第十話 動き始めた陰謀
アンジェリカが王城へ挨拶(?)に訪れて以来、国王ジルジャン・ハーバード15世は荒れに荒れていた。
なんせ従属させようとしたらあっさり断られ、実力行使に踏み切ったら自慢の騎士団と王宮魔術師団が赤子の手を捻るかのようにあっさりと壊滅させられたのだ。
正直、国王は真祖があれほどの化け物だとは認識していなかった。それゆえに悲劇が起きたわけだが・・・。
「くそ……余は国王だぞ……。舐めくさりおってぇぇぇ……」
あの屈辱は忘れようとしても忘れられるはずがない。
できることならすぐにでも同じような屈辱を与えてやりたいが、あの禍々しい強さの前には手の打ちようがない。
しかも、帝国との戦争が近づいている。帝国は大陸随一の軍事力を誇る大国だ。
一刻も早く真祖を従属させないと王国が帝国に蹂躙される危険がある。
だが、先日真祖はこう言った。
「今度私に不快な感情を抱かせたらこの国を滅ぼす」と。
まさに前門の真祖、後門の帝国状態である。
「くそ、くそ、くそ……!どうすればよいのだ──!」
頭を抱えていると、王の執務室に使用人がやってきた。
「失礼いたします。陛下、ゴードン卿がお見えになっています」
「そうか。ここへ通せ」
ゴードン卿は国王と個人的な付き合いが長い貴族である。
「失礼します。陛下、ごきげんはいかがですかな?」
40代前半でがっしりとした体型、鋭い目つきのゴードン卿が臣下の礼をとる。
「ごきげんがいいように見えるのか?侯爵よ」
「いえ、まったく」
ニヤリと口角を吊り上げるゴードン卿。
「あの忌々しい真祖の小娘のせいでいろいろと計画が台無しだ!」
ほとんど言いがかりである。
「侯爵よ。何かよい案はないだろうか?」
「ふむ。真祖を従属させるための良案、ということですかな?」
「そうだ。あの小娘は忌々しいが強さだけは間違いない。帝国に勝つにはあの小娘を何としてでもこちらに引き込むしかないのだ」
「ふむ。騎士団に魔術師団が手も足も出ないとなると……力づくで従属させるのは難しいかもしれませんな」
「そうだな。それにヘタな者を送り込んで失敗し、余の関与が知れたら国が滅ぼされるかもしれん」
「では、このような案はどうですかな?」
ゴードン卿の案は概ねこのようなものだった。
・武に優れた高ランクの冒険者パーティを刺客に立てる。
・国王が関与してると気づかれないよう、幾人もの代理人を介して冒険者ギルドへ依頼する。
・冒険者が無事に真祖を拘束したら、隷属の首輪をつけて奴隷化する。
「ふむ。興味深い案ではあるが……」
「何か懸念が?」
「そもそも、高ランクとはいえ冒険者があの真祖に勝てるものであろうか」
国王はアンジェリカの圧倒的な強さを目の当たりにしているため、この懸念は当然だろう。
「たしかに、聞くところによると真祖の強さは尋常ではないとのこと。ゆえに一般的な高ランク冒険者では難しいでしょうな」
「一般的な……?」
「私が考えているのは、Sランク冒険者です」
「……なるほど」
SランクはAランクよりも高位のランクである。
伝説級や英雄級の武と実績を誇る者のみに許されるランクであり、大陸中探しても数えるほどしかいない。
「たしかに、Sランク冒険者であれば、あの小生意気な真祖の小娘も倒せるかもしれん……」
かすかに国王の顔色がよくなった。
「ええ。Sランクが2~3人もいれば、いかに真祖といえど……」
「では、Sランク冒険者の手配は侯爵に任せてよいか?」
「はい。お任せください」
「万が一にも、余や国が関わっていることを悟られぬようにな。これが最重要事項だ。」
「かしこまりました」
こうして、アンジェリカの知らぬところで陰謀が動き始めたのであった。
「……ックチュッ!!」
「お嬢様がくしゃみなんて珍しいですね」
吸血鬼の真祖であるアンジェリカの体は人間に比べてはるかに強い。そのため、基本的に風邪や病気とは無縁である。
「そうね。そういえば、誰かが噂しているとくしゃみが出る、なんて話が昔あったわね」
「お嬢様はどこからどう見ても超絶美少女ですからね。どこかで話題にのぼっているのかもしれませんよ」
「いや、私人間の町に行くことほとんどないわよ」
「じゃあ、この前行った王城でお嬢様を見かけた衛兵とか騎士とか……。」
「……ならきっと悪口ね」
まさか国王と貴族が自分を従属させるために策を練っているとは思いもよらぬアンジェリカであった。
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「聖女の聖は剣聖の聖!ムカついたら勇者でも国王でも叩き斬ります!」連載中!
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