36.クリスマスのあれやそれ
綾乃たちが帰った後、お兄ちゃんが帰ってくるまでの間私とクルトは二人きりでテレビを見ていた。
「……」
「……」
何気なくつけているバラエティー番組から、芸人さんたちの大きな声が響いてくる。
クルトはこの面白さがわかっているのいないのか、にこりともせずに真剣な表情で画面を見つめていた。
「ユア」
「なに!?」
そんな疑問を抱いてクルトに横目で視線を向けていると、唐突に名前を呼ばれた。
声が跳ねたのを気づかれただろうか……。
「クリスマスには、何か言うことがあるらしいな」
「え?」
やっぱりお笑いの面白さをいまいちわかっていなかったのか、クルトもこちらに顔を向ける。
「アヤノたちに聞いたんだ」
「あー……クリスマスには、『メリークリスマス』って挨拶し合うんだよ」
「ほう」
言うことって、それかな?
そこまで聞いたのなら綾乃が教えてあげればよかったんじゃないかと思うけど……。
でも他にクリスマスに特別言わなきゃいけないことなんてないよね?
「ユア」
「ん?」
「メリークリスマス」
「……」
何か納得したような、していないような顔で頷くと、クルトは早速私に向かってその言葉を放った。
「うん、メリークリスマス。まぁ、まだ少し早いけどね」
「……そうか。しかし、これは男から言うものなのだろう? だから念のために言ってみたぞ」
「え……?」
男から言う? そんなルールあったかな?
「そもそもだが……その、クリスマスとは、なんだ?」
やっぱり何か違和感を覚えるけど、クルトはクリスマスというもの自体をよくわかっていないのだ。
そっか、異世界にキリストはいないよね。
「んーと、十二月二十五日がクリスマスなんだけど……この世界の神の子的なすごい人の誕生を祝う日?」
言いながら、その説明で合っているのか自分でも少し不安になる。
「ほう……なるほど。やはりこの世界にも神がいるのだな」
「うん……私は会ったことないけどね。まぁ、日本ではそれにかこつけてご馳走を食べたりケーキを食べたり……大切な人と過ごしたり……する日、なのかな?」
疑問系になってしまうのは、私にはクリスマスに家族とお祝いをした記憶も恋人と過ごした経験もないから。
これはあくまで世間一般の私のイメージ。
まぁ、兄や綾乃たちと一緒にケーキを食べたりはしているし、そんなに悲しくはないけど。
「なるほど。それでパーティーをするのか」
「あとは、クリスマスの夜にはサンタさんがプレゼントを持って来てくれたりもするよ」
「サンタ殿……とは、誰だ?」
サンタ殿か、誰かと聞かれるとこれもまた難しい質問だなぁ……。
「サンタクロースっていう、もこもこの白い髭を生やして赤い服を着たオジサンが、一般的なサンタさんのイメージかなぁ」
「もこもこの髭……赤い服……」
「そう。それで、トナカイに引いてもらうソリに乗ってやってきて、夜寝ている間にプレゼントを置いていくのよ」
「……もこもこの髭の男が……寝ている間にやってくる……だと!?」
「あ……」
なんとも言えない衝撃的な顔をして、左の腰辺りに右手を当てるクルトは、たぶん癖で剣に触れようとしたのだと思う。
もちろんそんな物騒なものはクローゼットの奥にしまってあるけど。
「その言い方は少し語弊があるかも……。んーと、いい子にしてるとサンタさんがご褒美にプレゼントを持ってきてくれるんだけどね」
「いい子……では、ユアのところにも来るのか!? 髭を生やしたサンタクロース殿が……!!」
「え……あ、いや、私のところには来ないよ」
「なぜだ? ユアはいい子じゃないか!!」
「ありがとう。でも私くらい大人になると、もう来ないのよ」
「……大人のところには来ない……そう、か……」
何よその顔。やっぱり何か誤解してない?
サンタさんはクルトが思っているような変態でも変質者でもないからね。
「まぁ、サンタさんって言ってもたくさんいて、実は身近にいるのかもしれないのよ」
「サンタ殿が身近に?」
「うん。というか、寝てるときにやってくるから、その正体は見ちゃいけないの。まぁ、私には子供の頃からサンタさんなんていなかったけどね」
苦笑いを浮かべて言うと、その言葉にクルトは顔をしかめた。
「ユアはいい子ではなかったのか?」
「……うん、そうなのかも」
「信じられんな」
「……」
クルトの純粋な瞳に、私はなんて答えたらいいのかわからなかった。
やっぱりサンタクロースなんて実在しない。
私にとっては物語の中の王子様と同じ。関係のない、遠い存在の人。
……まぁ、異世界の騎士は現れたけどね。
クルトはいまいちよくわかっていないような顔をして顎に手を当てていた。
「まぁ、いいよ。この話は! それよりパーティーの準備をしなくちゃね」
とにかく、これは明るい話ではない。それに昔のことはもういい。私には信頼できる友達がいるから、家族が一緒じゃなくても構わないのだ。
*
「それで、結局ケーキにするの?」
「うん」
それは十二月二十四日の、午後一時半。
二学期の終業式を終えたその日、私はスーパーで買い物をして、綾乃の家に寄っていた。
今日は綾乃と友香とその彼氏、そしてクルトと夜勤明けで休みの兄と私の六人でクリスマスパーティーをすることになっている。
せっかくのクリスマスだから、クルトに何かプレゼントをしたくて色々考えた。
こういうのは気持ちが大切だと思うし、クルトがこっちの世界で必要なものは大体買って揃えた。新しく買うのもなんか違う気がする。
だからプレゼントは私の得意分野の料理で、作ったことがないケーキに挑戦することにした。
「うちで作るのはいいけど、いつ渡すの? 約束は六時だよ」
「うん……とりあえずできたらすぐ家帰って、こっそり冷蔵庫にしまうから、綾乃も協力してね」
「はいはい」
料理が得意とは言え、お菓子作りは普段あまりしない。
なんたってお菓子は作るより、食べる側。
だから少し不安だけどそういうことも含めて〝気持ち〟だと思う。
スマホでケーキのレシピを調べて、なんとかそれは時間内に完成した。




