39.先のこと
「それじゃあ、ついに付き合うことになったの?」
「……うん」
冬休みに入った十二月二十八日。
その日はお昼過ぎから綾乃と二人で出かけて、ウィンドウショッピングをしていた私たちは、今月の頭にオープンしたばかりのカフェでケーキを食べていた。
四日前のクリスマスイブ、私はクルトと二人きりの時間を過ごすことができた。
告白されて、抱きしめられてキスをして――。
今思い出しても顔が熱くなってしまうくらいとても甘い時間を過ごしていたら、思ったより早くお兄ちゃんが帰ってきた。
抱き合っているというだけで逆上しそうなお兄ちゃんの「ただいま」の声に慌ててクルトの上から飛び降りて、元いたソファに戻った私は、いつも通りの笑顔を作って「おかえり」を言い、お兄ちゃんにも「ケーキあるけど食べる?」と、いそいそとキッチンへ逃げ込んだのだった。
「とにかくおめでとう! これでやぁーっと結愛も大人の仲間入りね!」
「そんな……大袈裟だよ」
「まぁそうね。キスくらい、今時小学生でもしてるしね」
「えっ!?」
出たな、今時の小学生め……!
思い当たる人物なんていないけど、心の中で小さなライバルに対抗心を燃やしていたら「でも――」と綾乃が声を出した。
「本当はクルト君って、従兄じゃないんでしょ?」
「え……っ」
「わかるわよ、それくらい。でも何か事情があるんでしょう? 言いたくないなら聞かないけど、私は結愛には自分の気持ちを大事にしてほしいかな。あんたは小さい頃からずっと自分の感情を押し殺して生きてきたんだから」
「……」
黙り込んでしまった私に、綾乃はにっこりと笑ってソファに背中を預けた。
「はぁ~、私もいい感じだと思ったんだけどなぁ……」
これ以上私がこの話をしたくないということを悟り、綾乃は話題を変えてくれたらしい。
私は友達には本当に恵まれたと思う。
「っていうか、綾乃こそお兄ちゃんに本気なの?」
綾乃のほうはというと、お店を出た後二人でカラオケに入って、歌わずにずっと話をしていたのだとか。
「かっこいいよね、琉生君」
「……私のお兄ちゃんだからね?」
「わかってるわよ。っていうか結愛も結構ブラコンよね」
「……」
綾乃はころころ彼氏が変わるから、ちょっと不安。
まさかお兄ちゃんが高校生の綾乃に遊ばれるなんてことはない……と、信じたいけど。
ちゃんと門限である午後十時までには綾乃を家に送り届けて帰ってきた兄は、私から見てもなかなか手強い相手だと思う。
「あ、そうだ。ところでクルト君ってまだ仕事してないよね?」
「うん」
「いくら結愛ん家が裕福だからって、ヒモ男ってどうかと思うのよね」
「……」
それだけは納得いかないわ。と続ける綾乃だけど、クルトにはこの世界での学歴もなければ戸籍もない。一体履歴書に何を書けばいいのだろうか?
それにいくらこっちの世界に慣れてきたとはいえ、まだ一人で仕事させるのは少し不安。
「……ん、何か考えてみる」
「仕事する気はあるなら、うちで働かないか聞いてみてくれない?」
「え? 綾乃のところで?」
「そ! 急に一人辞めちゃってさぁ。クルト君っていい身体してるじゃない? 結構体力ありそうだし、私がお父さんに口効いてあげるけど!」
綾乃のお父さんは工場の社長。
そんなに大きな会社ではないけれど、それなりに儲かっているのは聞いてる。
「とりあえず手伝いって形でもいいし、一回来てくれないかなぁ?」
「……それだったら助かるかも」
「そう? じゃあクルト君に聞いてみてね!」
堅苦しい面接も履歴書もなくて大丈夫なのだとしたら、クルトだって働かせてもらえるはず。
あ……でも給料とか税金ってどうなるんだっけ?
やっぱり戸籍がないとまずいのかな……。
「結愛?」
「あ、うん! ありがとう。クルトに聞いてみるね」
もし働くことができたら……。
クルトがこっちにいてもいいのではないかと、心のどこかで淡い期待を抱いてしまった。




