21.映画のような恋をしよう
「あ、そうだ。なんか映画借りて帰ろ」
ラーメンが食べてみたいと言っていたクルトを連れて、あの後近くにある評判のお店に寄った。
クルトみたいな人がラーメン屋にいるのはなんだか違和感しかなかったけど、相変わらず彼は他の女性客やすれ違う人たちから「かっこいい……」と囁かれていた。
ラーメンを初めて食べたクルトはその美味しさにとても感動していた。
残念ながら箸を使うのはまだ下手くそだし、上手に麺を啜ることもできていなかったけど、それは家で練習中なのである。
「エーガ……つまり大きなテレビだな? あれは借りられるものなのか!?」
クルトもだいぶこっちの世界のことをわかってきたと思うけど、まだたまにこういうことがあるから私としては新鮮で面白い。
「うーんと、その大きなテレビで上映していたものを、小さなディスクで見れるのよ」
「なに!? どういうことだ!? 映像記録の魔法とは……それを行う者はかなりの手練れだな」
「……そうだね」
魔法はないってしつこいくらい言ってるんだけど。
まぁ、確かに魔術師っぽい感じはあるよね。だからもうそれでいいや。
適当に相槌を打って、レンタルDVDショップに寄る。
明日は土曜日。
だから今夜は少しくらい夜更かしをしても平気だから、観たかったファンタジー映画を借りようと思う。
「クルトも観たいのあったら言って。一緒に借りるから」
「ああ……」
初めてのお店に困惑しつつも興味深げにきょろきょろと棚を眺めているクルトに小さく頰が緩みつつ、一人にしても大丈夫だろうと、私は目的の棚に向かった。
「えーっと、あ。あった、これこれ!」
お目当てのDVDを手に取り、すぐにクルトを探す。
「お兄さんちょーかっこいいですね! 私たちと一緒に映画鑑賞しませんか?」
「……」
ちょっと離れた隙に、これだ。
しかもこんなところで逆ナンされるなんて、クルトすごすぎ。
クルトは目立つからすぐに見つけられたけど、可愛いお姉さん二人に掴まっていた。
クルトが最初に倒れていたとき、彼があんな格好じゃなく、わけのわからないことを言っていなければ、私じゃなくても喜んで助けてくれた人はたくさんいたんだろうなと、思う。
今からでも、クルトが望むのならどこへ行っても構わないし、どこへでも行ける。
こんな、なんの力もない高校生と一緒にいなくたって……。
「お誘いありがとう。しかし俺にはもう決まった相手がいるので、失礼する」
「……」
とても紳士的にそう言ってお姉さんたちからの誘いを断ったクルトと、ぱちりと目が合った。
「ユア」
私と目を合わせて微笑んだクルトに、鼓動が高鳴る。
傍から見ても、やっぱりクルトはかっこいい。
そんなクルトの視線が、私だけに注がれている。
「……」
「ん? どうした?」
「……別に。それよりクルトは何か観たいのあった?」
「ああ――」
熱くなる顔を誤魔化すように手に持っているDVDを見つめながら聞くと、クルトは奥のほうを指差して言った。
「あの奥はなんだ? 何か特別なものを感じる。行ってみよう」
「え……」
指差した先に視線を向けると、そこには〝18〟の数字に斜めに線が入った暖簾が掛けられていた。
「あ……っ、あそこはダメ!!」
「……なぜだ?」
「あ、あそこには……そう、魔物がいるのよ! だから絶対入っちゃダメ!!」
「なに!? では俺が剣を持ってきて倒し――」
「ううん。起こしちゃいけないの! だから、早く帰ろう!」
「そ、そうか……」
そっちに足を向けようとしたクルトの腕を引っ張って、私は速やかにお店を出た。
家に帰ったらポップコーンとジュースを用意し、DVDをセットしてソファに座る。
テレビが観やすい正面に二人で座ったから、どうしてもクルトと肩を並べることになった。
「……」
距離も近くて少し緊張するけれど、相手はクルトだし。
別に気にすることはないよね。異世界から来て、電車の乗り方すら知らない箸も上手に使えない男だし。それに自分は騎士だと言い張り、私を守ろうとしてくれて……とても美味しそうにご飯を食べてくれる、超絶イケメンのクルトだから……。
「……」
「ん? どうした?」
無意識にクルトのことを見つめていたらしい私は、彼の問いかけにハッとして映画をスタートさせた。
「なんでもない! じゃあ観よっか!」
この洋画は、話題のファンタジーアクションもの。
出演している女優が大好きで、主人公の俳優もイケメンで世界的に人気の役者。
魔法も出てくるし、クルトにもわかりやすい世界観だと思う。
だから二人で集中して観ていたら、突如始まってしまったラブシーン。
邦画のラブシーンとは異なる、洋画ならではの濃厚なそのシーンに、ヒヤリと背中を汗が伝う。
「……」
「……」
愛の言葉を囁き合いながら熱い口づけを交わす画面の中の二人に、とても気まずい空気が流れる。
クルトはどう思いながら見ているのだろうか……。
クルトと二人きりの家の中でこんなシーンを観ていることに恥ずかしさを覚えつつ、そっと隣にいる彼の顔を窺ってみると、クルトも同じように私に視線だけを向けていたようで、目が合ってしまった。
「あ……」
気まずい。
何か言って誤魔化そうか。
そう思って考えてみるけれど、何も言葉が浮かばない。
「……」
それでもクルトからまっすぐに注がれる視線に目を逸らせずにいると、彼の身体が少しこっちに傾いた。
胸がドキドキする。
クルト、何を考えているの――?
もしかして、キスしようとしてる……?
いつになく真剣な表情で私を見つめているクルトに、膝の上に抱えていたクッションをギュッと抱きしめて、私も覚悟を決めかけたときだった。
「――何してる?」
「え?」
「は?」
この甘い空気を壊すように、男性の鋭い声が部屋に重たく響いた。
二人でバッとそちらに顔を向けると、腕組みをしてリビングのドアの前に立っている男性が一人。
その顔は明らかに怒っているのを堪えているという表情だった。
「……誰だ?」
「お前こそ誰だ」
クルトの呟きに、彼――琉生は苛ついた口調で反応した。
今にもその怒りが爆発しそうだ。
「……お兄ちゃん」
「…………兄、だと!?」
クルトにそれを教えた私は、今度は突然帰ってきた兄に、クルトのことをどう説明しようかと頭を悩ませた。




