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正午ごろ

 ◆◇◆◇◆


「はぁ……確かにサノさんがパーティを離脱するんですね???」


 冒険者ギルドの受付嬢はいつもより「?」を3倍に増やしたぐらいの疑問の色を顔にも声にも浮かべている。

 サノ達はギルド発行の身分証を示し、更に魔法の水晶に手を置かせられた。追放やパーティ離脱に不正がないか確認したいのだろう。

 この水晶は冒険者達の能力を計るだけでなく、数色の色が混じりあったオーラを見せる。このオーラは一人一人持っている色や混ざり具合が違う。それで本人確認が出来るのだ。


「では、サノさんは【虹……色の風】から円満に脱退されたという事で手続きしておきますね」


 受付嬢が言い淀むが、サノは聞いていない。既に彼の心は未来のハーレムパーティにあった。


「サノさんは新たなパーティへ加入されますか? ギルドでメンバー募集中のパーティをご紹介致しますが……」

「いや! いい! 当てがあるから!」

「じゃあな、サノ」

「元気でねェ」

「達者でな」


 今にもキサラヅを探しにギルドを飛びだしそうなサノに三人が別れを告げる。サノはハッと気づき、向き直って頭を少しだけ垂れた。


「そのう……ごめん。皆は俺を魔法都市から連れ出してくれて一人前になるまで育ててくれたし。それにさっきのチョーカーだって……よく考えたら、解呪すれば金を払わなくていいのにハメられたと思うなんて、ちょっとだけ馬鹿だった……かも」


 三人は揃って目を見開き、そして吹き出す。


「わははは!……いや、いいよ。今までのヤツラに比べたら」

「そうねェ。大したことじゃないわァ。ウフフ」

「くっくっく……お主のそういう所は割と好きじゃったぞ」

「ありがとう。またどこかで会う日まで!」

「……ああ」

「……えェ」

「……ウム」


 サノは冒険者にお決まりの別れの挨拶である『またどこかで会う日まで』と言ったのだが、三人は同じ言葉を返さずに微妙な表情で頷いた。

 サノがギルドを出ていった後、アミはギルド長と話がしたい、と受付嬢に申し出る。受付嬢はためらいなく三人を別室に通した。


「サノちゃんにはちょっとだけアンフェアだったから、可哀相な気もするけどねェ……」


 イルマがシスイのチョーカーに手をあて、そう言う。


「いやー、しかし魔道具(コレ)の効果を先に知られたら面倒くさいことになってたからなあ」


 そう苦笑いで応えたシスイが一瞬眩い光に包まれたあと、様子が一変した。()()のチョーカーをイルマが解呪したのだ。途端、真っ赤で艶やかな髪から三角の耳がピコンと現れる。

 因みに今までは彼女の“憧れの存在”である、剣の師匠の姿を借りていたのである。


「それにさっきはちゃんと説明しようとしたのに、オレ達の話を聞く気が無かったしな! わはははは!」

「……そうねェ。ああなるとサノちゃん、ホントに子供みたいになっちゃうから……そこも可愛かったんだけどォ」


 そう言うや否や、イルマは自身のチョーカーを解呪して“理想の男性像”から本来の姿を取り戻す。

 それは青色の長い髪をてっぺんで三つ編みにした美しい尼僧だった。

 彼女は続いてアミのチョーカーを解呪しようとするが、アミは顔のシワをキュッと増やして抵抗した。


「なぁ、ワシはこのままで良いんじゃないか? お主らのように性別を偽っとらんかったし……」

「いや、ダメだ。どうせオレとイルマが本当の姿を見せた時点で色恋目当ての馬鹿な男どもが沸いてくる。それにキサラヅがサノに言ったことが本当なら、身を隠すのは逆効果だ」


 アミは眉間にもシワを寄せ、心の中でサノの言葉を反芻し溜め息をついた。


 “【虹の風】なんて()()()パーティに居るのが不思議だわ”


「……かの女子は、ワシらの真のパーティ名を知っておったな。この貴重な魔道具に込められた【幻姿(げんし)】の魔法を見抜けるようなスキルやレベルを持っているような者ではないのじゃろ?」

「えェ、あの娘なら……この2年でそんなに成長するわけないわよねェ?」

「ああ。つまり、キサラヅにオレ達の事をバラした人間がいる。もっと言えば……」

「サノをパーティから離脱させ、尚且つワシらは追放側としてペナルティを受けるように工作しようとした……か。イルマ、お主、そこまでそのキサラヅとやらに恨まれておるのか?」

「えっ、そんなコト無いと思うわよォ? 確かにあの娘、昔はやたらとアタシに張り合ってきてたけどォ……」


 イルマが不思議そうに言う。アミは難しい顔をして言った。


「その線もまだ残るが……誰か不届き者がサノの後釜に入りたくて画策した線も捨てきれんな。やれやれ。この顔は人間なら年相応で“理想の姿”じゃったのに」


 イルマがアミの【幻姿の首飾り】(チョーカー)を解呪すると、アミは被っていたフードを取る。すると美少女ロリ……いや、美ロリババアエルフの真の姿が現れた。

 彼女は得意の風魔法を詠唱もせずに指先ひとつで生み出す。と、小さな風はサラリと黄色の長い髪を撫ぜ、あっという間にツインテールに結んだ。

 そこにギルド長が部屋へ入ってくる。


「待たせて悪かったな。2年ぶりか? 伝説のS級パーティの復活だな! シエナ・スイレン殿、聖女イルミナティ・マグノリア様、大魔導士アーミテイジ殿!」


 ◆◇◆◇◆


「はぁ!? ふざけんな!!」

「えっ!? だって俺の仲間になってくれるって……」


 サノの言葉は最後まで言わせて貰えなかった。キサラヅの怒りの平手打ちが見事にバチコーン! と決まったからだ。


「あんた自分の顔を鏡で見てから言いな! そんな萎びたナスみたいな顔で、超イケメンのサノ様を騙るなんてバッカじゃないの!?」

「ふぇっ!?!?」

「二度とあたしの前に姿を見せないでね!!」


 サノは尻もちを搗き、じんじんと痺れる頬の感覚であっけにとられている。彼がまともに返答を返せぬ内にキサラヅは大股で行ってしまった。それを見送ったサノは左頬を押さえ、そっとつぶやく。


「萎びたナスって懐かしいな……魔法都市(地元)ではよく言われてたけど、こっちの街では初めてじゃないか?」


 先ほどまで彼の首に巻かれていた【幻姿の首飾り】の効果で“理想の自分”―――――つまり、素晴らしい美青年の姿―――――になっていた事など露ほども知らぬサノ。


 彼は【虹色の風】に連れられてこの街に来てから妙にモテていたのは、他のパーティメンバーが化け物のような見た目だから相対的に自分がカッコよく見られており、かつ、萎びたナスと評される顔がキサラヅの好みなのだと思い込んでいた。

【幻姿の首飾り】は訳アリ品ゆえ、鏡や水を覗き込んでも本来の自分しか映らなかったのだから、この点についてだけは彼を愚かと言っては可哀相である。


続きます。

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