オズボーンはそう思わずにいられなかった。
「アンジェリカ様。此度もランドールの危機をお救いくださったこと、心より感謝しております」
冒険者ギルドの執務室には、アンジェリカにパール、キラ、ギブソン、バッカスが顔をそろえていた。ルアージュやウィズは物珍しそうにギルドのなかを見学している。
「気にすることはないわ。大した手間でもなかったし」
平然と口にするアンジェリカに緊張の色を隠せないギブソンとバッカス。五万もの大軍をものともせず消し去った真祖の力を改めて思い知らされた。
二人が緊張しているのはそれだけが理由ではない。今二人の目の前にいるのは、見慣れた十六歳くらいの美少女ではなく妖艶な色気を振りまく絶世の美女なのだ。
なぜそのような姿なのか説明をしてもらったとはいえ、凄まじい色香に二人はずっとどぎまぎさせられている。
「おそらく帝国と悪魔の企みはもう潰えたと思うわ。もうこれ以上は何も仕掛けてこないでしょう」
「……アンジェリカ様がそう仰るのであればそうなのでしょう。本当に感謝して――」
突如空間が揺らいだかと思うと、アンジェリカの背後にアリアが現れた。
「お嬢様、ただいま戻りました」
「ご苦労様、アリア。首尾は?」
「はい、すべて片づきました。帝国は皇帝を更迭、そのまま幽閉するとのことです。ランドールへの賠償も応じると」
「そう。お二人さん、聞いての通りよ」
呆気にとられるギブソンにバッカス。本当に帝国と悪魔の企みをあっさりと潰してしまった。
「アンジェリカ様はもちろん、パール様やキラさんにも感謝しています。あと、えーと……」
「ルアージュとウィズ?」
「あ、はい。あのお二人はアンジェリカ様とどのような関係なのでしょう……?」
「あの二人は――」
「ママのハーレム要員だよ!」
アンジェリカが口を開くより早く、パールがとんでもないことを口走る。ギブソンとバッカスは「まずいことを聞いてしまった」と言わんばかりの気まずそうな表情を浮かべている。
「いや、違うから。そもそもパール、絶対意味分かってないわよね?」
「んー? 前にお姉ちゃんがそう言ってたからそうなのかなって。ね、お姉ちゃん?」
ソファから振り返ったパールの視線から反射的に逃れようとするアリア。
「そ、そうだったかしら……?」
口がうまく回らないのか、若干しどろもどろになっている。
「ルアージュはうちのメイド見習い、ウィズはまあ……居候よ」
「な、なるほど……」
とりあえずは納得するしかない、と何度も頷く二人。次からアンジェリカへのお礼は美少女を用意するべきだろうか、と真剣に考えるギブソンとバッカスであった。
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