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森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜  作者: 瀧川 蓮
第四章 浸食されるランドール
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第九十五話 初めてのお願い

アンジェリカ邸のテラスでお茶会を開いていたアンジェリカたちだったが、アリアが使役している下級吸血鬼から報告が入る。敵が動きだしたことを知り、アンジェリカは凄みのある笑みを浮かべるのであった。

「アンジェリカ様、何かあったのですか……?」


不安げに問いかけるソフィアに対し、アンジェリカは紅い瞳を向ける。


「悪魔族の軍勢がランドールの国境に迫ってるらしいわ。それに、リンドルの街にも悪魔が紛れ込んでるみたい」


特に表情も変えずに驚くべき内容を口にしたアンジェリカに、ソフィアだけでなく全員が凍りつく。そもそも、何故そのような事態に陥っているのか理解できないようだ。


アンジェリカは、現在ランドールに起きていることについて簡潔に説明する。帝国と悪魔族が手を組んでランドールを狙っていること、ジェリーの父であるガラムが狙われたのもその一環であること。


水面下で進んでいた恐ろしい計画に誰もが言葉をなくす。ジェリーやオーラにいたっては顔が真っ青である。



「……悪魔族の軍勢はどれくらいの規模なのでしょうか?」


アンジェリカは席を立つと、恐る恐る尋ねるソフィアのもとへ近寄りそっと耳打ちした。あまりにも想像を逸した規模に思わず声をあげそうになるソフィアの口をアンジェリカは手で塞ぐ。


「というわけだからソフィア、あなたはデュゼンバーグへ戻りなさい。私が転移で送るから」


「で、でも! アンジェリカ様たちは……?」


「何も問題ないわ。あなたを送ったあと私が一人で国境に足を運ぶから」


それはつまり、アンジェリカが悪魔の軍勢と一戦交えるという意思表示である。だが、いくら真祖とはいえ相手は五万もの軍勢。アンジェリカを敬愛するソフィアは気が気でなかった。



「そ、そんな! いくら何でも危険すぎます! 私たちも――」


最後まで言わせず、アンジェリカはソフィアの口を再び手で塞ぐ。


「いや、あなたが一緒に来てどうするのよ。それにあなた一応教皇よね? 自分の立場を考えなさい」


明確に拒否されたソフィアは俯いてしまう。


「パール、私はソフィアたちを送ったあとそのままお出かけするわ。あなたとお友達はここにいること。いいわね?」


「えー-! ママの話だと街にも悪魔がいるんだよね? 私も戦うよ!」


椅子からぴょんと飛び降りるように立ち上がったパールは、腰に手をあてて胸を張った。どうやらやる気満々のようである。


「絶対にダメよ。街のことは私たちに任せておけば問題ないわ。おとなしくお留守番していなさい。アルディアス!!」


あっさりと参戦を却下されたパールは頬をリスのように膨らませているが、アンジェリカはまったく意に介さず大声でアルディアスを呼んだ。


アルディアスは子どもたちを連れて森へ散策に出かけていたが、アンジェリカの大声を聞いてすぐに駆けてきた。初めて見る巨体のフェンリルとかわいらしい子フェンリルに、どう反応してよいのか分からないジェリーとオーラ。



『妾をお呼びかえ、アンジェリカ』


「喋った!」


ジェリーとオーラが同時に叫ぶ。アルディアスが言葉を発したときの反応は誰もが同じである。


「ええ。申し訳ないんだけど、ここでパールやお友達たちを守ってくれるかしら? 私は少しお出かけしなきゃいけないから」


ちょっとそこまで買い物に行くの、くらいの軽いノリで言葉を紡ぐアンジェリカ。何が起きているのか何となく理解しているアルディアスは、彼女のそんな様子にくつくつと笑いを漏らす。


『クックック……話は分かった。少し前から不快な臭いが風に乗って運ばれてきておったが、あやつら正気なのかえ? 真祖が暮らす国に攻め込もうとするなど』


どうやらアルディアスは呆れているようだ。かつてアンジェリカと三日三晩戦った経験がある彼女にとって、真祖に戦いを挑むことがどれほど愚かなことか理解している。


「私がこの国にいるとは知らないんでしょ。それに、おそらくだけど軍勢を首都に進軍させることはないと思うわ」


『ふむ……』


「ここに誰か来ることはまずないと思うけど、念のためあなたにパールたちの護衛をお願いしたいの。よろしくね」


『妾はパールにテイムされておる身じゃからの。何の不満もない。その役目しっかり果たそう』


アルディアスはアンジェリカの紅い瞳をしっかりと見つめながら約束した。



まだ不満そうな顔をしているパールを何とか言いくるめ、アンジェリカはソフィアとレベッカを連れてデュゼンバーグの教会本部、ソフィアの自室へと転移する。


レベッカはすぐに情報収集へと向かった。デュゼンバーグはランドールと国境を接しているため、こちらにも何か情報がもたらされているのではと考えたようだ。



「……アンジェリカ様……本当に大丈夫なのですか……?」


目にうっすらと涙を浮かべたソフィアは、正面からそっとアンジェリカを抱きしめた。


「だから、何も心配ないって言っているでしょ」


「で、でも! 五万の大軍だなんて……!」


「まあ、たしかに数は多いわね。ただ、さっきも言ったように向こうから積極的に戦闘を仕掛けてくる可能性は低いわ」


「そ、そうなのですか……?」


「ええ。おそらく陽動でしょうね。ただ……」


「ただ……?」


「私と娘が暮らす国にそんな大軍を送り込んできたのだから、それなりの代償は支払ってもらわないとね」


血のように紅い瞳にギラリとした光を浮かべ口角を吊り上げるアンジェリカ。


「そ、そんな……戦わずに済むならそれでいいのでは……」


「そうね。私が参戦したことで一族まで巻き込む可能性があるからね。ただ、それでも真祖と悪魔族には並々ならぬ因縁もあるし、好き勝手されるのは癪だわ」


アンジェリカはソフィアの体をそっと離すと、真剣な表情で目を合わせた。


「ねえソフィア。あなた、私のお願いを聞いてくれる気はある?」


「……私に、ですか? ええ、ええ! もちろんですよ! どんなことでも言ってください!」


アンジェリカから今まで一度もお願いなどされたことがないソフィアは、喜びのあまりその場で飛び跳ねそうになった。


「本当に? 何でも聞いてくれる?」


「アンジェリカ様のお願いなら当然です!」


「そう。それじゃ……」


緊迫した状況であるにもかかわらず、どのようなお願いをされるのかと胸を高鳴らせる。


アンジェリカの口から発せられた初めてのお願いは、まったく想像もしていないことだった。



「あなたの血を吸わせてちょうだい」


ソフィアの耳の奥でアンジェリカの甘く優しい声が何度もこだました。



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