第八十八話 悪夢再来
※書籍化のお祝いコメントやメッセージありがとうございます☆小躍りして喜んでいます☆
聖女の力を行使しジェリーの呪いを解除したパール。解呪されたことに驚くフロイドだが、ダークエルフのウィズに直接ジェリーを攫うよう命じる。命令を受けたウィズはガラム邸への侵入を試みるものの、強力な結界によって阻まれたため学園でジェリーを攫うことに決めたのであった。
「ふうっ……危なかった〜……」
ガラム邸のバルコニーに身を潜めていたキラは、侵入を試みた者が諦めて戻る様子を目にして胸を撫で下ろした。
何故キラがここにいるのかと言えば、ギルドマスターからの依頼である。アンジェリカからガラムの自宅が襲撃される可能性について指摘されたギブソンは、Sランク冒険者であるキラに護衛を依頼した。
単独での護衛であるため屋敷全体に検知機能をもたせた結界を張り、警戒していたさなかにウィズが現れたのである。
「さっきのって……やっぱあのときのダークエルフだよね……?」
以前、商隊を襲う盗賊の討伐に出かけたとき遭遇した女ダークエルフ。酔っ払ったパールによって完膚なきまでに叩きのめされてはいたものの、キラたちは手も足も出なかった。
「どういうこと……? 偶然……なのかな? とりあえず侵入は回避できたけど……」
とりあえず明日お師匠様にも相談してみよう。ひとまず思考を終了させ、結界の確認をしてからキラは部屋のなかへ戻った。
「オーラちゃんおはようー」
「あ、パールちゃん。おはようございますです」
校門を抜けてパールが声をかけたのは隣の席のオーラ。いつも一人で登校しているようだ。私もだけど。
「ねえオーラちゃん、前から気になってたんだけどさ……」
「な、何でしょう?」
「オーラちゃんって、エルミア教の偉い人に知り合いとかいる?」
パールの言葉を耳にした途端におかしくなるオーラの挙動。その表情からは「いるけど何で知ってるの!?」といった心の声が現れている。
「あ、いるんだ」
「や……え……あの……何で?」
「んー。ママのお友達がエルミア教の偉い人で、よく一緒にお茶してるんだけど、オーラちゃんその人と話し方が似てるんだよね」
「それってもしかして……」
「ソフィアさんって言うんだけど」
あんぐりと口を開けて呆けるオーラ。何に驚いてるんだろう?
「はっ! ごめんなさい、意識がどこかに飛んでいきそうになったです。パールちゃんの言う通り、私は教皇ソフィア様の……姪です」
「やっぱり! 関係あると思ったんだよね〜」
「で、でもソフィア様とはほとんど顔を合わせたことないんです。お忙しい方なので……」
ん? よくママとお茶したりアルディアスちゃんにモフりに来たりしてるんだが。
「ソフィア様とお茶してるって、パールちゃんのお母様凄い方なんじゃ……」
「んー、凄いのは間違いないかも。あとめちゃくちゃ美人だよ!」
えっへん、と自慢げに話すパール。と、そんなことを話しながら歩いていると──
「お、おはよう!」
背後から声をかけられ二人が振り返ると、そこにはいつもと違う明るい表情のジェリーが立っていた。
「おはよう! ジェリーちゃん」
しばらく見ていないジェリーの笑顔を見てオーラはやや驚いているようだ。が、元気をなくしていたクラスメイトが笑顔を取り戻したのは嬉しいらしく、三人仲良くお喋りしながら教室へ向かった。
「さて……と。どうすっかね。いきなり突撃してもいいけど、騒ぎを大きくしすぎるのは問題だよな」
リンドル学園近くの大通りから学園を眺めるダークエルフ、ウィズ。
「お、いい手を思いついた」
ウィズは大通りで営業していた衣類店に入り、服を物色し始める。そう、服を着替えて教師のふりをして学園に侵入しようという手だ。
長時間いたらバレる可能性があるが、ジェリーを見つけて攫うくらいなら十分だろうとの考えである。
とりあえず教師に見えそうな服を購入し着替えるが、見事すぎる双丘のせいで何やらいかがわしい女教師のようになってしまった。
「ま、まあ大丈夫だろ……」
自分に言い聞かせたウィズは、意気揚々と学園に向けて歩み始めた。
「ふあ〜。次の授業が終わればお昼ご飯だ〜」
パールは椅子に座ったまま大きく伸びをすると、バッグのなかから魔法の教科書を取り出す。とそこへ──
「パールちゃん、一緒におトイレ行かない?」
「ジェリーちゃん。うん、行こうか」
「あ、じゃあ私も行くです」
結局オーラも合わせて三人でトイレに。パールはもちろんだが、ジェリーもオーラも将来有望なのは間違いない美形である。特級クラスの綺麗どころ三人が連れ立って歩く様子は生徒たちの目を引いた。
「……ん? あんな先生いたかしら?」
ジェリーが前方から歩いてくる女教師に目を向け首を傾げる。小麦色の肌に長く尖った耳。エルフに見えるが、この学校にエルフの教師がいたという記憶はない。
「さあ……見たことないです」
オーラも首を捻った。
「んー……? 何かどこかで見た記憶があるようなないような」
そんなことを話しているうちに女教師は三人のもとへ近づいてきた。
「やーっと見つけた。あなたジェリーよね?」
「あ、はい……」
「じゃあ私と一緒に来てちょうだい。ああ、抵抗したらそこのお友達を殺すわ……よ……」
脅しの言葉を吐きながらちらりとパールに視線を向けたウィズは、驚きのあまり心臓が停止しそうになった。
そこにいたのは紛れもなく自分を痛めつけたあのときの子ども。まったく予期していなかった出来事に、ウィズの頭のなかは真っ白になってしまった。
「……ジェリーちゃん、早く先生のところへ逃げて」
「どういうこと? パールちゃん」
「多分だけど、この人はジェリーちゃんに呪いをかけた悪魔の仲間だと思う。私が呪いを解いたからジェリーちゃんを攫いに来たんじゃないかな」
その言葉を聞いてさらに驚くウィズ。
呪いを解いた!? このガキが!? 強いだけじゃなくて解呪もできるとか何者!?
我に返ったウィズはすぐさまパールから距離をとり戦闘態勢に入る。
「まさかてめぇがここにいるとは思いもよらなかったぜ……毎度毎度邪魔しやがって……」
忌々しげな目つきでパールを睨みつける。
「……? 私に言ってます? どこかでお会いしましたっけ?」
実は、あのときのパールは酔っていたのでウィズのこともほとんど覚えていない。きょとんとして首を傾げるが、ウィズは煽られたと感じたようだ。
「てめぇぬけぬけと……私なんか眼中にないってか……?」
「んーー? あ、もしかして……」
「やっと思い出したようだな……」
「この前商業街のカフェで私がケーキ五つ買って売り切れたとき後ろに並んでた人ですか……?」
「違うわ!!」
あれれ? 誰だろう本当に思い出せないや。この人の勘違いじゃなくて?
「……ちっ。時間もねぇからさっさと終わらせる! くたばれクソガキ!」
ウィズは距離をとるといきなり魔法を放ってきた。
『魔法盾×三!』
すぐさま魔法盾を展開し自分とジェリーたちを守る。ジェリーとオーラは突然戦闘が始まったことに腰を抜かしかけていたが、冒険者でもあるパールにとってこのような戦いはいつものことであった。
「バカが! 魔法は囮だ! 今日はそのガキさえ捕まえりゃ私の勝ちだ!」
一瞬にして距離を詰めたウィズがジェリーの腕を掴もうとするが──
「うん、知ってるよ」
パールも敵の目的はすでに理解している。魔法盾を展開した隙をついて接近してくることも。
「……あ?」
「残念でした」
そっとウィズの腹に手を添えると瞬時に魔法陣を手のひらに展開させ──
『零距離魔導砲!』
零距離からの魔導砲がウィズの腹に炸裂した。腹を貫通しないよう手加減したが、あまりの威力にウィズは吹き飛ばされ廊下をゴロゴロと転がってゆく。
「ぐ……ぐぐ……またこれかよ……!」
それだけ口にするとウィズは意識を失った。
「……あ。思い出した」
そして、ウィズを倒したあとであのときのダークエルフであることをパールは思い出したのであった。
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