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04.今夜は泊めてあげることにする

 待って、じゃあ、それじゃあ……。

 まさかこの人、異世界転移してきちゃったってこと!?

 うそ……! 本当に!?


 その手の小説や漫画はいくつか読んだことがある。実は密かにいいなー。なんて、そんな非現実的な物語に憧れたりしていた。


 だけど、私が異世界に転移するんじゃなくて、向こうの人がこっちに来ちゃったの!?

 どうせなら私が行きたかったわー。


 ……なんて。そんなことを考えていたらクルトが剣を鞘に戻して口を開いた。


「……どうやら信じてくれたようだな」

「うん……まだ半信半疑だけど」


 もしそれが本当なら、彼に伝えてあげなければならない。

 これから取り乱すのは、私じゃなくて彼だ。


「いいわ。教えてあげる。その変わり、驚かないでね」


 もう一度彼を椅子に座らせて、私もその向かいに腰を下ろす。


「やはりかなり遠くまで来てしまったのだろうか……」

「……ここは、異世界よ」

「なに……?」

「あなたが住んでいたのとは別の世界……じゃないかなと、思う」

「……なんだと?」


 自分で言いながら、何言ってんだ私。とツッコミたくなる。本気で言っているのか、正直自分でもわからない。


 ここで「何言ってんの? 信じるとかウケる。小説の読みすぎ!」とか言って笑われたら、すごく恥ずかしい。殺意が湧くかも。


「異世界……話には聞いたことがある。一部では異世界人を召喚する儀式があると噂されているが……まさか、本当に異なる世界があるとは……」


 けれどクルトは、私の心配を他所に意外と冷静にことを受け止めている様子だった。


 クルトがどんな世界から来たのか知らないけど、私がよく読む小説や漫画の世界のような騎士なのだとしたら、中世ヨーロッパ風なところだろうか。魔物もいたようだから、もちろん本当の中世ヨーロッパではないんだろうけど。


 だとしたら現代の日本の街を見て、ここが自分がいた世界ではないかもしれないと、薄々感じていたのかもしれない。


 さすがは騎士。思ったよりも冷静だ。


 けれどそうなってくると、ますます彼の言っていることが嘘ではないのだろうと、確信していく。


 でもまさか、そんなことって……。


 未だに信じられないけど、こんな変な嘘をわざわざつき続ける理由が見当たらない。


 ただで食事をしたかったにしてはしつこいし、私のことをどうこうする気もなさそうだ。

 お金が目当てだとしても、もっといいやり方がある。


 うん、つくならもっとマシな嘘があるはずなのだ。


 こんなに手の込んだ準備をするくらいなら、行き倒れていないような気がするし。



 ともかく彼がそう思い込んでいるのは確かのようだから、今夜は家に泊めてあげることにした。


 大きな一軒家のこの二階建ての家は、私たちの他には犬と猫しかいない。

 部屋はあまっているし、ダメだと言ううるさい親もいないのだから。



 彼の服は汚れていたから、泊めるならまずはお風呂を貸してあげることにした。

 倒れていたんだから汚いのも当たり前だし、丸二日この辺りを彷徨っていたと言っていたし……。最後にお風呂に入ったのいつだろう……。


「とにかく今日はゆっくり眠るといいわ。その前にお風呂を沸かすから、どうぞ」

「ありがとう……。本当に何から何まで、すまないな」

「ううん。そんな汚い格好の人にお布団貸すほうが嫌だから、気にしないで」

「……」


 にっこり笑って言うと、彼は何か言いたそうに目を細めて、けれど何も言わずに頷いた。



「向こうにもお風呂はあった?」

「あったが……なんか違うな」


 お風呂が沸いた頃、浴室に案内してシャワーの使い方を教えた。


 捻るだけでお湯が出ることにも、ボタンひとつでお湯が沸くことにも驚いて、クルトは「これは魔法か?」と聞いてきた。


 どうやらクルトの世界には魔法があったらしい。やっぱり私が向こうに行きたかった!!



「――それじゃあ、上がったらこれで拭いて、これを着てね」


 彼に渡したのはバスタオルと男物のトランクスとTシャツにジャージ。


「わかった」


 全部、兄が使っていたもの。

 クルトがお風呂に入っている間に彼の騎士服を洗濯機に入れて洗った。


 騎士服って洗濯機で洗ってもいいのかわからなかったけど、表示がなかったので、縮んでしまったら謝ろう。


 洗濯が終わりの音を知らせる前に上がったクルトが、脱衣所から兄のジャージを着た姿で近づいてきた。


「なんだ、この服は……これでいいのか?」

「ぷ……っ」


 兄が高校生のときに着ていたジャージは、クルトには少し丈が短い。


 イケメンなのに、なんかダサっ。


「大丈夫大丈夫。あってるよ。ちょっと小さかったみたいだけど」

「ううん……この国の服は変わっているな……」


 なんだか少し不満そうだけど、あの汚れた騎士服を着るよりも、裸で寝るよりもマシだと思う。


「そうだ、髪を乾かさないとね」

「魔法でか? しかしこちらに来てから魔法が使えなくなってしまって――」


 彼の髪は私みたいに長くないからすぐに乾きそうだけど。でもこの家に入ったときからあちこち物珍しそうにきょろきょろしていたクルトに、今度はドライヤーを見せて驚かせてあげることにした。


 向こうの世界ではクルトにも生活魔法というのが使えたらしい。けれど、こっちに転移してから使えなくなってしまったのだとか。


 そんな彼はドライヤーを見て「君は風魔法の使い手なのか!」と、感心していた。



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