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19.俺のこと考えてみてほしい

「でも悠真が犯人じゃなかったんだね」


 あれから約十日、私はすっかり平穏な学校生活を取り戻していた。


 そんなある日の昼休み、いつもの三人で固まってお弁当を食べていると、久しぶりに綾乃がそのことを口にした。


「さすがにそこまではしないでしょ」

「だって悠真も結構しつこいよね? 理沙とは本当に別れたみたいだけど、誰とも付き合ってないらしいよ。あの悠真に彼女がいないとか、あり得ないって」

「いい加減諦めればいいのに。結愛にはクルト君がいるんだし」

「そうそう、あれを見ても引かないとか、悠真も相当だよ」

「だから、クルトはそんなんじゃないったら……」


 未だにみんな、クルトと私の仲を勘ぐっている。

 彼氏じゃないって何度も言ってるのに。


「でも、なんでもない女を毎日迎えに来たりしないよね?」

「それは……あんなことがあったばかりだったから」

「けど、クルト君も彼女いないんでしょ?」

「さぁ? ……少なくとも今はいないと思うけど」


 その質問には、曖昧な答え方をした。

 だって、あっちではどうだったのか聞いてないし。


 なんとなくもやもやした気持ちを抱えながら、お弁当の卵焼きをぱくりと口に運ぶ。


「クルト君は結愛と付き合いたいんじゃないの?」

「ええ!?」


 そして、とうとう確信的な発言をした友香の言葉に、私の鼓動はドキリと大きく揺れる。


「そんなわけないって!」

「どうして? クルト君から何か感じないの?」

「別に何も……」

「でも従兄って結婚できるらしいよ?」

「だから……、そういう仲じゃないの……っ!」


 あれ以来、私には歳上の彼氏がいるという偽りの噂が定着してしまったのは知っている。

 学校に来るのはもう大丈夫だからとなんとか言い聞かせ、お迎えはバイトの後だけになったのに、その噂はなくならない。


 面倒だからあえて否定して回るようなことはしていないけど、仲のいい友達にまでこうしてからかわれてしまう始末。


「私はお似合いだと思うけど。クルト君、イケメンなのに悠真と違ってそれが鼻につく感じしないし、結愛のこと大事に思ってるの伝わるし」

「……」


 もう、否定するのも疲れた。


 そう心の中で言い訳をして、黙ったままお弁当を頰張ったけど、本当はドキドキしている私がいる。


 ……なんで?


 あんな変な奴、好きになんてなってないから。

 というか、好きになっちゃダメだし。


 クルトは別の世界の人だから、いずれ自分の世界に帰ってしまうかもしれない。それに、もしかしたら本当に向こうでは恋人がいたかもしれないし。


 ……そういえば私は、クルトのことを何も知らない。




     *




「結愛ちゃん」

「……いらっしゃいませ」


 その日、バイト先のカフェに悠真が来た。

 昼休みに彼の噂をしていただけに、心臓がドキリと嫌な音を立てる。


「結愛ちゃん制服似合ってるね~すげぇ可愛い」


 っていうか、もちろん私は悠真にバイト先を教えていない。


「ご注文は?」

「結愛ちゃん」

「……冷やかしならお帰りください」

「ジョーダンじゃん! 怒んないでよ! じゃあ、クリームソーダちょうだい」

「……かしこまりました」


 もう、なんで来るかな……。

 きっと誰かにここを聞いたんだろうけど、私の態度を見て迷惑だって気づかないのかな? モテるなら女心もそれなりにわかるでしょ、きっと。


 っていうか私なんかに構わないで、さっさと他の女のところに行けばいいのに。



「お待たせしました――クリームソーダです」

「結愛ちゃん」


 グラスを置いた瞬間、悠真が私の手に触れた。

 ビクッと揺れて、危なくグラスを倒しそうになる。


「ねぇ、結愛ちゃんってあの人と付き合ってるの?」

「……」


 キッと悠真を睨んだら、とても真剣な眼差しが返ってきた。


〝あの人〟とは、クルトのことだろう。


「……付き合ってない」


 その視線があまりに真剣だったから、私は正直に答えてしまった。

 付き合ってるって言えば、悠真はこれ以上つきまとってこないかもしれないのに。


「じゃあ、俺と付き合おうよ。俺軽く見られるけど、結愛ちゃんには本気だから。理沙ともちゃんと終わらせたし、他の女も全員切ったよ」

「……」


 やっぱり理沙以外にも女がいたんかい……!


 っていうツッコミは心の中だけで我慢して、悠真の目を見つめ返す。


「私は――」

「待って」

「え?」

「今答えないで。俺の最後のお願い……少しでいいから、俺のことちゃんと考えてみてほしい」


 そう言った悠真の目から、緊張しているのが伝わってきた。


 確かに私は彼のことを真剣に考えたことはない。

 考えるでもなく、好きではないと思っていたから。


「……わかった」

「ありがとう。ごめんね、バイト先まで来ちゃって。いただきます」


 私が頷くと、悠真はいつものように緩い笑顔を作って私から手を離した。



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