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40.その仕事、剣は必要か?(※クルト視点)

「ルイ、話がある」


 その日、冬休みに入ったユアはアヤノと街に買い物に出かけていた。


 今日は夕方から仕事に行くらしいルイが部屋から出てきたので、俺は意を決してユアの兄である彼と向き合った。


「……なんだよ、改まって」

「俺はユアが好きだ」

「……」


 ルイにはユアを好きになるなと言われている。

 手を出したらバラバラにされて二度と俺の世界に帰れなくするだとかなんだとか……。まぁ、今となってはもう帰れなくても構わないが、バラバラにされるのは困る。


 だが彼はきっと話せばわかってくれるだろう。

 そう信じて真摯に向き合った。


「そんなことはもう知ってる。付き合っているのか?」

「ああ」


 深く、とても深く溜め息をつきながら抱えるように頭を押えるルイを見て、俺はぐっと覚悟を決めて歯を食いしばる。


 バラバラにはされなくても、一発くらい殴られるかもしれない。

 本当に、俺はいつからこんなにユアのことが大切になってしまったんだ。


 国のためならこの命も投げうる覚悟で騎士になり、仕事一筋に生きてきた。

 婚約者もいなかったし、好きな女もいなかった。


 それが、違う世界の女性にこんなに深入りし、こんなに……愛おしく想ってしまうようになった。


 もし、いつかユアと離ればなれになる日が来るのだとしたら、それがとても怖い。


 ユアはこれまで寂しい思いをしてきたのだ。

 またユアにそんな思いを、俺がさせるかもしれないと思うととても怖い。


 もし戻れる方法が見つかったら、ユアを一緒に連れて行きたい。


 もし、戻れないのなら――。


「悔しいがお前たちが半端な気持ちではないことはわかってる。確かにいつかお前がいなくなるのなら、結愛は傷つく。だが、正直お前が元の世界に帰れるという保証もない」

「……まぁ、そうだな」

「そんな不確かなことを考えなければならない時期はもう終わっているだろ? まぁ、それを言うなら俺が帰ってきたときには既に手遅れだったのかもしれないが……。とにかく結愛が望むなら、俺はその想いを止めることはできない。それこそあの子を傷つけることになるからな」

「……」


 そうか。ルイはいつでも(ユア)の気持ちを第一に考えている兄だった。


「ありがとう。誓うよ。君の妹を決して傷つけるようなことはしないと」


 胸に手を当てて告げれば、ルイは少し照れくさそうに眉を寄せてわざとらしく怖い顔をした。


「だが、こんな仕事もしない無職のヒモ男に結愛を渡すのは反対だな」

「……それは俺だって、働けるのなら働きたい」


 これはユアに想いを伝える上でとても気になっていたことの一つだ。

 もしユアとこのままこの世界で暮らせるのなら、俺も仕事をしなければ。

 俺がきちんと働いてユアを安心させてやらなければ。


 先のことが決まる前に想いを伝えてしまったが、想いを通わすことができたのだから、尚のことちゃんと考えなくてはならない。


 ただ、俺は身分証を持っていないのだ。

 取得するのは簡単ではないようだが、なんとかするしかないな。


「ただいまー」


 ちょうどそのとき、ユアが帰宅を告げる声が聞こえた。


「おかえり」

「ただいま。あれ? お兄ちゃん仕事は?」

「ああ、今日は夜勤だからこれからだ」

「ふーん……っていうか何? この空気」


 リビングに漂っていた不穏な空気を感じ取り、ユアが俺とルイを交互に見やる。


「喧嘩してたの?」

「コイツがいつまでもニートでいるから、仕事をしろと言っていたところだ」

「働けるなら今すぐにでも働く」


 そんな俺たちの言葉を聞くと、ユアはぱぁっと表情を明るくさせた。


「仕事があったら働くの?」

「ああ、もちろん。俺は向こうでは結構真面目に働いていたんだぞ?」

「それじゃあ早速なんだけど、綾乃ん家の会社の工場! 人が足りないらしいから、お願いしておくね!」

「工場?」

「おお! そうか、工場か! それはお前にちょうどいい仕事だな!」

「うん、クルトって力と体力には自信ありそうだし、綾乃のところなら本当に助かるよね!」


 俺を置き去りにして「よかったよかった」と喜ぶ二人。


「待て、工場とは、何をするところだ? 剣は必要か?」

「さぁ? 剣はいらないけど、とにかく言われたことをすればいいと思うよ。とりあえず一回来てほしいって」


 そう言って、ユアはスマホという通信道具でアヤノに連絡を入れた。



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