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20.私の騎士様

「――結愛ちゃん、少し早いけど今日はもう上がっていいよ」


 予定の時間までまだ少しあるけど、店長が私にそう声をかけた。


「今日は暇でしたね」

「うん……それもあるけど、あの子。結愛ちゃんの友達でしょ? まだ待ってるよ。早く行ってあげな」

「……」


 健気だね~と続ける店長の視線の先には、店前の電柱のところで待っている悠真の姿。


 待ってるなら店にいればいいのに……。


 店を出てから、彼はもう何時間もああして外で立っている。

 さすがに申し訳ない気持ちになって、私は急いで帰り支度を整えた。



「――悠真君」


 店を出て、悠真のもとに駆け寄る。


「結愛ちゃん!」


 私を見て、悠真はとても嬉しそうな顔で笑った。

 その笑顔に、私の胸はズキリと痛む。


「お疲れ様!」

「……」


 私はこれから、この人を振らなければならない。

 きっと彼もわかっているんだと思う。それなのに、悠真はいつも通りに笑ってる。


「悠真君、私」

「俺さぁ、昔っからモテたんだよねぇ」

「……」


 私が話そうとしたのに、突然のモテ自慢。

 ……なんというか、とても悠真らしい。


「女のほうから寄ってくるから、そう? って感じで付き合うじゃん。そしたらスゲー束縛とかされて、ちょっと他の女の子と話すだけでも泣かれたりとかして……面倒くさくなってすぐ別れんの。その繰り返し」

「……」


 だけどそれがただの自慢じゃないと気づいて、おとなしく聞いてあげることにする。


「結愛ちゃんのことは前から可愛いなーとは思ってたんだけど、俺と関わりなかったじゃん? だけどあの……ほら、名前わかんないけど、体育祭のときになんかいじめられてる奴いたじゃん? お前のせいで負けたんだーとか責められて。みんな笑ったり知らんぷりだったのに、結愛ちゃんだけが手を差し伸べにいってさ。俺ちょっと感動しちゃったんだよね」


 そんなこともあったかもしれない。

 うちのクラスの男子が、リレーで転んでバトンを落として……そのせいで負けたと、他の男子たちに責められていた。

 その子はおとなしい生徒で、ろくに言い返せなくて、そのまま肩を突き飛ばされて転んだんだ。


 その子に「大丈夫?」と声をかけた記憶がある。

 でも確か私だけじゃなくて綾乃と一緒だったはず。


「俺、初めて自分からこの子と付き合いたいって思った。そんな子は結愛ちゃんだけ」


 悠真は小さく肩を震わせながら、両手をポケットに突っ込んだまままっすぐに私を見つめて言った。


「好きだよ、結愛ちゃん。俺の彼女になって」

「……――」


 悠真のこれほど真剣な表情は初めて見た。

 そんなに想ってくれるのは、ありがたい。

 何度も何度もまっすぐに気持ちを伝えてくれるのも、すごいと思う。


 だけど、やっぱり私は……。


「ごめんなさい。私はあなたと付き合うことはできません」


 ちゃんと考えた。悠真という人のことを、考えた。

 いつだったか理沙に絡まれていたところを助けてくれたこともあったし、こうして待っていてくれたのも、軽い気持ちじゃないんだろうなって、伝わった。


 だけど、私が好きなのは悠真じゃない。


「そっか……そっかぁーやっぱりダメか」

「……ごめん」

「いやぁ、結愛ちゃん優しいから、こうやって待ってたら同情でも付き合ってくれないかなって思ってたんだけど……やっぱダメか」


 何よそれ……わざと外で待ってたってこと?


「付き合えたら好きになってもらう自信あったんだけどなー。ねぇ、お試しでもいいから付き合ってみない?」

「……そんなこと、しないよ」

「だよね。だって結愛ちゃんには好きな奴、いるもんね」

「え……っ」

「迎えに来たみたいだよ、結愛ちゃんの王子様」

「……」


 悠真の視線の先に誰かがいることに気がついて振り向くと、そこにはクルトが立っていた。


「じゃあ、俺は帰るけど、気が変わったらいつでも言ってね~、そのときもし付き合ってる子がいても、速攻で別れるから!」

「……そんなこと言わないでよ」


 あはは、と笑いながら、どこまで冗談かわからない態度で、悠真はひらひらと手を振って帰っていった。


「……クルト、もしかして今の聞いてた?」

「俺は王子ではなく、騎士だが」

「……え? あ、うん……そうだね」


 どこか緊張感のないクルトの言葉にガクッと肩を落とし、同時に気が抜けてプッと笑ってしまう。


「帰ろっか」

「ああ、今日は早く終わったんだな」

「クルト、いつもこんなに早く来てくれてるの? もうちょっとゆっくりでいいよ。いつも待ってたでしょう」

「俺は構わない。こうして早く終わることもあるのなら、もっと早く来ていなければな」

「だから、いいってば」


 クルトといると、他の人では感じない高揚感を覚える。

 クルトは王子様ではないけれど、私の大切な騎士様だ。



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