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35.未だに慣れないこの世界(※クルト視点)

「ねぇ、クルト君!」

「ん?」

「実際、結愛とはどうなってるの?」


 今日は珍しくユアが友人を連れて帰ってきた。

 彼女たちには以前学校にユアを迎えに行ったときに会っているし、アヤノとは一緒に遊園地に行った。帰りは別々だったが。


「……どう、とは?」


 ユアが着替えてくると言って二階へ上がっていくのを見届けると、俺の隣に座っていたアヤノが少し怒ったような顔で問うてきた。


 もう一人のトモカという子も真剣な表情で俺の隣を囲う。


「もう! そんなことじゃ他の男に結愛取られちゃうよ! クリスマスも近いし、あの子を狙ってる男子って結構多いんだからね!」

「……クリスマス?」


 アヤノの言葉に、聞き覚えのあるその単語を繰り返した。

 確か最近、テレビでもよく耳にする言葉だ。


「え……まさか、クルト君クリスマスも知らないの!?」

「あ……、いや……………まさか。わかっているさ」


 一瞬固まってしまったが、なんとなくここは知っているふりをしておいたほうが賢明だろうと判断した。


「そう? そうだよね、クリスマスって世界共通のイベントだよね。ならいいけど……。いい? いくらあの子でも、さすがに高校最後のクリスマスくらい彼氏と過ごしたいはずなんだから! ちゃんとクルト君のほうから言うことは言ってあげてよ!」

「ああ、わかってる……」


 言うこと? 言うこととは、なんのことだろうか?


 一人で頭を悩ませたが、彼女たちが怒っているように見えたからそこは流すことにした。

 余計なことを言ってユアを怒らせても困るし、後でユアに聞いてみればいいのだ。


「クルト君って肉食っぽいのに意外とヘタレよね」


 そしてまた、聞き覚えのある単語を口にするアヤノ。

 前にユアにも言われた。


「下手……それは、どういう意味だ?」

「え? ヘタレ?」

「ああ、ユアにも言われたことがあるんだが……」


 その言葉の意味を尋ねると、アヤノはなぜかにんまりと笑った。


「そう、結愛に言われたの……ふふ、それはつまりね、結愛はクルト君のほうから来てくれるのを待ってるってことよ!」

「……俺を待っている?」

「そう! 一緒に住んでるんだから、琉生君が夜勤でいないときとか、チャンスはいくらでもあるでしょう?」


 片目を閉じて意味深なことを呟くアヤノと、にやにやと笑っているトモカ。

 自分より若い女性二人を前に、俺はつい苦笑いを返してしまう。


「いやぁ、でも待っているという感じはしないが……」

「待ってるに決まってるじゃない! どう見ても結愛にとってクルト君は特別よ!」

「クルト君、そんなにイケメンなのに女心がわからないの?」

「えっ、え……っ?」


 右からも左からも強く言い切られ、どちらを向いていいのかわからず左右に視線を振る。


「誰が待ってるって?」

「わっ、結愛! おかえり」


 だが後ろから聞こえてきた声に、その存在を忘れていたのではないかと思うほどビクリと肩を揺らして、アヤノがしがみつくように俺の腕に触れた。


「……」


 その手に視線を向けて、ユアが一瞬つまらなそうに眉を寄せたことには俺も気づいた。


 ……もしかして、本当にヤキモチを焼いているのか……?


「結愛ちゃんっ、そのセーター可愛いね! この前買ったやつでしょ?」

「……うん、そうだよ」


 とぼとぼ歩いてもう一つのソファに腰を降ろしたユアの隣にアヤノも素早く移動して、機嫌を取るようにその服を褒める。


 上から太ももの下までしかない、毛糸で編まれたワンピース。


 確かに、可愛い……。

 可愛いが……しかし。


 この世界の女性は男の穿き物のようなズボンを普通に穿く。

 ユアも家ではよくそれを好んで着ているが、学校へ行くときや友人たちと遊ぶときはこういう丈の短い服を着るから、正直未だに目のやり場に困ってしまう。


 黒いタイツを穿いてはいるが、どうしてもその細くて女性らしい脚に視線が向いてしまいそうになる……が、見てはいけないのだったな。


 ……うーん……本当に慣れない。


「あ、そうだ! 今年のクリスマスはみんなでパーティーしようよ!」

「みんなって?」

「もちろんクルト君も! あ、琉生君も誘ってみよう」


 そんな提案をしたのは、アヤノだった。


「んんー、でもお兄ちゃんは忙しそうだし、無理だと思うなぁ……クルトも男が一人って、気まずいだろうから私たちだけで――」


 言いながら、ちらりとこちらに視線を向けるユアは、おそらく俺がみんなの前で余計なことを言ったりしないか心配しているのだろう。


「何言ってるのよ!! 絶対クルト君も参加して!」

「そうだよ、私も彼氏誘ってみるから」

「クルト君がいないと意味ないんだからね!」

「……え?」


 意味がないとはどういうことだろうか。


「クルト君って仕事してないんでしょう? じゃあ暇よね? それとも彼女いるの?」

「いや、いないが……」

「じゃあ参加! 決定!!」


 当たり前でしょうと続ける彼女たちにもう一度ユアの顔を窺うと、声に出さないように息を吐いたところだった。


「あ、琉生君は私から誘ってみるから」

「……わかった」

「じゃあ決まり! 楽しみぃ!」

「……」


 トモカは恋人がいるのか。アヤノはルイのことが好きなのだろうか……?


 それにしてもこの国の若い女性(特に彼女たち)はいつも本当に元気で賑やかなことが好きだ。


 クリスマスパーティーとやらがそんなに楽しみなのか、その後も当日の相談と言いながら、同じようなことを暗くなるまで延々と話していた。



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