57.そして最後の恋をする5(※クルト視点)
結愛の中にいつも感じていた違和感。
たまに感じる昔の男の影。
そんなに嫉妬深い男ではないはずの俺だが、何かが妙に引っかかった。
どうしようもなく焦燥感を思え、イライラした。
これは一体どこから来ていて、俺は何をこんなに焦っているのか、それすらもわからなかった。
だが先ほど聞いた綾乃の言葉で、それは確信に近いものに変わった。
結愛は俺を誰かの代わりにしているのだと。
そしてそれを当たり散らすように、俺は結愛のことを押し倒した。
結愛を抱けば安心するのか……?
それは違う気がする。無理やり、一方的に抱いたって、俺のこの焦燥感は満たされない。
だが、他にどうすればいいのかもわからない――。
「結愛が過去に唯一付き合った男だろ?」
「……」
「そんなに俺と似ているのか?」
「……」
「そいつとはどうして別れたんだ」
「……」
「なんで、そんなに悲しそうに俺を見る……」
「…………」
この正体のわからない焦りを、言葉にして結愛にぶつけた。
結愛はただ、黙ったまま俺を見つめて話を聞くと、そっと俺の首に細い腕を絡めてきた。
「ごめんね、来人」
「……なんで謝る」
「本当は全部話したい。全部、来人にも知ってほしい」
「……」
結愛の温もりはひどく優しくて、結愛の匂いはどこか懐かしい。
俺は、この温度を知っているような気がする……。
俺は何か大切なことを忘れているような気がして、自分自身に無性に苛つくのだ。
「俺も聞きたい。全部、知りたい」
「うん」
高ぶっていた感情が落ち着いて、俺は結愛の頭をそっと撫でながらこの小さな身体を抱きしめた。
「――来人を、連れていきたい場所があるの」
そして結愛のその言葉を合図に、俺たちは身体を起こし、今からそこへ行くことにした。
*
「ここは……」
結愛に連れて来られたのは、古くて寂れた小さな神社だった。
たぶん結愛の家の近くだ。
風が吹き、ざわざわと木々が音を立てて揺れている。
初めて来るはずの神社だが、どこか懐かしい感じがした。
昔、夢で見たような……。
この場所に来たことがあるような気がする。
その不思議な感覚に、鳥肌が立った。
ゆっくりと本殿に歩みを進めると、結愛が呟いた。
「私たちはここで出逢って、ここで離ればなれになったんだよ」
「……」
普通に聞けば、結愛はおかしなことを言っている。
だが、俺はその言葉を軽く受け流すことができなかった。
「あなたはいつもここにいた。だから私も、いつもここで待ってた」
結愛の瞳に涙が浮かんだ。
何かを思い出せそうで、その瞳をじっと見つめる。
俺は何か大切なことを忘れているんだ。
結愛が見ているのは他人ではない――では、一体……?
「クルト、思い出して」
「……」
結愛……。
……ユア。
やはり俺は昔、結愛に会っているような気がする。しかしそれは子供の頃ではなく、もっと、もっと昔の……。
「私は三年間、毎日この場所であなたを待ってたんだよ。あなたが手紙に書いたように、泣かずに待ってた……」
「……」
「あなたが、帰ってくるって、信じてた」
「……っ」
ユアは、泣き虫で優しい人だ。
だから、早く会いに行ってやらなければならかった――早く、会いたかった。
――俺はこの場所を知っている。
結愛を、知っていた。
「……――!」
その瞬間、パンっと何かが弾けるように目の前が、いや、頭の中に閃光が走った。
「ゆあ……」
この神社で倒れている俺に声をかけてくれたユア。甘いドーナツと甘いアイスティーをくれて、夕食をごちそうしてくれた。
そのシーンを思い出した瞬間、俺の中に一気に記憶が入り込んできた。
映像が、感情が、まるでテレビ画面を早送りしているように流れ込んでくる。
「……ここで、君に助けられた……。ここで、初めてキスをした」
「うん……っ」
あのときの、繊細な感情がまるで俺自身に起きたことのように思い出される。
とても不思議な感覚だった。
「茶太郎ともよく散歩をした……、四人でデスティニーワールドにも行ったな、それから綾乃の家で少しの間世話になった」
「うん……」
「ユア……ああ、結愛。結愛だ。会いたかった……っ、俺はずっと、ずっと君に会いたかったんだ、結愛……!!」
涙が込み上げてきて、感情が高ぶった。
自分の世界に帰った後のこともすべて思い出した俺の瞳から、感情が溢れ出した途端、俺は彼女を力いっぱいこの胸に抱きしめた。
全部、全部、思い出した。
最後にこの場所で将来を誓い合って、キスをしようとして……そして俺は――。
「あれから三年か……待たせてしまったな」
記憶を言葉にすればするほど、鮮明にあのときの感覚が蘇る。
自分の世界に帰ってからも、結愛を想わない日はなかった。
とても会いたくて、愛しくて……毎日胸を焦がした。
「待った、待ったよ……ずっと、待つつもりだった」
「ただいま、結愛」
三年分の想いを溢れさせるようにぼろぼろと涙をこぼして泣き出した結愛を、俺はきつくきつく抱きしめた。
「相変わらず結愛は泣き虫だな。泣かずに待ってろと、手紙に書いただろ?」
「だから……、もう泣いてもいいでしょう……?」
「仕方ないな。俺が拭ってやる」
「来人だって、泣いてるじゃん……っ」
結愛の言葉に自嘲して、小さく鼻をすする。
結愛は前より少し、髪が伸びたな。
身長は相変わらず小さいが、少し大人っぽくもなったか。
料理の腕前は落ちてなかった。
ちゃんと保育士になったのか。
まるで、さっきまでの俺と違った。
何かの枷が一気に外れたみたいに、スッキリした。
「結愛、俺と結婚してくれるか?」
「……はいっ」
もう一度〝俺〟として結愛と出会えた奇跡を噛み締めながら、鼻を赤く染めた結愛の頰を手のひらで包み、誓うようにそっと口づけた。
――そして最期の恋をする。
今度こそ、永遠に終わらない
俺たちが生きた証を刻んでいこう。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
逆転移で、騎士がこちらの世界にやってくるお話。とても楽しく執筆することができました。
現代舞台になるので、なろうで読んでもらうのはなかなか難しかったですが、「ユアがクルトの世界に転移する話も読みたい」などのコメントもいただき、そういう展開も面白そうだなぁと想像しました!いつか書いてみたい……!
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ありがとうございました!




