第九十一話 居候
屋敷に連行したダークエルフのウィズから帝国の思惑を聞き取りしたアンジェリカ。パールの学び舎を守るためにもこの一件への介入を決めるのであった。
「な、なな……ななな……!」
事情聴取のためアンジェリカに拉致連行されたダークエルフのウィズ。今彼女の目の前には高い位置から見下ろすような視線を向けるアルディアスの姿が。
事情聴取が終盤に差しかかった頃、森のなかへ散歩に出かけていたアルディアスが戻ってきた。
『ほう。ダークエルフとは珍しいな』
「喋った!!」
アルディアスが言葉を発したことに驚いたウィズは、後ろへ転倒しそうになった。
そんなウィズを視界の端に捉えながら、パールはアルディアスに近づき前足に抱きついた。
「この子はアルディアスちゃん! 私がテイムしているフェンリルなんだー!」
「は……? フェンリルをテイム……?」
またまた驚愕の事実を伝えられ思わず後ずさる。いやいや、こんな巨大なフェンリルを子どもがテイム? そもそもフェンリルって神獣だよね? どゆこと!?
もはやウィズの思考は追いつかない。目の前で巨大なフェンリルと楽しそうに戯れるパールを見つめながら、これは夢なのではと現実逃避しそうになっていた。
「それはそうと、あなたこれからどうするつもり?」
アンジェリカから声をかけられハッと我に返ったウィズは、いきなり頭を抱え始める。
「あ〜〜……依頼は失敗、しかも依頼主のことをここまでペラペラ喋っちゃもう戻れない……ですね。ハハ……」
あそこまで騒ぎを起こせば、遅かれ早かれフロイドの耳に情報は入る。私が捕まったこと、依頼主や内容まで話してる可能性も考えるだろう。
「はあ……最悪だ。依頼失敗で金も入らない。ヘタしたら悪魔どもに狙われる羽目になっちまうし……」
そう呟くとウィズはウッドデッキの上にぺたんと座り込んでしまった。そこはかとなく漂う哀愁。
二度に渡り戦闘を繰り広げたパールだったが、そんなウィズの様子を目にして少し可哀想な気持ちになってしまった。口も悪いしガサツっぽいけど、何となく憎めないのだ。
「ねえ、ママ……」
「……はいはい。分かってるわよ」
はあ、とため息をついたアンジェリカはこめかみを指で軽く揉むとウィズに鋭い視線を向ける。
「ウィズ。あなたは帝国や悪魔の計画と思惑を知る貴重な存在よ。とりあえずこの件が片付くまではここにいていいけど、どうする?」
真祖からの思いがけない言葉にパッと顔をあげたウィズ。顔からは驚きの色が見て取れる。
「え、マジですか? 私お嬢さんと二回も戦ってるんですよ……?」
「戦ったっていうか聞いた話ではあなたあっさりやられたらしいじゃない。脅威にはなり得ないから問題ないわよ」
さらっと酷いことを言われ静かに落ち込む。いや、たしかにあっさり負けたけど!
「屋敷に部屋は余ってるから好きに使いなさい。あ、ときどき雑用を頼むかもしれないからよろしくね」
「は、はい……。ありがとうございます……」
怒涛の展開に戸惑いを隠せないウィズだが、とりあえず衣食住を確保できたことに安堵する。しかも、ここにいる限り悪魔に狙われる心配はない。
何せ、動く災厄の真祖にめちゃ強い娘とメイド、神獣フェンリルまでいる屋敷だ。まともな神経の持ち主なら近づくことさえしないだろう。
なお、ウィズはまだ知らないがSランカーの冒険者に元吸血鬼ハンターも暮らす屋敷である。
『クックッ。どんどん賑やかになっていくのぅ』
パールと戯れながらアンジェリカに視線を向けるアルディアス。その表情にはどことなく含みがあるようにも見える。
「まあ……なりゆきよ。仕方ないでしょ」
『なりゆきのぅ……』
愉快そうにくつくつと笑うアルディアスを横目でじろりと睨む。と、背後に立つアリアが小さくため息をつくのが聞こえた。
「何? どうかしたのアリア?」
「いえ……お嬢様は美少女ばかり集めてどうするのかと思いまして。まさかハーレムをお作りになるつもりですか?」
屋敷で生活しているアリアにキラ、ルアージュはもとより頻繁に遊びに来るソフィアにレベッカと、アンジェリカの周りは美少女、美女だらけである。
「何バカなこと言ってるのよ……そんなわけないでしょう?」
「それにしてはお嬢様の周りに美少女と美女が集まりすぎている気がしますけどね」
今度はややジトっとした視線を向けるアリア。アンジェリカが可愛い女の子や美しい女性を好んでいること、男女どちらでもいけることを彼女は知っている。
「ハーレムを作ることに反対はしませんけど、せめてパールがもう少し大きくなってからにしてくださいね? 教育によくないので」
いつもはアンジェリカが口にするようなことをアリアに言われてしまった。
「だから、そんなつもりないってば」
実際アンジェリカにそのつもりはなかったのだが、アリアに指摘されたことでハーレムが形成されつつあることに気づいてしまった。
この調子でいけばこの先さらに増えるかも……。屋敷を増築するべきかしら? 割と真面目にそんなことを考えつつ、アンジェリカはぬるくなった紅茶に口をつけた。
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