06.騎士様の帰る場所
「結愛、今日カラオケ行こって話してたんだけど、来れる?」
放課後、幼馴染の綾乃と、同じクラスの友香が、声を弾ませながらそんな誘いをしてくれた。
「ごめん、今日はバイト」
「じゃあまた今度だね」
「うん、ごめん。バイト遅れそうだから先に行くね」
「は~い、頑張って」
だけど今日はカフェでバイトがある日だから友人たちに手を振って、早足に教室を出た。
「結愛ちゃん、一緒に帰ろ」
そうしたら待っていたかのように、今度は軽い口調の男に声をかけられた。
「……ごめん、私急いでる」
「だいじょぶだいじょぶ、俺足長いから!」
「……」
そういうことじゃないんだけど。
にこにこしながら茶色に染まった髪を揺らして隣にくっついてくるのは悠真だ。
「距離近い。っていうか理沙は?」
「あー……、大丈夫だよ!」
「……」
何が大丈夫なんだ。
私を見る度に悪口言ってくるんですけど。全然大丈夫じゃないんですけど。
一瞬考えたように間を置いてからにかっと笑う悠真は、たぶん何も考えていないのだと思う。
「どこ行く? あ、俺いい店知ってるよー!」
「私これからバイトだから」
「え? 結愛ちゃんどこでバイトしてんの?」
「カフェ。じゃ、私行くから!」
「あー、結愛ちゃーん」
何か言ってる悠真を残して、私は走り出す。
つきまとわれたら困る。
どうせ遊びなんだろうけど、別の子にしてくれないかな。
っていうかそもそも彼女がいるじゃん。
はぁ、と小さく息を吐いて、今頃クルトはどこにいるのだろうと、ふと考えた。
*
もう夏が終わりそうなこの時期は、夜になると少し寒い。だから持ってきていたカーディガンを制服のブラウスの上に羽織って、外に出る。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様、結愛ちゃん気をつけて帰ってね」
学校帰りにアルバイト先のカフェを出たら、もう外は真っ暗だった。
それでもちょうどいいくらいの気候にふぅと息を吐き、またクルトのことを考える。
クルト、どこに行ったのかな。
ちゃんと自分家帰ったのかな?
……まさか、本当に異世界から来たわけじゃ……ないよね?
「……」
神社に倒れていたときの彼の姿と、ご飯を食べたときの嬉しそうな顔を思い出す。
というか、今日は何度もクルトのことを考えていた。
よくよく考えたら若い男を誰もいない一つ屋根の下に泊めたのだ。
親じゃなくても、反対されていたと思う。
もし襲われても、お金を取られても、私自身の責任なのだから。
でも……
「異世界から来たって、本当かなぁ……」
初対面なのに信用してしまった根拠はやっぱりわからないけれど、今もどうしているのか、気になっている私が確かにいた。
「ただいまー」
鍵を開けて玄関を開くけど、当然返事はない。
それでも飼い犬の茶太郎がしっぽを振ってお出迎えしてくれる。
「わふっ!」
「茶太郎、ただいま」
茶太郎は秋田犬をベースにした、白に近い薄茶の毛色をした中型犬。
拾ったのは中一のとき。
あの頃はまだ子犬だった茶太郎も、今では抱っこするには一苦労なほど大きくなった。
「おはぎー、おもちー、ただいま」
「にゃー」
そしてリビングのソファでくつろいでいた猫二匹にも声をかける。
黒猫のおはぎと、白猫のおもち。
友達にはよくネーミングセンスを笑われるけど、おかげでみんなすぐに三匹の名前を覚えてくれる。
「さて……と」
今日も、当然朝出たときと何も変わらない家の中。
「ちゃたろー、お散歩いこ!」
夕食はバイト先でまかないを食べてきた。
時計を見ると夜の九時半。
制服から私服に着替えて、茶太郎にリードをつけたら再び外へ。
近くの公園まで行って、思う存分走らせてから帰宅するのがいつもの散歩コース。
「……茶太郎、今日はいつもと違う道で帰ろう!」
「わふっ!」
先ほどから何度も頭をよぎったのは、やっぱりクルトのこと。
もしまだ居たら……?
そしたら私はどうするつもりなのだろうか。
ドキドキと胸が高鳴っている理由がわからないまま、向かった先はあの神社。
もういるわけがない。
だって冷静に考えたら異世界から来たなんて嘘に決まっているし、お金がなくて食事と宿が目当てだとしたら、あんなに人気のない神社にいるなんておかしいから。
そう言い聞かせながらも、心のどこかではまだ彼がそこにいるような気がした。
同時に、助けてあげなきゃいけないような気がしていた。
「――クルト?」
そして、やっぱり彼はいた。
拝殿前の石段で、彼は頭を抱えるようにして座っていた。
「クルト……!」
茶太郎と一緒に駆け寄ると、クルトはパッと顔を上げて驚いたように私を見つめた。
「ユア……」
そして、彼と目が合った瞬間、気づいてしまった。
……彼がいてくれて、ほっとしている自分がいた。
「ここに来てまた祈れば戻れるんじゃないかと思ったんだが……、やはり駄目みたいだ」
「……あなたは本当にカトラスク王国……だっけ? そこからから来た、騎士なの?」
「そうだと何度も言っているだろう」
「……」
普通に考えたら、そんなわけないのに。
でも、どうして今日もここにいたの?
まさか私が来ると思ったの?
バカじゃないの……。
「……だったら、うちに来ていいよ」
「なに?」
「だから夜ご飯……、食べに来てもいいよ」
だけど結局来てしまっている私は、こう口にすることが決まっていたのかもしれない。
いつかこの決断を後悔する日が来るのだろうか?
今はまだわからないけれど、この直感を信じてみようと思った。
逆転移もの、需要あるだろうか……と不安です((( ´ºωº `)))
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