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午前・②

 

「……ところでサノ」

「……なんだよ、アミ」


 冗談を言ったアミは一転、サノへ心配の色を浮かべた目を向ける。サノはぷくりと薔薇色の頬を膨れっ面にした。


「追放が無理なら自力で綺麗どころを集めてハーレムパーティを作る魂胆か? ワシはあんまりオススメしないぞい」

「なんでだよ!」

「パーティに色恋を持ち込むのはトラブルの元じゃ。それが1対1ならともかく、ハーレムとなれば尚更ややこしくなる……」


 アミはまるで見てきたかのように遠い目をし、溜め息をつく。そこへシスイが割り込んだ。


「それにな、さっきのイルマの話、最後以外は本当だぞ。キサラヅはまあまあ美人だが素行には問題がある。大方、『追放して貰えばお得だ』とかなんとか、お前に入れ知恵をしたのもアイツだろう?」

「うっ……」


 サノはそれっきり黙ったが、顔に「YES」と書いてある。こういう憎めないところも三人がサノを気に入っていた理由のひとつだ。


「アレをパーティに入れるのはどうかな。……まぁ、キサラヅの事だ。土壇場で裏切り、仲間にならないかもしれないがな。わははは!」

「それはない! キサラヅさんは俺の事を高く評価してくれてるんだ!」

「ほう?」


 サノは鼻高々で言う。


魔法都市(地元)では、魔道具師なんて掃いて捨てるほどいたけどさぁ、こっちの街ではそんなにいる職業じゃないだろ? だから重宝されるし!」


 魔道具師とは、ポーションや毒消しなどの回復薬から始まり、防御魔法や攻撃魔法を込めた使い捨ての魔法玉などの消耗品アイテム、さらにレベルが上がれば魔化した装備品等を作ることができる職業だ。


 レベルが高位であるほど強力な魔道具(マジックアイテム)を作れるため、レベルが上がれば殆どは危険な冒険者など引退し、街で魔道具職人に転職する者や自前で作った魔道具を売る店を開く者が殆どである。


 しかし現役パーティにサポート役として存在すれば、魔道具師自身の戦闘力はさほどではないがその存在感は大きい。予め作っておいたマジックアイテムを駆使し、瞬時に味方を強化、相手を弱体化できる。剣士は単純に強くなるし、僧侶や魔法使いは余分なMPを補助魔法に使わずに済み、敵を倒すことに専念できるのだ。


「……それになんたって……フフフ。俺の顔がキサラヅさんの好みのタイプど真ん中なんだってさ!!」


 ドヤ顔で言ったサノを見る三人は複雑な表情をしていた。


「……あぁ……そうか」

「なるほどねェ……キサラヅなら()()()()好きそうねェ」

「いやいや、イルマも他人の事は言えぬだろう。こういうのが好みではないか?」

「違うわよォ! 顔も大事だけどアタシは身体よカラダ!! 知ってるでしょ。これが理想だって!」


 イルマは自慢の筋肉質なボディを見せつける。


「サノちゃんは身体がひょろひょろだもん! ……まぁ、中身は子供みたいでカワイイなァ、とかちょっと思ってたけどォ」

「ひっ……やっぱり追放して!! セクハラじゃん!!」


 イルマの流し目に、真っ青になりシスイとアミの後ろへ隠れるサノ。


「ひどい! セクハラだなんてェ。母性本能よゥ!」

「わははは! セクハラする方ならともかく、される方が追放されるのは道理に合わないな。が、今からパーティ脱退の報告の為に冒険者ギルドへ一緒に行ってやっても良いぞ」

「ホントか!?」

「シスイちゃん!?」

「シスイ、本気か?」

「イルマ、アミ、こうまでサノの決意が固いなら仕方ないだろ? それに()()()()()()もあるしな。オレ達はさっさと動いた方が良さそうだ」


 年長者のアミは、シスイの含みのある言い方にすぐに気づいた。彼女はサノへ向き直る。


「サノ……後悔せぬか? 先程忠告はしたぞ?」


 アミがしわくちゃの顔をさらにぎゅっとして言うが、サノにはその真意は図れなかった。ご機嫌で同意してしまう。


「良いよ良いよ! さっさと行こう!」

「はぁ……では、パーティから貸与していたこの魔道具(マジックアイテム)を返して貰うか、お主の分だけ買い取って貰おう」


 アミは4人ともが身に付けているお揃いのチョーカーに手を触れ、サノの同じ物へ目を向けた。これはサノが特訓に耐え、【虹色の風】の正式なメンバーと認められた際、仲間の証として渡されたものだ。


「ああ……あれ? これって外れなくね?」


 サノはチョーカーを返すため、外そうとしたがピタリと首に張り付いて取ることができない。


「わははは! 今まで気づかなかったか」

「これねェ、実は魔法都市(サノちゃんの地元)ワケ有り品市場(アウトレットモール)で、4個セットで格安で売ってたから買ったの物なのよゥ」

「ワケ有り品……つまり呪われていて、解呪せぬ限りは外せぬのじゃ」

「呪っ……!! いや、呪いの効果でデバフ(不都合)など今まで無かったよな? 普通に防御力が少し上がるだけで」


 一瞬慌てたものの、その後冷静に判断したサノを、まるで育てた雛が巣立つ姿を見守る親鳥かのような目で見るアミ達。


「ふうむ。今のレベルでは()()()()()わかったか」

「サノちゃんには、ソレがどんなものか鑑定できて、更に類似品が作れるレベルの魔道具師になって欲しかったんだけどねェ~」

「サノ、安心しろ。呪いの効果は自力で外せないだけだ。だが一度解呪してしまえば魔化の効果は全て失われ、ただのアクセサリーになってしまう」

「解呪はアタシの神聖魔法でカンタンにできるけど……解呪してアタシ達に返すゥ? それとも買い取るゥ?」

「……ちなみに値段は?」


 軽~い感じで聞いてくるイルマに併せ、サノも軽~い気持ちで値段を聞いてみるが、帰って来た言葉に思考がぶっ飛ぶ事になる。


「4つで金貨六枚じゃったから、1つ辺りで計算すると、金貨一枚と銀貨十枚じゃ」

「えっ!?!? ちょ、ちょっと、ボッタクリだろ!?」


 金貨一枚と銀貨十枚。そこそこまとまった金額だ。もし買い取るとなれば今の所持金……過去2年間サノがこのパーティで貯めた金……の、8割近くが失われる。

 しかも呪われているので、これを買い取ったところで後々売ることもできない。こういった物は当然相場よりかなり安い筈である。


 ……つまり、実はこのチョーカーはただの防御力アップの魔道具などではなく、他に金貨一枚半以上の価値相当の魔化が施されている様な代物なのだが、焦ったサノはそこまで考えが及ばなかった。唯々(ただただ)、今まで仲間だった三人に「パーティを離れる」と言った途端に掌を返されてボッタクリをされるんだ! と被害妄想に陥ってしまった。

 ……度々言うがサノは愚かな男である。


「酷い! お前ら最初から俺をハメる気だったんだろ! 今すぐ解呪しろよ!」

「おいおい落ち着けサノ」

「考え直した方が良いわァ。コレ、貴重な品なのよォ?!」

「サノ、この魔道具の効果はじゃな……」


 喚くサノをさとそうと慌てて三人は口を開いたが、もはや聞く耳を持たぬ彼は半ば悲鳴に近い声を出した。


「やーだーあああ!! 解呪してーえええ!!!」


 地団駄を踏み、更に寝転がってじたばたし始めたサノ。三人はそれを見下ろし困惑する。


「あのな、サノ……」

「アーアー聞こえなーいッ!!『解呪する』って言うまで聞こえないもんねー!!」

「……だそうだ。イルマ、どうする?」

「もゥめんどくさいから解呪しちゃいましょ?」

「わははは! しょうがないヤツだな!」

「……致し方なし、じゃな」


 イルマがサノの前にかがみこみ、サノの首の辺りに手を当てて神聖魔法を発動した。一瞬まばゆい光が彼を包んだかと思うとすぐにサノの様子は一変した。


「ハイ、解呪できたわよゥ。チョーカーを返してくれるわねェ?」


 唯のアクセサリーとなったチョーカーはあっさりと外れた。


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