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07.いい加減慣れてください!

 平凡といえば平凡で、普通といえば普通の人生だった。

 高校生なのに一人で暮らしていることには驚かれることもあるけど、別にそんなに大したことではない。家は親の持ち物だし、毎月多すぎるくらいの仕送りがある。


 だから特に不満があったわけでもないつもりだけど、何かを求めていたのは確か。


 そんな私に普通とは違う暮らしを運んできたのは、私を甘やかしてくれる猫型ロボットでもなければ、白馬に乗った王子様とも違う。もちろん、高級外車に乗ったイケメンスパダリ社長でもない。


 異世界からやってきたという、自称騎士(笑)。


 一人で住むには広すぎるこの二階建ての一軒家には、部屋が無駄にあまっている。


 なぜ両親はこんなに大きな家を建てたのかって、うちはいわゆるお金持ちだから。


 父親は医者、母親は弁護士。

 仕事の都合で父と兄は海外、母は家から通う時間がもったいないので職場の近くに部屋を借りている。


 住まないのならこんな家、建てなければよかったのに。


 籍は入ったままだけど、事実上うちの両親は夫婦ではない。


 私を通さなければたぶんお互い、どこにいて何をしているのかも把握していないと思う。まぁ今時珍しくもないから、どうでもいいんだけど。


 兄が父と同じ医者になる道を選んだのが悔しかったのか、母は私を自分の仕事相手の社長の息子と結婚させたがっている。


 まだ高校生なのに、とりあえず一度会ってみなさいと、何度もお見合いの場を設けようとしてくるのだけど、私はいつも風邪を引いただとか、体育祭の準備があるだとか、適当な理由をつけて逃れてきている。



 だって結婚する相手は自分で決めたいから。

 それこそ政略結婚だなんて、小説の中だけで十分なのだ。




     *




 あの日から、クルトはうちに居候することになった。


 異世界から来たということを完全に信じているかは自分でもわからないけど、途方に暮れているのは確かのようだし、泊めてあげても何一つ問題は起きなかった。


 それどころか、初めて会った日に何かあったら使ってと、私の好きなキャラクターのミニ封筒に入れて渡した一万円札に、彼はまったく手をつけていなかったのだ。


 つまり、本当に右も左もわからない状態でいる彼が、かわいそうで放っておけなかった。

 まさに捨て犬と同じではないだろうか?

 身なりは大きくても、生まれたばかりの赤ん坊のようでもある。


 でも、クルトには家の中のことを教えるだけでも一苦労だった。


 テレビにはビビって剣を抜くし、冷蔵庫は「魔法だな」とか言いながら開けっぱなしにする。

 洗濯機とは喧嘩して、電子レンジの前にはかじりついて「ほう……」とか唸りながら何度もご飯を温め直していた。そのせいで火傷をしていた。


 うちはIHコンロだから、どうして温まるのか、魔法なのか? とうるさく聞いてくるし、また手で触って火傷をするし……。


 このまま外に出すのは絶対に危険だと判断した。

 一緒に買い物に行くだけでも剣を持って出ようとするのだ。


「そんな物を持ち歩いていたら捕まるわよ」と言ったら、「魔物が出たらどうする!」と真顔で言われた。


 もう、勘弁してほしい……。


 一人で外出させたら間違いなく車に轢かれるか、警察に捕まるかのどちらかだ。


「何度も言ってるけど、この世界には魔物なんていないし、魔法もないの!」

「……不便だな」

「どんな魔法があったのか知らないけど、慣れたらそれなりに便利だから!」


 そんな会話をして、あの中二病丸出しの服は剣と一緒にクローゼットの奥にしまい、兄が置いていった洋服を着せた。


「テレビは見ていいから、色々学んで。わからないことは聞いてね! 絶対勝手にやらないこと!」

「……わかったよ」

「明日は学校が休みだから、一緒に服とか買いに行こ。街も案内してあげるから」

「……わかった」


 そんな会話をしたのは午後十一時。


 もうお風呂にも入ったし、そろそろ寝ようかと思った頃、テーブルの上に置いてある私のスマホが音を立てて震えた。


「何事だ!?」

「誰だろ、こんな時間に」


 そうそう、クルトはスマホにもすごく驚いていた。


 離れたところにいる相手とこんな小さな機械で話せるなんて、確かにビックリだよね。


「ほう。これは魔法道具だな?」と言っていた。魔法はないと言っているのに、しつこい。


「げ……」


 だけど、メッセージの相手と内容を見た途端、私の口からは思わず怪訝な声が漏れてしまった。


「どうかしたのか?」

「ん……なんでもない」


 悠真だ。

 内容は、〝明日デートしよう〟的なこと。本当にしつこい。


 クルトにまで心配をかけるような顔をしてしまったのか、私を見つめている彼に気がついてすぐにスマホをポケットにしまった。


「私はもう寝るから。クルトも早く寝なよ?」


 彼には一階の客間に布団を敷いて寝てもらっている。まだテレビを見る様子の彼を残したまま、私は階段を上った。



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