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28.早く行ってやらなければ(※クルト視点)

 ユアの通う学校で祭りをやると聞き、俺も遊びにやってきた。


 ユアの自由時間に彼女が日頃学んでいる校内を見て回り、タコヤキという美味いものを食べた。

 また好物が増えてしまった。


 この世界は本当に美味しい食べ物が多い。

 もし俺の世界に戻れたなら、向こうでもぜひ食べたいものだ。



 クラスの出し物を片付けてくるというユアと一時的に離れた俺だが、行く先々で女性に声をかけられた。


『結愛の従兄さんですよね?』

『二人って付き合ってるんですか?』

『一人なら一緒に回りません?』

『彼女はいますか?』

『連絡先教えてください』

『今夜空いてますか?』


 ――などなど。

 この世界の女性は着ている服といい、とても積極的だ。


 だが、俺は知っている。

〝高校生〟というものに手を出すのは、犯罪らしい。


 ドラマとかいうやつで言っていた。

 成人済みの者が、十八歳未満の者に手を出すと、罪になるらしいのだ。

 ユアも確か十七歳だったから、俺がユアに手を出すと捕まるのだろうか……。


 この国は法律が厳しく、すぐに捕まってしまうと以前ユアも言っていた。

 だから俺は、ユアに手を出すことはできないのだ。

 少なくても、ユアが十八歳になるまでは。


 ……ユアの誕生日はいつだろうか?



「――時岡結愛を探してるの?」



 そんなことを考えながら声をかけてくる女性たちを振り切りユアの教室まで戻ると、彼女を見つける前に後ろからまた女性に声をかけられた。


 だがこの言葉は先ほどまでの俺を誘うようなものとは違ったから、素直に振り返る。


 声をかけてきたのはユアと同じ制服を着た、髪色の明るい女性だった。

 おそらくユアと同じ歳なのだろうが、ユアと違ってしっかりと化粧をしており、なんとなく派手な印象を受けた。


「ああ……」

「あの子なら、さっき悠真と二人で保健室にいたけど」

「保健室?」


 とは、確か具合の悪い者が休む救護室のようなところだったな。

 これもドラマで見たぞ。


 しかし、ユウマと二人で……?


 ユウマはユアのことが好きな、ユアと同い年の男だ。

 以前何度か会っている、あの茶色い髪の、どこか軽そうな男の顔が頭に浮かぶ。


「保健の先生もいなかったし、やばいと思うよ」

「やばい?」

「悠真が手ぇ早いの知ってるでしょ? 悠真があの子のこと好きだってことも」


 彼女が何を言いたいのか察し、俺の中で何かがざわつく。


「……二人の他には、誰もいないのか?」

「いなかったよ」


 保健室というところには、ベッドがあるはずだ。そんな部屋に男と二人……、とは。


 ピンチではないか!!!


 すぐに行ってやらねばと駆け出せば、彼女が更に続けた。


「行っても無駄だよ。鍵、かけられてたから」

「……なに?」

「やばいよね、学校でとか。ほんとないわ。でもチャラ男とビッチだし、あり得なくもないか。あなたもあんな子、早く別れちゃいなよ」


 ユアが、男と鍵のかかった部屋で二人きり……!?

 彼女が言った言葉の意味をすべて理解したわけではないが、何かユアを侮辱したということはわかった。


「俺たちは付き合ってなどいない。しかし、それならば尚のこと早く行ってやらなければ」

「は? 話聞いてた? あの女はビッチなんだって。あなた騙されてるだけだから、やめなよ。今行ってもきっと真っ最中だから」

「――っ」


 今のはわかったぞ。女性のくせに、なんということを言うか。

 そんなことはあり得ないし、ユウマが無理やりユアにそのようなことをすると言うのなら、そうなる前に助けてやらなければ。


「保健室はどこだ!?」

「……ねぇ、あんた話聞いてる?」


 二人が一緒にいることは教えてくれたのだが、肝心なその場所を教える気がないのか彼女は眉をひそめて怪訝そうに俺を見上げた。



「――あー、やっぱりおまえか、理沙。結愛ちゃんのふりして俺を呼んだの」

「え……悠真!?」


 しかし、視線の向こうに渦中の人物が姿を見せた。隣にはユアもいて、俺はほっと胸を撫で下ろす。


「結愛ちゃんに呼び出されたのかと思って浮かれちゃったじゃん」


 ユウマは怠そうにポケットに手を突っ込み、リサと呼ばれたこの女性を鋭く睨みつけている。どうやら怒っているようだ。


「がっかり。どうしてくれんの? 俺のこの気持ち」

「で、でも、時岡結愛と二人きりだったんだから、いいことあったよね……? 悠真だもん、キスくらいはしたんでしょ……?」


 弱々しく紡がれた声が、先ほどより高く、少し震えている。

 直感で、彼女はユウマのことが好きなのではないかと感じた。それにしては行動が矛盾しているが……。


「は?」

「え?」

「おまえ、俺のことなんだと思ってんの?」

「何って……」


 しかしユウマは彼女とは反対に声を更に低くする。

 ユウマの隣にいるユアと目が合うが、彼女は不安そうに彼らを窺っていた。


「しねーよ。好きな子が他の男を想ってんのわかってて、なんでそんなことできんの?」

「でも……私にはすぐ手を出したじゃん!!」

「それはおまえが望んだからな。残念ながら、結愛ちゃんは手も触らせてくれなかったよ」


 それを聞いて、俺も安心する。

 話を聞いたところ、おそらくユウマはこの女にユアを偽った手紙か何かで呼び出されたのだろう。

 ユアも、きっと彼女によって保健室へと導かれたのだろうな。


「……っ何よ、純情ぶっちゃって! この人とも付き合ってないとか言ってるらしいけど、あり得なくない!? なんなのよ、あんた! この人も悠真のこともキープして、他にも男探してるわけ!?」

「は……?」


 片付けの終わったらしいこの教室の前には、もう人が少ない。

 それにしても大声で叫んだ彼女の声が辺りに響き、ユウマが不愉快に顔をしかめた。俺にもすぐに怒りが湧いてくる。


「あんたみたいな何もわかりませんって顔した女が一番むかつくんだよ!! さっさと悠真にヤられて、この人にも振られればいいのに……!」


 とても女性とは思えないことを口走った彼女は、手を振り上げてユアの頰を叩いた。

 パチン――と冷たい音が廊下に響き、俺はすかさずユアに駆け寄る。


 いくら女性同士のことでも、手を上げるのは許せない。ユアの騎士として、俺が彼女を守らなければ――。


 しかし、俺よりも早く顔を上げたユアが、素早く手を動かした。



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