33.見られた(※クルト視点)
いつだかテレビで見た、遊園地という娯楽場に、ユアやルイたちと行くことになった。
ユアが好きなくま犬のさつきくんというキャラクターがいるらしく、ユアはとても楽しそうにしていた。
確か前にユアに読むように言われた雑誌にもそのデスティニーワールドの記事が載っていたような気がして、日曜日まで時間があった俺は改めてその記事を読んでみた。
どうやら恋人と行きたいデート場所で人気を誇っているらしく、観覧車という丸い乗り物の一番上でキスをすると永遠に結ばれると言われているらしいということが書かれていた。
どんなすごい魔法なのかと思ったが、ユアに聞いたらまた「魔法なんてない!」と言われるのだろか。
俺のいた世界では想像もつかないような施設の数々に何度も言葉を失ったが、ユアがとても楽しそうに笑っているのを見ると俺もただただ心が和んだ。
ルイが乗り物に酔ってしまったことがきっかけで俺はユアと二人で園内を回れることになったが、これはデートではないだろうか?
ここは人気のデートスポットだし、他にもたくさんの恋人がいた。
皆手を繋いだり、身を寄せ合ってとても幸せそうにしている。
そうか……ここでは堂々と触れ合うことが許されているらしい。
人も多くなってきたのではぐれないようにユアの手を握り、俺もこの世界のデート気分を味わった。
まだ慣れないことがたくさんあるが、ユアが笑ってくれていれば俺はそれだけでいい。
ユアが楽しそうならば、俺も楽しい。
雑誌に書いていた観覧車に乗るおすすめの時間帯……つまり日が暮れてきた頃、ユアを観覧車に誘った。
二人きりで観覧車に乗るということには成功したが、どんどん高くなるにつれて本当に大丈夫なのか!? という不安に襲われた。
しかし向かいでユアがクスクスと楽しそうに笑っているのを見て、やはり気持ちが和らいでいった。
ユアの笑顔が可愛くて、二人きりの狭い密室の空間に別の意味で緊張を覚えた。
「見て、クルト。すごく綺麗だよ」
瞳を輝かせてうっとりと窓にくっついて外を眺めているユアを、俺は二つの意味でドキドキしながら見つめた。
純粋な笑顔を見せるユアの顔が可愛くて、愛おしくて……。
このまま時間が止まってしまえばいいと思った。
この小さな入れ物の中で、高い空の上。
まるでこの世界に俺とユアの二人きりになってしまったような気がして、不思議な感覚になった。
ああ、俺はユアが好きだ――。
とっくの前から気づいていたそんな気持ちが、自然と溢れ出た。
ルイに止められたとしても、俺がこの世界の人間でないとしても。
この気持ちに嘘はつけない。
改めてそれを自覚し、彼女の隣に移動した。
少しでもユアの近くにいたい。
一緒にいられる今だけでも、せめて。
近すぎると言って頰を赤く染めるユアは、俺のことをどう思っているのだろうか。
彼女は優しい女性だから、時々不安になるのだ。
この気持ちを伝えて、ユアの気持ちも聞いてみたい。
そうすれば、俺は安心できるのだろうか?
「……クルト?」
気づけば彼女を窓際に追いやるように身を寄せ、顔の横に手をついていた。
もうすぐ頂上だろう。
想いを告げなくても、キスをすれば魔法がかかって俺たちは永遠に結ばれるのだろうか。
俺はもう、あとに引けないくらいユアのことが好きだ。
元の世界になど、帰れなくてもいいと思っているほどに。
「……」
だが、今はまだその唇に口づけできるほど自信がない。
だから彼女の白く小さな手を取って、そのなめらかな手の甲に誓うように口づけを送った。
俺はこの先何があっても、ユアのことを守ると、心の中で誓ったのだ。
*
すっかり日が暮れた頃、俺たちは家に帰ることにした。
帰り際、ユアがさつきくんとさなえちゃんの小さなマスコットを買った。
どうやらキーホルダーというそれを家の鍵につけるらしい。
ユアはやはりさなえちゃんのほうを俺の鍵につけて「おそろい」と可愛く笑った。
家に着いたが、まだルイは帰っていなかった。
ユアにアヤノから連絡がきていたようで、二人で夕飯を食べてくるらしい。
「クルト先にお風呂いいよ」
「ああ」
「今日はさすがに疲れたでしょう? ゆっくり入ってきてね」
「俺は騎士だぞ? 確かに最近は鍛錬を怠っているが、家の中でトレーニングはしている。侮るなよ」
「はいはい」
風呂に湯が溜まると、ユアはいつものように俺を先に風呂へと促す。
脱衣所に行き、服を脱ぎ、鏡の前でふと身体を眺めた。
「……」
やはりこちらの世界に来てからは、以前に比べると少しサボってしまっているからな……。
いくらこの世界が平和だといえ、もう少し鍛えなければ。
何気なく腕に触れ、以前より若干筋肉が落ちていることに小さな不安を感じた。
剣もユアにしまわれてしまったのでろくに素振りすらしていないのだ。
こんなことでは騎士として戦えなくなってしまうかもしれな――
〝ガラ――〟
「……」
「……」
いつまでものんびりしていた俺が悪かったのだろうか。
無遠慮に脱衣所の引き戸が開けられ、手にタオルの山を抱えたユアと目が合った。
「え――あ……ごめん、もう入ったかと――」
パクパクと口を開いたユアが言い訳するようにそう言って、視線だけを一瞬下げた。
「ごめん……っ!!」
そしてその瞬間、顔を真っ赤にして勢いよく扉が閉まる。
「……――」
み、見られた……!?
ああ、そんな……いや、俺が悪いのだ。いつまでも浴室に入らないでいた、俺が……。
しかし、ノックくらいしてくれても…………。
「くっ……」
く………………。
お読みいただきありがとうございますm(*_ _)m
細かく章分けしていますが、ここまでが前半です。
後半の内容も見直してから一気に上げていこうと思うので、再開まで少しお待ちくださいm(*_ _)m




