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08.はじめてのデート

「お客様すごくお似合いですよ! 身長があるからかっこいいですね!」

「……うん、これください」


 そして翌日の土曜日。

 午前中から家を出て、私とクルトは買い物をしに街に来ていた。


 ここに来るまでの格好は、自宅に置いたままになっていた兄の服と靴でなんとかコーディネートした。


 クルトは兄よりも少し大きかったから裾が短くなったけど、なんとかオシャレに見えるようなアイテムで合わせた。


 試着させたのはカジュアルなシャツとパンツ。

 とてもシンプルな服装なのに、スタイルがせいか様になって見える。


 正直、かなりかっこいい。

 そこら辺のモデルより、よっぽどスタイルがいいし、顔も整っている。

 私のことを彼女だと思っている店員さんでさえ、さっきから顔を赤くしてクルトにうっとりしている様子。


「……」


 そんなクルトをじぃっと見つめていると、ふと目が合った彼がニッと口角を上げた。


「ユア、さては俺に見とれているな?」

「な……っ!? そんなんじゃないから!!」


 確かにちょっと見とれちゃったけど、なに調子に乗ってるの!?

 なんか悔しい!



 それから同じサイズのTシャツや上着、適当なサイズの下着ときちんと履いて合わせた靴を買ってあげた。


 お金は両親が毎月振り込んでくれている。

 お互い娘にいくら振り込むか相談なんてしない二人は、時々私に「お父さん(お母さん)はいくらくれるの?」と探りを入れ、張り合うようにそれよりも多い額を入金してくるようになった。


 いつだったか、「こんなに必要ない」と言ったことがあったけど、「あまった分はお小遣いにしなさい」と言われた。


 だから私は嘘をつくようになった。

 嘘だとバレないギリギリの額を伝えることで、二人の自尊心を傷つけないのだ。


 それでも普通の高校三年生には多すぎるお小遣いだと思う。

 それに私はバイトをしているから、お小遣いは自分でなんとかできているし。

 それでも贅沢はせずに自炊して、あまった分はそのまま銀行に預けていた。


 だけど今初めて、こんなにお金があってよかったと思う。

 せっかくだからありがたく使わせてもらうことにする。人助けだと思えばきっと両親も喜んでくれるはずだ。



「……しかしこんなに買って大丈夫だったのか? 自分で払えたらよかったのだが……」

「大丈夫大丈夫。いらないお金があまってたから」

「いらない金? この国にはそんなものまであるのか?」

「あはは、ないけどね。そういう意味じゃなくて……使い道に困ってたお金ってこと」

「なるほど……。とにかく礼をしなければな。俺が向こうの世界に戻るまでの間、君を守る騎士となることを約束しよう」

「なにそれ、大袈裟ね。別に守ってもらうほど危険なことはそう簡単には起きないったら」


 真顔でそんなことを言うクルトの言葉を冗談として受け取り、小さく笑う。


「もちろん俺の世界に戻ることができたら必ず返す。こう見えて俺はそれなりに稼いでいたからな」

「ふーん。それは楽しみ」


 誇らしげに語るクルトだけど、彼の世界のお金はこっちじゃ使えないんじゃないかな? そもそも異世界に帰っちゃったらもうこっちには戻れないかもしれないし。


 そう簡単に行ったり来たりできるなら、私だって遊びに行きたい。


 ……むしろ、そっちの世界で――。


「まぁ帰り方がわからないからな。とりあえず礼はさせてほしい。こっちにいるうちは俺がユアを守るから、安心してくれ」

「……うん」


 どうやら本気らしいクルトの頼もしい表情に、それ以上否定することもできずに歩みを進める。


 お礼か。そんなものは求めてなかった。

 だけど私はどうしてこの人にここまでしているのだろうか。

 知っている人が誰もいない世界で一人ぼっちの彼に同情してしまったのか……それとも私自身、一人だったのがそんなに寂しかったのかな。



「――そうだ! 駅前に新しくできたドーナツ屋さん! 一回行ってみたかったんだ!」


 買った荷物はもちろんクルト自身にすべて持たせて、駅へ足を向けていた私の目に飛び込んだ行列を見て、目を輝かせる。


「ドーナツ?」

「そう、一番最初にあげたやつ」

「ああ、あれか」


 私は洋菓子が大好き。特にドーナツが。

 クルトは人混みに困惑しているけど、構わず列に並んだ。


 街に出て、人の多さにはもちろん、高いビルや道路を走る車なんかにもいちいち大きな反応を見せるクルトに、一つ一つ説明するだけで実はかなり時間がかかってしまった。


 意外と理屈っぽいところがあるようで、どうして馬もいないのに車が進むのだとか、信号の色はなぜ変わるだとか。


 やっぱり魔法だろう!? と、また聞かれた。


 魔法がある世界は随分と都合がよさそうだ。もう面倒くさいから「そうだよ、魔法だよ」と、何度言ってしまいたくなったことか……。


 とにかく彼には見るものすべてが未知の世界。


 私は当たり前に見て育ってきたから疑問なんて感じたこともないことに、いちいち説明を求めてくる。


 言うまでもなく、電車に乗るのも一苦労だった。子供のほうがまだ大人しく乗ってくれたと思う。


 この様子では、彼自身が疲れてしまわないのかと心配になったくらい。


 ともあれ、用事は無事に済んだし、あとはドーナツを食べて帰るだけ。


 きちんと列に並んでいた私とクルトは、いよいよ順番が来て人気ナンバーワンとナンバーツーの商品を注文した。それからおうち用にも何個かお持ち帰りの箱に入れてもらった。


 空いている席を探して座り、大量の荷物を抱えているクルトの口元へ生クリームたっぷりのドーナツを運ぶ。


「はい、あーん」

「……子供じゃないんだ。自分で食べられる」


 そうしたら少し照れたように頰を染めたクルトだけど、そのままガブリとドーナツにかじりついた。


「とか言いながら食べてるし! ……って、紙まで食べてる!!」


 ドーナツの包装紙ごとかじりついてしまった彼を見て笑い、今更デートみたいだなんて思って、私もちょっと照れた。


 やっぱりクルトはモデル並に……いや、それ以上にかっこいいし、スタイルもよく、目立っている。

 さっきからどこへ行っても女の子たちの視線を集めているのだ。



 ドーナツを食べ終わった後、クルトはトイレのため席を立った。迷子になったら困るからついて行こうかと聞いたけど、ちょっと頰を染めてムスッとした顔で断られた。


 そんな彼がちょっと可愛く見えてしまった。



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